Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
信頼関係が組織に与える影響とは
コピーしました コピーに失敗しました「世の中にはなぜ、成功する組織とそうでない組織が存在するのか?」
組織を率いる人であれば、誰もがその答えを知りたい「問い」の一つでしょう。
人の脳内ホルモンと「信頼」の関係を初めて解明した化学チームの一員であるポール・J・ザック氏の著書『トラスト・ファクター』は、組織の成功には、互いに信頼し合う文化を構築することが何より重要だ、という前提に立って様々な考察をしています。
信頼関係と組織の業績の関係とは?
ザック氏は、お互いに信頼しあうこと、すなわち信頼関係が従業員のモチベーションに与える影響についての調査結果と業績に与えるインパクトについて「組織の信頼度が上位4分の1の企業で働く従業員は、下位4分の1の企業で働く従業員と比べ、生産性が50%、仕事に対するやる気が106%、勤務中の集中力が76%上回る」と記述しています。
また、「今後1年間は今の職場に留まるつもり」と回答した人は、信頼関係が強い企業の方が50%高く、「家族や友人に今の職場を勧めるつもり」と回答した人も88%多いのです。
そして、当然ながら、信頼関係が強い企業に勤める従業員のほうが現在の仕事に対して満足度が56%高いのだそうです。
もはや、信頼関係は単に心情的に「あればなお良い」ものではなく、信頼関係の強い文化を生み出すことが、生産性、社員のロイヤリティー、離職率など組織に大きなリターンをもたらすと結論づけています。
日本企業の「職場における信頼関係」の実態
「職場における信頼関係の実態」について、興味深い調査を見つけました。(※2)
ブラジル、中国、ドイツ、インド、日本、メキシコ、英国、アメリカの8か国のあらゆる企業に勤務している19歳から68歳までの正社員9800名を対象に調査したところ、6人中1人が、現在の会社に対して「あまり信頼していない」「信頼していない」と回答しているのです。日本の結果は、会社への信頼(21%)、上司への信頼(22%)、チーム/同僚への信頼(22%)と、いずれも8か国の中で一番低い結果でした。
さらに、この調査では上司やチーム、同僚に対して「あまり信頼していない」「信頼していない」とする回答の背景にある要因のトップ5にコミュニケーションに関する次の2点があることを示しています。
「オープンなコミュニケーション/透明性がない」
「十分なコミュニケーションが足りない」
コミュニケーションを信頼につなげる原則とは?
アメリカの格安航空会社(LCC)ジェットブルー航空会長でスタンフォード大学経営大学院教授を兼任するジョエル・ピーターソン氏の著書『信頼の原則』は、組織に信頼が十分にいきわたるために必要な心構えや行動を示しています。(※3)
そのなかに、「信頼を育てるためのコミュニケーションの原則」が記述されています。
悪いニュースも公表する
組織内ではよいニュースだけでなく、悪いニュースも共有する。リーダーはついつい悪い知らせを取り繕って、インパクトを減らしたいと思ってしまうがかえって影響が大きくなる。逆に、問題を正直に伝えれば伝えるほど、たくさんの人からユニークな対処法を提案してもらえる。
一言の愚痴ももらさない
よいリーダーは状況が厳しくても悲観的になったり、感情的になったり、癇癪を起したりしない。たった一言愚痴を漏らしたり、不注意なメールを送ることで長い時間をかけて築き上げた信頼が崩壊する。
ボディランゲージや雰囲気に気をくばる
身振りや顔の表情などノンバーバル・コミュニケーションが強力なコミュニケーション手段であることは明らかだが、特にリーダーの振る舞いが重要になる。また、直に目にしない私生活での振る舞いについても雰囲気で伝わってしまう。リーダーへの信頼は、日々の小さな行動の積み重ねが意外なほど物を言う。
信頼は知らない間に生まれるものではありません。
どの原則も当たり前のことかもしれませんが、信頼し合う文化を築くためにはリーダーが意識的に育てて、評価して、必要であれば修復することが大切でしょう。
ピーターソン氏が率いるジェットブルー航空は、2016年まで12年連続で「北米エアライン顧客満足度調査」第1位に輝いた実績を持っています。
同氏は、あるインタビューで「強い信頼関係を文化としている組織にマニュアルはあるのか」と尋ねられ、次のように答えています。(※4)
「マニュアルなどありません。強い信頼関係で結ばれた組織では、あえてルールをつくったり、それを押し付けたりすることもありません。私たちはこういう組織の一員なのだ、という自負を持ってもらうのみです」
社員にとって、お互いに信頼できることは仕事をする上でとても大切なことです。
信頼できる関係性がない社内では、仕事での協力関係や仕事に対する熱意は生まれず、自分が損しないことばかり考えるようになるでしょう。
そして、信頼がいきわたっている組織で働く人々は、結果として個人ではたどりつけない高みに到達することができるのです。
私は、お互いに信頼し合う上でもっとも大切なことは「安心してモノが言えて、話を聞ける」ことだと思います。
言い方をかえれば、「安心してモノが言える、話を聞ける関係」が職場にあること。
それは確実に「信頼関係」を高め続けていくことにつながるのです。
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【参考文献】
※1 ポール・J・ザック(著)白川部君江(訳)、『TRUST FACTOR トラスト・ファクター』、キノブックス、2017年
※2 「グローバルジェネレーション3.0』 EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
※3 ジョエル・ピーターソン、デイビット・A・カプラン(著)田辺希久子(訳)、『信頼の原則』、ダイヤモンド社、2017年
※4 スタンフォード 最強の授業 『信頼できるリーダーはアメリカにいるのか』(日経電子版)
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