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なぜ働くかが、いかに働くかを決める

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「動機」が組織のパフォーマンスを決める

あなたはなぜ働くのですか?

働く動機は、「内発的動機」と「外発的動機」の2つに分けると理解しやすくなります。

内発的動機とは「喜んで」何かをする動機で、「仕事そのものが楽しいから」、「この仕事を通じて人の役に立ちたいから」のように、自分の内面にある好奇心や関心ごとが動機となるもののことをいいます。

一方、外発的動機とは「しかたなく」何かをする動機で、「お金がないと生活できないから」、「仕事をしていないと社会的に体裁が悪いから」のように、報酬や罰が動機となるもののことをいいます。(※1)

どちらか一方のみ、というよりも「この仕事は楽しいけど、毎月のノルマはきつい」のように、内発的動機と外発的動機は混在していると考えるのが自然です。

とは言え、「内発的動機と外発的動機のどちらの動機のほうが優位か」は、その人の仕事の仕方に影響を与えます。

たとえば、「お客様と話すことそのものが楽しくてこの仕事をしている」内発的動機が優位のAさんと、「給料をもらうためだけにこの仕事をしている」外発的動機が優位のBさんが同じ仕事をしているとしたらどうでしょうか。

お客様の満足をさらに高める努力を続けたり、より良い仕事をするためのアイデアを出し続けたりといった行動は、BさんよりもAさんのほうが多いだろうと想像できます。

実際、内発的動機優位の人は、外発的動機優位の人よりもパフォーマンスが高いことが様々な研究で示されています。(※2)

組織に「内発的動機優位の人」と「外発的動機優位の人」のどちらの人数が多いかは、組織全体のパフォーマンスに影響します。内発的動機優位の社員を1人でも多く増やしていくことは、上司の重要な役割の1つだとも言えるでしょう。

「内発的動機優位の社員」を増やすには?

では、どのようにすれば「内発的動機優位の社員」を増やすことが出来るのでしょうか。

人の内発的動機に最も強い影響があるのは「仕事そのものが楽しい」という動機だと言われます。

たとえば、「ボールを蹴っているだけで何よりも幸せだ」というプロのサッカー選手や、「パンを作っている時が楽しくて仕方がない」パン職人ように、「仕事をしている時そのものが仕事の直接的な動機」になっている人は、とても強い内発的動機で仕事をしていると言えます。

もちろん、このような人でも外発的動機が優位になる時もあるでしょう。しかし、「仕事そのものが楽しい」ことは、大抵の外発的動機を上回る強い内発的動機のエネルギーとなるのです。(※3)

一方、この動機は、現在「仕事そのものが楽しい」ことが動機ではない人にとっては、すぐに手に入れるのは難しい動機です。目の前の仕事が変わらないままでは「今の仕事をもっと楽しいと感じよう」と頑張ったり、上司から「その仕事を心から楽しいと思え」と言われたりしても、変化させるのは簡単ではないからです。

そこで注目すべきなのは「意義」です。

「この仕事に高い価値や重要性を感じるから」という「意義」は、「仕事そのものが楽しい」という動機と共に強い内発的動機になり、パフォーマンスを向上させます。(※4)

どんな仕事をする人にも、その仕事の結果を受け取る相手がいるはずです。

自分の仕事がその相手の「役に立っている」ことを強く認識することが出来れば、「意義」は感じられます。

このことを示したとても興味深い研究があります。

ペンシルベニア大学ウォートンスクールのアダムM.グラントは、「寄付集めの担当者」を被験者とした実験を行いました。(※5)

「寄付集めの担当者」とは大学の卒業生に次々と電話をかけて寄付をお願いすることを仕事にしている人達のことです。この仕事は電話を受けた相手(卒業生)から嫌がられることが多く、また毎日同じ仕事の繰り返しのため、ほぼ全てのスタッフが3ヵ月以内に辞めるほど離職率が高かったそうです。

グラントは、担当者を2つのグループに分けました。そして一方のグループにだけ「寄付のおかげで奨学金を受け取っている学生」を訪問させました。その学生は「担当者の仕事が自分への奨学金となり、それが自分の人生にどのような影響を与えたか、どれだけ担当者の尽力に感謝しているか」を5分間ほど話しました。

すると1か月後、驚くべきことが起こりました。

奨学生の訪問を受けたグループの人達は、1週間に電話をかける時間が平均142%増え、獲得した寄付金は171%増えました。この間、奨学生の訪問を受けなかったもう一方のグループには変化はありませんでした。

