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ユマニチュードとコーチング

ユマニチュードとコーチング
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先日、何気なくつけていたNHKの「ガッテン!」という番組で認知症ケアの特集が目に留まりました。

画面には、目の前の人に何の反応も示さなかった重度の認知症の方が相手を認識し、表情を取り戻していく映像が流れていました。

父親の介護が始まりつつある私は、その劇的な変化にただただ驚くばかりでした。

番組では、相手を変化させるキーはアイコンタクトにあるとし、そのベースにあるケアメソッド「ユマニチュード」を紹介していました。

番組を見ながら、コーチをしている複数のクライアントの声が思い出されました。

「社員が自分から動こうとしないのです...」
「部下と1対1で話す時間はとっていますが、なかなか本音を言ってくれません...」
「部下の反応が遅くて、イライラしてしまいます...」

ユマニチュードとは?

ユマニチュードは、体育学の専門家イヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッテイ氏が考案したフランス発のケア技法です。

「人間らしさを取り戻す」という意味の造語で、「人とは何だろうか?」を考え続けることをケアの中心に置いています。

ユマニチュードの哲学では、「人とは何か」を考えるとき、「人は、そこに一緒にいる誰かに、『あなたは人間ですよ』と認められることによって人として存在することができる」ということを基盤にしています。

なぜ、ユマニチュードがコーチングに応用できるのか?

コーチングは、相手の手にしたい目標がより早く、より確度高く実現されることを目的に活用されます。

そして、そのプロセスでは、「関係性を共に築く」ことに重きが置かれます。

国際コーチング連盟が定めるコーチのコア・コンピテンシーでも、「クライアントと相互に尊敬と信頼が継続する、安全で支援的な環境を生み出す能力」が核として必要であると定義されています。

確かに、コーチングは対等な関係を前提として対話の中で相手の能力を引き出していくプロセスです。

ですから、「相手には能力がある」という尊敬や信頼が存在しないと、そもそもスタートできません。

ユマニチュードとコーチング。

相手の状況は違えど、「相手を尊重、尊敬する姿勢」がベースにあることが共通しています。

どのように変化を促すのか?

ユマニチュードは、「あなたのことを大切に思っています」ということを伝える為に「見る」「話す」「触れる」「立つ(自立を促す)」の4つを基本技術としています。

先述の番組の中では有効とされる具体的な関わり方として、以下のような関わりが紹介されていました。

  • 目を見て話す
  • てきぱきしない
  • 余計なことをしゃべる
  • 間違いを正さない

中でも私が特に注目したのは、「間違いを正さない」という点です。

短期記憶の定着が困難な認知症の方には、何十年前も前の出来事を今のことの様に話すことがあります。

しかし、たとえそれが現実とは違っていても、ご本人にとっては"真実"。

それを否定したり、叱ったりする対応は、「なぜ自分が否定されるのか、怒られるのか」と状況を理解できずに混乱が生じ、自分を否定されたマイナスの感情だけが残るため、関係性悪化につながりかねません。

この事象は、コーチングや、ひいてはマネジメントの日常的な場面においても起こりがちではないでしょうか。

「明らかにそれは間違っている!」
「いったいなんでこんな認識を持つのか?」

そんな気持ちや態度で相手の話を聞いてしまうことは、相手に「あなたは私にとって大切な存在ではない」というメッセージを発信していることと同じです。

私自身、このメソッドを知ってから、企業経営者とのコーチングでも、社内のメンバーたちとのコミュニケーションでも、より相手の"真実"に耳を傾けようという意識を持つようになりました。

「目の前の相手にとっての"真実"はなんだろうか?」

この問いを持ったことで、より興味深く相手の話を聞ける感覚が持てるようになったのです。

また、相手も"真実"である自分だけのストーリーを語っているからなのか、自分自身をより注意深く洞察しているように見えます。そして何より、楽しそうに話しているような変化を感じます。

相手にとっての"真実"を聞く。
間違いを正さない。

「人とは何か」をベースにしたユマニチュードのメソッドは、コーチングやビジネスの場面においても、他者との関係性を変えるヒントになるのではないでしょうか。

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【参考資料】
・イヴジネスト、ロゼット マレスコッティ(著)、 本田 美和子(著)、『家族のためのユマニチュード』、誠文堂新光社、2018年
・NHK 「ガッテン!」
「認知症の人が劇的変化! “アイコンタクト”パワー全開SP」

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