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「反脆弱性」で「100年組織」をつくる
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日本は老舗企業の多い国として認知されてきました。世界最長寿企業は、日本の金剛組です。創業が578年ですから、ざっと1440年の歴史を有しています。
創業100年を超える企業は、日本に10万以上あるともいわれています。そんな長寿企業もいま、廃業・倒産の危機に見舞われています。
1980年代には30年と言われていた会社の寿命が、ますます短くなりつつあることは、読者の皆さんも日常的に実感されているのではないでしょうか。
ますます、視界不良になってきているビジネス環境下で、いかにしたら、「組織」を短命に終わらせず、持続、発展させることができるのでしょうか?
持続可能な「組織設計図」に必要なものはなにか?
そもそも、創業の時点で100年を超える「長寿組織」を戦略的に設計することは不可能なことです。
それでも、持続可能な「組織設計図」を創るとしたら、組織内外の環境変化に対応して、変化し、進化を遂げ続けられる「仕組み」を内在している組織なのではないでしょうか?
「反脆弱性」(はんぜいじゃくせい)という概念があります。
不確実性とリスクの本質について唱えた『ブラック・スワン』の著者ナシーム・ニコラス・タレブによる概念です。
タレブは説きます。「衝撃を利益に変えるものがある。そういうものは、変動性、ランダム性、無秩序、ストレスにさらされると成長・繁栄する。そして冒険、リスク、不確実性を愛する。こういう現象はちまたにあふれているというのに、『脆い』のちょうど逆に当たる単語はない。本書ではそれを『反脆(はんもろ)い』または『反脆弱』(antifragile)と形容しよう」と。
つまり、「反脆弱性」とは、「なんらかのストレスや圧力により、かえってパフォーマンスが向上する性質」のことを意味します。
私たちの体も、運動というストレスをかけることで鍛えられ、健康になります。これも「反脆弱性」の一例と言えます。
人間は、「確実性」を求めるが故に、その不確実性を排除することで、より頑健のシステムを構築にしようとしがちです。
「組織」をつくるときも、いかに効率的で安定感のある「頑健な組織」を創ることに頭を悩ませがちです。しかし、「反脆弱性」という視点から、「持続できる組織」を設計するアプローチもできるのではないでしょうか?
つまり、組織の設計段階から、意図的になんらかの不安定性やストレスを組織に埋め込むようにするのです。
「反脆弱性」を埋め込む
たとえば、同質性の高い「組織」に多様な能力や経験の人材を登用することは、「反脆弱性」的アプローチのひとつと言えます。
多様な「異質」な文化をあえて持ち込むことで、一時期的には、「組織」内、不安定さや混乱を招きますが、結果として「組織」が活性化し、創造性が開花し、ひいては持続する契機をつくりだします。
私がコーチングしていた、IT企業の役員は、変化の激しいネット業界の中で生き残っていくためには、早いスピードで新たなリーダーを開発することが急務であると強く思っていました。そこで彼がとった行動は「頻繁に人事異動をする」ことでした。
メンバーが頼りにしている大黒柱のリーダーを、躊躇なくその「組織」から引き抜くのです。すると、残されたメンバーたちはその変化に戸惑い、混乱もしますが、しだいにその穴を埋めようと必死で仕事をし、結果、次のリーダーがその「組織」に誕生するそうです。
「リーダー不在」という負荷をあえて「組織」内に起こすことで、新たなリーダーをスピード感をもって開発する。
その結果、その企業は現在まで、持続的な成長を遂げています。
持続可能な「組織」を構築するために、「反脆弱性」の視点を取り入れてみるのも一つのアイディアと言えます。
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【参考資料】
・ナシーム・ニコラス・タレブ(著)、望月衛(監修)、千葉敏生(翻訳)、『反脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』、ダイヤモンド社、2017年
・山口周、『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学』、 KADOKAWA、2018年
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