奨学生は寄付集めの担当者にとって、これまで一度も会ったことがない「エンドユーザー」でした。エンドユーザーに直接会い、自分の仕事がいかに役に立っているのかを自分の目や耳で確かめるプロセスを通じて「意義」を感じ、エンドユーザーの役に立つために頑張ろうと思い始めたと考えられるのです。

次にグラントは、別の担当者を被験者として、3つのグループに分けた実験を行いました。

1つ目のグループには先の実験と同じように奨学生を担当者たちに直接合わせました。2つ目のグループには担当者たちの「上司」がこの奨学生の話している内容を伝えました。3つ目のグループには何もしませんでした。

すると、1か月後にパフォーマンスが向上したのは1つ目のグループだけだったのです。

1つ目のグループの結果は先の研究を裏付けるものです。では、2つ目のグループはなぜパフォーマンスが向上しなかったのでしょうか。

経営者が理念を伝えるだけでは「動機」にならない

多くの企業が、企業理念やビジョンをホームページやアニュアルレポートに載せています。そこには「私たちは・・・を通じてお客様に貢献します」「社会を豊かにします」「世界平和に貢献します」など、その企業が存在する「意義」が示されています。

しかし、残念ながら企業理念やビジョンを経営者が社員に繰り返し伝えても、それだけでは社員のパフォーマンスには特段の影響がないことが研究によって示されています。

アダムM.グラントが同僚のデイビット A.ホフマンが共に行った研究では、経営者が壮大な理念を事業の「意義」としてどれだけ繰り返し語っても、社員の行動を変えることはないということが示されています。

さらに、経営者や「上司」に当たる人が、部下に「意義」を繰り返し語れば語るほど、部下は「疑わしい」と思うようになる傾向があることもわかったのです。(※6)

エンドユーザーとの「つながり」を開発する

「エンドユーザーと直接つながることがパフォーマンスを向上させる」という結果は、グラントの研究によって、事業の規模や仕事の内容を問わず起こることがわかりました。

グラントは、誰もが自分の仕事の結果を最終的に受け取るエンドユーザーに直接会うことが望ましい、としつつも、それが難しい場合はエンドユーザーに直接会った同僚から経験談を聞く「共有会」を開催したり、それも難しければエンドユーザーの写真を見せてもらったりするだけでも「意義」を感じてパフォーマンスが上がる、と述べています。

つまり、仕事に意義を感じるようになるために大切なことは、エンドユーザーの素晴らしいストーリーを聞くことではなく、エンドユーザーとの「つながり」を感じることなのです。

上司の役割は、企業理念に基づいた仕事の「意義」を語るだけでなく、部下が仕事の「意義」を感じられるような環境をつくることだとも言えるでしょう。

あなたにとってエンドユーザーは誰ですか?

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【参考資料】
※1
ここでは、分かりやすく簡潔な表現にしました。動機付けについて詳しく学習したい方は以下をお読みください。
『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(新曜社)
エドワード・L. デシ(著)、リチャード フラスト(著)、桜井茂男(翻訳)

※2
上記※1にも詳しく書かれていますが、たとえばダイエットにおいても内発的な動機付けがパフォーマンスを上げることを明らかにした研究もあります。
Arlen C. Moller, H. Gene McFadden, Donald Hedeker, and Bonnie Spring, Financial Motivation Undermines Maintenance in an Intensive Diet and Activity Intervention (2012)

※3
「知識労働者のモチベーション心理学 インナー・ワーク・ライフの分析が明かす」
テレサ・M・アマビール スティーブン・J・クラマー 
(ハーバード・ビジネス・レビュー 2008年3月号)

※4
「意義」を感じた人達はパフォーマンス(この研究では画像分析の精度)を高めることが示されています。
Dana Chandler, Adam Kapelner, Breaking Monotony with Meaning: Motivation in Crowdsourcing Markets (2012)

※5
「心理学的実験で実証される お客様の言葉が社員を顧客志向に変える」
アダム M. グラント
(ハーバード・ビジネス・レビュー 2011年10月号)
顧客との直接的な接点を増やすことがパフォーマンスを上げることについては、以下にも詳しく書かれています。
Adam M. Grant, Leading with Meaning: Beneficiary Contact, Prosocial Impact, and the Performance Effects of Transformational Leadership (2012)

※6
Adam M. Granta, David A.Hofmann, Outsourcing inspiration: The performance effects of ideological messages from leaders and beneficiaries (2011)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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