Coach's VIEW

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そのコーチング、本当に「始まって」いますか?

そのコーチング、本当に「始まって」いますか?
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組織の中に「つながりを作る」また、「つながりをより強固にする」ことを目的に、コーチングを活用する企業が増えてきています。

企業内で行われるコーチングというと、上司と部下の間で実施されるイメージが多いのかもしれませんが、社内にコーチング専門チームを作ったり、組織を越えてコーチングし合うことで、新しいつながり作りを意図的に行って成果を上げている企業もあります。

ところで、読者のみなさんにも、「コーチングを実践している」という方も多いかと思いますが、果たしてそのコーチング、本当に「始まって」いるでしょうか?

そのコーチングは、本当に「始まって」いるのだろうか?

プロのコーチ集団であるコーチ・エィでは、日々、社内のいたるところで社員同士のコーチングが行われています。

私自身も入社以来10年以上、ずっとコーチを付け続けていますし、自分がコーチをするのも、部下や後輩、ときには先輩、部門外社員と縦、横、斜めといろいろな関係の相手が対象となります。

振り返ってみて気が付くのは、「自分の部下に対するコーチングが、最も難しい」ということです。

「コーチング」と言いながらも、単なる進捗確認になっていたり、雑談の域を出なかったり、いつのまにか自分が教えたり、指示をしていたり...。

読者のみなさんも、私と同じような経験はないでしょうか。

こういう場合、「コーチングをしている」と思っているのは上司の自分だけで、部下にとっては、コーチングが始まってさえいないかもしれません。

コーチングが「始まっているか?」は何でわかるのか?

コーチングが始まっているかどうかは、例えば下記の項目で分かります。

  • 部下が、コーチングのテーマや話したいことを持ち込んでくる。
  • 目標が、「○○したい」とやりたいことの実現になっている。
  • 他の人には言えない悩み、ネガティブなことも話している。
  • 約束の時間通りにコーチングが開始される。リスケジュールが少ない。
  • 部下が、次回のコーチングまでに取り組むことを自ら宣言する。

上記の項目に、チェックがつかないものが一つでもあれば、もしかすると、もう一度「始め直す」ことが必要な状況かもしれません。

なぜ、上司部下間のコーチングは「始まり」づらいのか?

コーチングは、「対等な関係」が二人の間にあることが前提となります。これは、国際コーチング連盟がコーチに必要な能力として定める「コア・コンピテンシー」(※1)にも明記されており、"お互いの尊敬と信頼を継続的に作り出すための、安全で協力的な環境を作り出す能力"とあります。

上司と部下の間でコーチングを開始する場合、「上司」「部下」という普段の上下関係は、コーチングをする場面ではリセットしなければなりません。

つまり、そのコーチングの直前まで教えたり指示したり、あるいは教えられたり指示されたりといったどんな関係であったとしても、コーチングの時間だけは、両者が「対等だ」と認識できる関係を意図的に構築する必要があります。

ここに興味深いデータがあります。効果的なコーチングができていない人に共通して見られた特徴は下記です。(※2)

  • 定期的にコーチングを実施しない
  • 指示・アドバイスをしている
  • 前向きにコーチングに取り組んでいない

コーチングスキルそのものが足りないわけではなく、上司側の意識が大きく影響を与えているように見えます。

こういった関わりは、部下が「自分が大切に扱われていない」、「安心感がない」、「信頼されていない」と感じ、対等な関係構築の妨げになってしまっているのかもしれません。

そもそもこのような関わりをする上司の行動の背景には

「部下の話よりも、自分の指示やアドバイスの方が価値がある」
「コーチング(部下能力開発)よりも、業務を優先したい」

という気持ちがあることが推察できます。

コーチングを「始める」ために必要なこととは

これは、「自分の方が部下よりも分かっている」という前提があるからかもしれません。

コーチングは、2人のコラボレーティブで探索的な取り組みですから、コーチする側の「自分の方が分かっている」という気持ちは一旦「リセット」する必要がありそうです。

私たちが、プロとしてコーチングを行う際、何も準備なくクライアントとのセッションを迎えることはありません。特に、初回のセッションの前には、リスペクトの気持ちとともにクライアント自身や会社の状況、経歴などをふまえて、たくさんの質問を準備します。

この準備のプロセスで「これはどう思っているのだろうか?」「あれについてはどうか?」といろいろなアンテナが生まれ、どんどん「分からない」状態になっていきます。

上司が部下に対してコーチングをする場合も、部下や部下の業務に対して、「よく分かっている」を一旦脇に置いて興味関心のアンテナを持つことが、対等な関係を作る第一歩となるのではないでしょうか。

そして、コーチングの時間は「日常のマネジメントや評価とは切り離された、お互いに対等な安全な時間」であることを部下に明確に伝え、そのイメージを共有、合意することではじめてコーチングのスタートを切ることができます。

もし今、気になる相手の顔が思い浮かんだとしたら、コーチングを「リ・スタート」するチャンスかもしれません。


【参考資料】
※1 日本コーチ協会コーチのコンピテンシー

※2 コーチング研究所調査
調査対象:コーチ・エィが提供するプログラムDCDへの参加者のコーチングを受けた直属部下744人
調査期間:2015年4月~2019年3月
調査内容:D-meter1回目・2回目「個人の状態」10項目、「コーチからの関わり」20項目(7件法「1:全くあてはまらない〜7:とてもあてはまる」)

*1 プログラム前後のD-meterの直属部下のスコアを比較。「個人の状態」10項目の変化量が平均以下の群(自己評価、744人)について、DCD参加者の「コーチからの関わり」20項目のうち、スコアが下がった下位3項目を抽出。

※ Driving Corporate Dynamism(DCD)は(株)コーチ・エィの登録商標です。

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