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職場を活性化させる「プレイス・メーカー」
コピーしました コピーに失敗しました先日、シリコンバレーに行きました。
最先端のIT企業は組織のパフォーマンスを生み出すために何をしているのか。
それを自分の目で見るのが目的でした。
幾つかの企業を訪問するなかで、最もインスパイアされたのはNVIDIAです。
NVIDIAは、1993年に台湾系アメリカ人のジェンスン・フアンとふたりの仲間によって創業された半導体企業です。自動運転車になくてはらないと言われているGPU(Graphics Processing Unit)を世に生み出したことで有名で、近年驚異的な成長を遂げています。
サンタクララのオフィスに行ってまず驚いたのは、社屋が「スーパーフラット」であることです。
NVIDIAのオフィスは、なぜ「スーパーフラット」なのか?
1フロアで全員が仕事をしている。その人数2,500人。
窓から見える隣の広大な敷地には新社屋が建築中で、聞けばそこには3,000人が1フロアに入る予定だとか。
繋がれば1フロアに5500人!
案内をしてくださったファシリティ担当のバイスプレジデントに、真っ先に聞きました。
「なぜ1フロアなんですか?」
「創業した3人は、たくさんの話をお互いにする中で新しい製品を生み出しました。CEOのジェンソンは人の『インタラクション』こそが、イノベーションを生み出す源になると信じているんです」
バイスプレジデントは、続けてオフィス設計にまつわる様々な秘話を聞かせてくれました。
- MITとの共同研究では、同じフロアにいる人間が偶発的にお互いに出会う確率は96%。この数字はフロアが分かれると5%に落ち、ビルが分かれるとほぼ0%になる。だから1フロアにこだわった。
- ひとりの人にとって行けるトイレが1つしかないと、トイレに向かう動線が1つとなり、出会う人が少なくなる。トイレが等距離に複数あれば動線が増え、出会う人の数も増える。そこで、トイレの配置場所を慎重に設計した。
- ぱっと通りかかった人とすぐにミーティングができるように、すべての従業員の机にホワイトボードを据え付けた。
どのようなフロア設計にするとどれだけインタラクションが発生するのか、それを全て事前に計算し、それから実際の建築に移ったと、バイスプレジデントは誇らしげに語ってくれました。
「ひとつ屋根の下で、全ての人がインタラクションを交わせる職場」
これが、彼らが信じる組織のパフォーマンスを最大化するためのオフィス設計の思想でした。
ある経営者の自宅設計コンセプト
ハーバード大学が創設したNational Preparedness Leadership Initiative (NPLI、国家準備リーダーシップ構想)リサーチ部門のディレクター、エリック・マクノルティ氏(Eric J. McNulty)は、最高のパフォーマンスを生み出す場所を構想、構築できるリーダーを「プレイス・メーカー」と呼び、次のように述べています。
「組織が、働きがいのある場となるためには、まずその前に、最高の『場所』でなければならない。『場所』は、そこにある物理的要素が与える影響と、どんな場所にするかの方針を明確にすることから始まる。そして、最も大事なのは、人がその環境をどう感じるかを推測し予測することである」
「場所を活性化させる秘訣は、『前向きに感じられる人と人との近さ(positive proximity)』である。人と人の相互作用は、予測し計画されるが、一方で偶発的なものでもあり、冒険を伴うものでもある。予測と冒険のバランスをもってインフラは設計される。こうした『場所』は、パーティションで仕切られた活気のないオフィスとは大いに異なる。そこは、ただ働くための場所ではなく、そこに居たいと思う場所なのだ」
以前、コーチングをさせていただいた中堅企業の経営者の方がいらっしゃいます。お父さまが創業されたイベント会社を、10倍の売上規模の500億まで伸ばされた方です。
ある時、食事をしていて、話がお互いの家庭のことに及びました。彼曰く、
「娘ふたりとのコミュニケーションはとても大事にしています。だから、家を建てた時に、『コミュニケーションが起こる家』にしようと決めました」
「平屋なのですが、玄関入るといきなり大きなリビング。リビングを通らないと、娘の部屋にもどこにも行けない。だから、リビングに居さえすれば、必ず娘と会うし、話します。ふたりとも高校生ですが結構話してくれます。僕のエネルギーの源ですね」
どのような「場所」であるかが、人と人のインタラクションに影響し、人と人とのインタラクションは組織のパフォーマンスに大きな影響を与える。
であれば、リーダーは、場所にもっと気を配る「プレイス・メーカー」であるべきだと思うのです。
この「プレイス・メーカー」のことをある知り合いの部長さんに共有しました。
部長さんは、早速部内のコミュニケーションを活性化させようと、自分の机の上にコーヒーメーカーを置きました。
「コーヒー屋さん」と書かれた小さなのぼりを立て、椅子も二脚、自分の机の前に据え付けました。
そこに部下が集い、会話が起こることを願って...。
残念ながら、彼の試みは失敗しました...。
「前向きさを感じる近さ」ではなかったのかもしれません(笑)。
でも、ナイストライではないでしょうか。
まず、やってみる。
それに勝る学習方法はありません。
いきなりオフィス全体をNVIDIAのように変えることはできないでしょう。
だからといってプレイス・メーカーにはなれないと諦めるのではなく、どんな小さなことからでもトライしてみてはいかがでしょうか?
パフォーマンスの上がる職場を設計しようと思った瞬間から、部下一人ひとりの動きに今まで以上に関心が生まれると思いますので。
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【参考文献】
Eric J. McNulty, The Leadership Maker Movement
July 23, 2018
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