Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


その「やりたいこと」は、本当に「やりたいこと」なのか?

その「やりたいこと」は、本当に「やりたいこと」なのか?
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

「やりたいことが見つからない」

よく聞く言葉です。

「やりたいこと」を明確にしていく上でカギとなるもののひとつが、その人が普段から「大切にしている価値」です。

実際、コーチングでもクライアントのやりたいことを深堀りするときに「価値」の視点からみていくことが多くあります。

では、どうしたら「価値」を発見したり、認識したりすることはできるのでしょうか。

大切な「価値」をつまびらかにする「問い」とは?

もちろん、「何を大切にしているのか?」「何をやりたいのか?」と正面から聞くことはできます。しかし、なかなかうまく言葉にできないことも多いのではないでしょうか。

少しトリッキーなものもありますが、価値を探索するきっかけとなる問いの一部をご紹介します。みなさんも、考えてみてください。

過去にアクセスする

  • 過去、あなたが最もやりがいを感じたことは何ですか?
  • 過去、あなたが最も時間を忘れて没頭したことは何ですか?

反応ポイントからアクセスする

  • 最近、あなたが最もイラっときたことや、怒りを感じたことは何ですか?
  • 「あなたが今後もやらないこと」で、最も後悔しそうなことは何ですか?

特殊な設定をしてみる

  • あなたがTime誌の「今年の人」に選ばれたとしたら、どういう特集内容の記事だと思いますか?
  • 自分の葬儀では、友人からどういう人と表現されたいですか?

アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏は毎朝、自分自身に以下の問いかけをしていたそうです。

「もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか?」

人それぞれにフィットする問い、そうでない問いがあると思いますが、いずれにしても、ひとりで悶々と考えるよりも対話をしながら「問いを活用して言語化」するプロセスは、一定の効果はあるのではないかと思います。

さて、クライアントの「価値を探究する」上で、私自身コーチとして大きな学びになった出来事がありました。

コーチとしてデビューしたての頃のことです。

「問い」によって「言語化」しさえすれば、価値は明確になっていくと思っていたものの、あるクライアントとのセッションで壁にぶち当たりました。

クライアントが教えてくれた「価値」を見つける全く別の視点

直属部下6名を抱えるある部長とのコーチングでした。

私には、セッションは表面上とても順調に進んでいるように見えていました。

目標を決める段階で明確になった"はず"の彼の価値は、「成長支援」「感謝」「貢献実感」でした。そして、最終的にやりたいことは「部下を主役にする」「権限委譲を通じて部下を育てる」に着地しました。

ところが、1カ月、2カ月と時間が経っても、一向に行動が変わる様子がありません。

「部下に権限を委譲する」どころか、部長自らが、ますます仕事を抱える傾向に拍車がかかりました。

  • お取引先との調整には、自ら意気揚々と出かけていく
  • お客様先で「何かあれば、いつでも自分にご連絡ください!」と伝える
  • 次年度の計画立案の際、自ら先頭になって他部門と調整する

これらは、以前の部長の行動と、なんら変わりがありません。いったい何が起こっているのか?

私には状況が把握できていませんでした。

あるセッションで彼の話をじっくりと聞いていく中で、突然、ぽつりとこんなことを言い出しました。

「結局、『いま、自分がやっていること』自体が『本当にやりたいこと』なのかもしれないです...」

一瞬、言葉を失う私をよそに、彼は続けます

「部下を支援することはやりたいことで、それ自体は間違いない」

「でも一方で、『今の仕事を徹底的にやり抜きたい』『傑出の域に達したい』という思いもあるんです」

私は動揺を隠しながら、彼の発言の背景にある「価値」について一緒に探索を始めました。

その結果、「卓越」というのが彼のたどり着いた新たな価値でした。

彼は、言葉では「権限委譲」「部下育成」を謳いながらも、知らず知らずのうちに「全く別の価値基準」を優先的に選択していたのでした。

そしてそのことを自覚した結果、先の言葉、「いま、自分がやっていることが自分のやりたいこと」という発言に繋がったのでした。

ときに言語化できない価値基準が同時に存在する

そのクライアントとの体験が私に教えてくれたことは2つありました。

ひとつは、行動の選択肢が複数あるとき、人は無意識にもそれぞれの「価値」を比較し、検証ながら選びます。ですから、その人が「実際に取っている行動」は、すでに本人の価値が反映されたものである可能性があること。

もう一つは、人が大切にしている価値基準は複数あり、ときには「相反する」ようなケースがあること。

しかも、片方の価値の存在には、意外と本人自身も気付いておらず、「言語化されない」可能性があるのではないか、ということでした。

先のクライアントは、2つの価値を認識しながら、いま優先すべき行動はどちらなのかの「再選択」を行いました。

その結果、迷いなくその後の「行動」に次のような変化が出てきました。

  • お取引先との面談は、部下のスケジュールを優先する
  • お客様先では、「何かあれば、いつでも"彼"にご連絡ください!」と部下を前面に出す
  • 他部門との調整は、すべてを部下に任せる

さて、今取っている行動が「やりたいこと」だとすると、

そこには、どんな価値が反映されていると思いますか?

みなさんは、自身の中にどんな「価値」を認識していますか?

そして今、皆さんは、どの価値を優先させることを「選んで」いますか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

ラーニング/学習 上司/部下 意識変革/行動変革 権限移譲/後継者育成

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事