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インプットから始める vs. アウトプットから始める
コピーしました コピーに失敗しました突然ですが、あなたがいま、「パン屋」を始めようと思ったらどうするでしょうか?
まずはきっと、本を買ったり、パン教室に通ったり、来るべき日のために開業資金をためたりと、その日に向けた「準備」を始めるのではないでしょうか。
でも先日、面白い話を聞きました。
その人は、何よりも先に「パン屋を開業する」ことから始めたというのです。
そして、開業と同時に始めたのがパン教室。教室に生徒を集め、生徒さんと一緒にパン作りを学びながら、そこで作ったパンを販売し、運転資金にあてたというのです。
つまり、いきなりアウトプットからはじめて、後からインプットの行動をとったというわけです。
成功した中小企業の社長が後悔していること
成功している中小企業の社長の方たちに「いま、後悔していることはなんですか?」と聞いたところ、何人かの方が「さっさと起業しなかったこと」と答えました。
まず、起業する。成功した人たちに話を聞きに行くのは、その後でも良かった、と。
そうしていれば、5年位前倒しで、今のレベルを実現できていたかもしれない、というのです。
起業前からやみくもに人脈を増やし、本当に必要か分からない遠回りの準備をするよりも、会社を興してからの方が、会うべき人にピンポイントに会え、質の高いフィードバックをもらうことができ、より早く成功できていただろうというのです。
アウトプットから始め、後から必要なインプットをピンポイントで行うことは、どうやらスピードを上げる秘訣なのかもしれません。
成長スピードを上げるためにできること
たとえば、理系の科学者が新しいアイデアを実証する短い論文を書くときには、たいていの場合、まず実験をし、その結果を記述し、最後に考察を加えて論文を完成させるそうです。しかし、アウトプット優先主義の科学者は、実験結果の数字の箇所だけを空欄にした状態であらかじめ論文を書き、書き終わってから、実験して論文に反映させるという方法で生産効率を上げているということです。(※1)
仕事は、アウトプットに対して対価が支払われます。
これは誰もが理解していることでしょう。でも私たちは、勉強会やセミナーに参加したり、関連書籍を読み漁ったり、やみくもに人脈を増やしたりといったインプットを優先させがちです。
しかし、こうした数々のインプットの行動をとったあと、それをどれだけアウトプットにつなげられているでしょうか。読書やセミナーにいけば、それに満足して「成長した」と思ってはいないでしょうか。
では、「成長のスピード」はどうしたらあがるのでしょうか?
先日コーチをさせていただいた社長は、「最近は若い人がなかなか動かない」とお話をされていました。
まずは注意深く十分に学び、準備する。そうすればミスも少なく、結果が出やすい。
そんなふうに思うのかもしれません。でも、そこには落とし穴もあります。インプットをすることで安心し、アウトプットを忘れてしまうことです。まじめにインプットはしても、そこから「結果につなげる」ことをおろそかにしてしまうのです。
スイスの哲学者カール・ヒルティは、「まず何よりも肝心なのは、思いきってやり始めることである。一度ペンをとって最初の一線を引けば(中略)それでもう事柄はずっと容易になっているのである。ところが、ある人たちは、始めるのにいつも何かが足りなくて、ただ準備ばかりして(そのうしろには彼等の怠惰が隠れているのだが)、なかなか仕事にかからない」(※2)とその著作の中に書いています。
思いきって始めてみれば、何が足りないのかがわかる。そこで見つかった必要なものや足りないものを備えれば、人はより早く成長して結果も出る、ということでしょう。
みなさんは普段、メンバーに対してインプットばかりを促してはいないでしょうか?
知識不足、実力不足と感じたとしても、アウトプットを優先させる行動をとらせることが、重要ではないでしょうか。
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【参考文献】
※1 鎌田浩毅(著)、『ラクして成果が上がる理系的仕事術』、PHP新書、2006年
※2 カール・ヒルティ(著)、草間平作、大和邦太郎 (翻訳)、『幸福論』、岩波文庫、1961年
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