Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
「個の集合」と「個のつながり」はどう違うのか
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「アパッチ族のような組織をつくりたい」
数千人規模の医療機器メーカー社長、A氏が言い出しました。
アパッチ族とは、アメリカ大陸の植民地化を進めていたスペインの北上を阻んだ部族です。
中央集権型組織を持たず、ゲリラ戦を得意とし、あるリーダーが倒されると、次のリーダーがたちまち立ち現れて参戦する。使役的な「するべき」という言語をもたず、「戦いなさい」と誰かが命じることはありません。
結束はしても、個人が自らの判断で動き、負け戦の後には、必ずより強力になって反撃を仕掛けてくる。そんな部族だったそうです(※1)
アパッチ族を目指した組織
業界の熾烈な競争環境にある中、Aさんが手に入れたかったことはシンプルでした。
- 将来にわたり、業績を上げ「続けられる」組織を創ること
- 事業を創出し、組織変革を「自ら」起こす「個」を増やすこと
- 「個」の限界を超え、個と個の「つながり」を創ること
自分の在任期間中に、組織に「未来を創り出す力」「生き残り続ける力」を備えたい、そう考えたのでした。
A氏がコーチングに着目したのには理由がありました。
自身がエグゼクティブコーチからの「組織として、Aさんが本当に手に入れたいものは何か?」問い続けられたことで、「自分で気づくこと、考えること、やってみること」の大切さを実感したからです。
そして、「自分で気づく」にはコーチング以外ない、将来を担う後継たちにも広げていきたい、と確信したそうです。
A氏は覚悟を決めました。
「組織の問題を部外者視点で語るのではなく、自分自身も"問題の一部"ととらえ、組織を変えていくリーダーを増やしていく」と。
「強い個」が次々と立ち現れる組織
アパッチ族には、ジェロニモというリーダーがいました。
彼は、軍の指揮をとったわけではありません。アパッチらしく自ら行動し、規範を示しただけでした。
彼が戦い始めると、周囲はついて行きたければついていく。行きたくなければ行かない。一人ひとりが自分の意志で動きました。
A氏は、アパッチ族のように自ら動く「強い個」を増やさない限り、「組織の力」は開発され得ない、そう考えていました。
A氏は、後継者として信頼する5人を呼び、言いました。
「まず、みなさん一人ひとりに、プロのコーチがつきます。みなさんは、他部門のメンバー6人に声をかけてください。そして、彼らにコーチングをしてください」
上下関係の権限が働かない関係のなかで、6人の事業促進をサポートしてほしい、ということでした。
5人のリーダーが、計30人にコーチする。30人が「強い個」になった時には、リーダー5人はさらに一段上の「強い個」になっているだろう。
コーチングが組織の中で連鎖し、「強い個」が増えることで「強い組織」になっていく、そんなストーリーでした。
プロジェクトがスタートしてしばらく経ったころ、A氏は30人と集まりました。そして、各人が決意した事業プランや組織の変革計画にじっと耳を傾けました。
それだけではありません。
- 各人が、組織の何を、どう変えているのか?
- 誰が、自分の言葉で話しているか?
- 本気が伝わってくるのは誰か?
- 30人の能力を十分に引き出すコーチングをしているのは誰か?
こうしたことも見ていました。
「強い個」が高い次元でつながり合う
さらに1カ月が経ったころ、興味深い変化が起こり始めました。
それぞれの事業計画や組織開発が進むだけでなく、30人の間にある種の「緊張感」が漂い始めたのです。
各人が事業や改革を進めるなかで大きな困難に直面し、もがき、苦しみ、険しい表情をしています。
そんな張り詰めた空気の中で、A氏は、それまでには聞かなかった、ある声が出ていることに気づきました。
「あなたのその取り組みについて...、こちらの部門で応援できることはありますか?」
「この点については、連携すれば解決できるかもしれません。今度、関係者全員を集めて具体的に話しませんか?」
新たなチャレンジやリスクに直面するメンバー同士が、敢えて、更なるリスクを共有し始めているようでした。
30人が「個の集合」にとどまらず、「個と個」がつながり始めていくようにも見えました。
「個」と「組織」は同時に開発されていく
その様子を遠目に見ていたA氏は頷きながら言いました。
「コーチをつけることで、ジェロニモが生まれることは想定通りだった。
が、互いが苦しい中、『自分にできることは?』という発言がいたるところから上がってきたのは想定外だった。
始めから『一緒にやりなさい』では、こうはいかなかっただろう。個々のレベルや次元が上がったことで、より高いレベルでの『つながり』が生まれている。
我々は、確実に、アパッチ族に近づいている」と。
そして、最後に一言、つけ足しました。
「自分一人でなく、みんなでジェロニモになる。その決断がなければ、何も始まらなかったでしょうね」
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【参考資料】
※1 オリ・ブラフマン/ロッド・A・ベックストローム (著)、糸井 恵 (翻訳)、『ヒトデはクモよりなぜ強い』、日経BP社、2007年
・Adam Kahane,How to Collaborate When You Don't Have Consensus
April 3, 2018
・Shotter, J. Instead of'cool reason'
'Systemic thinking' and 'thinking about systems'
・HR.com 2015, LEAD2015,
March 30 - April 1, 2015, Dallas, Texas
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