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やる気もある。共感もしてくれる。なのになぜ部下は動かないのか?

やる気もある。共感もしてくれる。なのになぜ部下は動かないのか?
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Language: English

アフリカに、こんな諺があるそうです。

「早く着きたいなら、ひとりで行け。遠くまで行きたいなら、みんなで行け」

「みんなで行く」とは、ひとりでは実現できない何かを、多くの人々の協力を仰ぎ、実現に向かって進んで行くということ。

「みんなで行く」には、魅力的な「行先」が必要になります。そして、リーダーには、その「行先」を、「みんな」に分かりやすく説明することが求められます。

会社経営になぞらえれば、「社員にビジョンを『理解・共感』してもらい、実現に向けて『行動』してもらう」となります。

これは、経営者にとって大きなテーマのひとつとなります。

ビジョンには共感。でも、動かない社員

あるメーカーのアジア代表Mさんは、数千人規模の社員を率いています。Mさんもビジョンについてコーチング時間の多くを割いたリーダーでした。

Mさんの会社は、何年も前からビジョン経営を旨とし、Mさん自身も、アジア各国で駐在員、現地社員を問わず、ビジョンへの「理解・共感」の徹底をとても大切にされていました。

ある時、セッションでMさんが言いました。

「ビジョン、ミッション、バリューなどを分かりやすく説明し、理解してもらうことはもともと得意な領域でしたし、社員にも伝わっていると思います。

でも最近は、『ビジョンを理解できているのだったら、もっと動いてくれよ』と、イラついている自分がいます」

確かに、Mさんの組織で行ったいくつかの組織調査では、ビジョンに対する社員の「理解、共感」のスコアは「高い」ものでした。

他社比較でも、エンゲージメントやロイヤリティに関するスコアも高く、自由コメントにも、「会社を成長させたい」「この会社の社員であることに誇りを感じる」といった言葉がいくつも書かれていました。

それでも、普段の社員から感じるMさんの実感値は、満足のいくものではなかったのです。

「『ビジョンに共感している』と思うなら、もっと前のめりに動いてもいいんじゃないか? 社員たちは、なぜ動かないのか?」

「理解・共感」と「行動」の間には何があるのか?

Mさんの話を聞きながら、私はコーチング研究所(CRI)のリサーチ結果を思い出しました。

組織のトップ層、いわゆるCXOクラスを対象とした「Executive Mindset Inventory」という調査があります。

経営者が回答した各種のデータから社員の「ビジョンへの理解・共感」と「ビジョン実現の行動が起きている」をスコア別に比較した結果、次のことが分かりました。

  • ビジョンへの「理解・共感」が低い組織では、ビジョンの「実現」は非常に困難である。
  • ビジョンへの「理解・共感」が高いからといって、ビジョン「実現」に向かうわけではない。

ビジョンの理解・共感とビジョンの実現のスコア別人数割合

Mさんの組織の社員は、右下の領域「ビジョンへの理解・共感は高いが、ビジョン実現に向けた行動が低い」にあると言えます。

それでは、ビジョンへの「理解・共感」から「実現」のフェーズへ組織を向かわせるには、何がブリッジとなるのでしょうか。

私は、Mさんの会社の組織リサーチで「お客様への興味関心」という項目が比較的低く出ていたことを思い出しました。

そこで、コーチング研究所で「ビジョンの理解・共感で留まる社員」(A)と、「ビジョン実現のための行動までに進む社員」(B)とでは、何が異なるのかを分析することにしました。

下図はその分析結果です。

拡大してみる

[調査内容:Executive Mindset Inventory,7段階評価 / 調査期間:2011年9月~2019年2月]
コーチング研究所調査 2019年

最も大きな差が現れたのは、以下のような要素を備えた「社員の目を社外と自社の関係に向けさせる」リーダーの在り方だったのです。

  • 競合他社への興味関心
  • 自前主義にこだわらず、新しいものを受け入れる組織としての度量
  • 過去の成功体験、従来のやり方にこだわらない柔軟性や挑戦心

もちろん、リーダーの在り方が先なのか、ビジョン実現に向かう行動が先なのかは分かりません。しかし、Mさんの組織で起こっていることと、この結果は、類似していました。

リーダーシップ論とチェンジ・マネジメント論の研究で知られるジャスティン・ワッサーマン氏は、企業が開発すべきリーダーについて次のように述べています。

「21世紀のこの世界で、企業が育てるべき最も重要な『リーダーシップ・ケーパビリティ』とは、最低でも社員の50%が、『並はずれた危機感』を持って、『外に向いて』いて、『情け容赦なく、成功にターゲットを定めていて』『毎日、前進することを、決めている』 この状態をつくることのできる能力である」(※)

では、社員の意識を「外に向ける」リーダーが備えている能力、在り方、そして社員への関わり方とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

アジアNo.1の美容師が語る「いい集団であり続けるツボ」とは?

先日、ある世界コンテストでアジアNo.1となった、美容師Fさんとお話しする機会がありました。

Fさんの所属するヘアサロンは、30年前に関西の小さな町で最初の店舗経営をスタート。「一人ひとりが"真の美"を追求するプロを目指し、切磋琢磨し合う集団」を掲げながら、店舗を増やし続けています。

70人ほどの美容師が所属する新店舗のリーダーを務めるFさんに「いい集団であり続けるためのツボ」について伺いました。

「僕らの仕事は、スタッフ同士、OBとも技術で繋がり続けることが大切なんです。

つまり、お互いの意志・責任において、技術を高めることを約束する、ということです。

でも、掛け声だけでは何も生まれません。

そこで、みんなで世界水準のコンテストに出場することにしています。

自分が世界の中で、どれくらいの位置にいるのかを知り、技術を磨き続けようとすることです。

トレンドはあっという間に変わっていくので、僕もずっと出続けています」

このサロンでは、コンテストだけでなくヘアショー出演、セミナー講師、薬剤開発など、スタッフ全員がそれぞれのフィールドを広げることを追求しているのだそうです。

社員の意識を外に向けさせるには、いろんな方法があるでしょう。

「外」とは、お客様だったり、競合だったり、社会や国、

はたまた、隣りの部門という場合もあるでしょう。

より「外」へ。

あなたはどんな方法で、メンバーの意識を外へ向けさせていますか?

あなた自身は、どのように外へ意識を向けさせていますか?

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【参考資料】
※ Justin Wasserman,”With Leadership Development for All
Leadership isn't an individual skill - it's an organizational competency
October 13, 2014
Chief Learning Officer

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