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つながりを生む、人間の「野性の能力」

つながりを生む、人間の「野性の能力」
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コーチの仕事をしていると、新たな能力を開発すること以上に、「本来備わっているにも関わらず、何らかの理由で発揮されてない能力」にも強い興味を惹かれることがあります。

例えば、誰かと協力しチームや組織で働くときに必要な「互いに理解しあい、信頼しあい、協調する能力」を、私たちはどれだけ発揮できているでしょうか。

厳しい生存競争を生き抜いてきた人間にとって「人とつながり、協調する能力」は、数百万年もの長い月日をかけて備えてきた武器であり、一人ひとりのDNAにしっかり埋め込まれているものだと考えることが出来ます。

私たちは、この自分に備わった「野性の能力」といえるものを、どこまで発揮することが出来ているでしょうか。もしくは何らかの理由で、十分発揮できずにいるのでしょうか。

野性の能力が封印されている兆候

みなさんにも、上司や部下、同僚など日々関わる機会が多くあるにも関わらず、本当はもっと分かり合えるはずだと感じる人いませんか。もっと心開いて接すればより良い関係になれると分かっていながら、なかなかお互いの距離を縮められずにいるような人です。

その様な人たちともっといい形でつながることが出来たら、自分も相手のパフォーマンスも今以上に上がり、チームももっといい状態になるだろうと容易に想像できたりします。

そんな風に感じるとき、自分に備わった「野性」がうまく発揮できていない兆候のように私は考えます。

情報化社会がもたらした環境の変化

京都大学の総長でゴリラ研究第一人者のである山極寿一氏は、近年の環境変化を以下の様に言います。

「情報機器の発展により人々が脳で繋がるようになると、視覚と聴覚に基づくコミュニケーション空間が大きく開けた。人々の繋がりあう可能性は広がったが、信頼できる人の輪はかえって小さくなった」(※1)

私たちは世界を知覚するために、視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚という五感を活用します。

インターネットやスマートフォンは、私たちが日々膨大な量の情報に触れることを可能にしましたが、これらの情報は視覚と聴覚に伝わる情報です。

オフィスでは、私たちのコミュニケーションは視覚と聴覚によるものが中心になっています。メールに費やす時間は視覚が主に使われています。誰かと対面で話していても活用されるのは主に視覚と聴覚でしょう。

肌の大部分を衣服で隠し、体臭はしっかり洗い落とす。また、人前で舌を出すようなことはめったにありません。

現代のコミュニケーションにおいて、私たちの臭覚も、触覚も、味覚もほぼ封印されていると言っていいかもしれません。そしてインターネットやスマートフォンといったツールによりその傾向はより強まっていくと考えます。

触覚がもたらす相手の理解

私の母は最近介護が必要となりました。

ある時一緒に歩いていると、母の足元がおぼつかないように見えたので、とっさに母の腕を取りました。

母の状態は、見たり、聞いたりして、ある程度は分かっているつもりでした。しかし、母の腕に触れたその瞬間、弱ってしまった母のことを直に感じ、体の状態を一瞬で理解したのです。

ショックでしたが、「母を支えなければ」という感情がより強く湧いてきました。

例えばこんなことはないでしょうか。

プロジェクトがうまくいき、後輩社員と握手を交わす。そこで力強く自分の手を握ってくる後輩に、これまでとは違った頼もしさを感じるようなこと。

あるいは、苦戦しながらもなんとか仕事を終わらせようと頑張っている時、上司から背中をポンとたたかれ、上司の見守ってくれている気持ちや自分を応援する気持ちを感じるようなこと。

私たちには本来、もっと相手のことを理解したり、信頼したりすることが出来る能力を備えています。

しかし、その能力を呼び覚ますために必要な「情報」がないと、その能力を発揮することは出来ません。

触覚など現代のコミュニケーションで活用機会が少なくなった感覚があることで、本来その感覚からよって呼び覚まされていた「野性の能力」が眠ったままの状態になっていることもあるのではないでしょうか。

五感を使ったコミュニケーション

人を抱擁するときに脳内で分泌されるオキシトシンというホルモンがあります。

オキシトシンの研究で有名なポール・J・ザック氏によると、脳内でオキシトシンが急増すると、人はいつもより優しく、寛大で、協力的で、思いやりのある行動をとるそうです。

スタンフォード大学のケリー・マクゴニカルはTED「ストレスと友達になる方法」(※2)で、オキシトシンは脳の社会的本能を絶妙に調整し、共感力を高め、人々との親密な関係を強める行動を促すと言います。

私は高校、大学とアメリカで過ごした経験があり、日本でも握手やハグといったことがもっと広まっててもいいのではないかと思っています。

そこまでいかずとも、まずは何かうまくいった時のハイタッチなど、取り入れてみるのはいかがでしょうか。

また、私たちは五感で感じていることを言葉にして伝えることも出来ます。

あなたの話を聞いて、体が熱くなりました。

今この状況で、手に汗をかいています。

そう言われて、心拍数が上がってきました。

会話の中に、「今、自分が感じていること」を含め共有してみると、お互いの関係性の質が変わるのではないでしょうか。

大切なのは、普段コミュニケーションで使わない感覚をより働かせる機会を共に持ち、共有するということです。

視覚や聴覚は、遠くにあるものを捉え、それを過去や未来に伝えることもできます。

一方臭覚や、味覚、触覚は、「今ここ」を直接感じるための「野性の感覚」とも言われています。

これらの感覚をより活用することで、私たちの中に眠る「野性の能力」は目覚めるのではないでしょうか。

皆さんは、どのような方法で自分の眠れる「野性の能力」を目覚めさせますか。

そして、それをどんなつながりや組織力のために活かしますか。

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【参考資料】
※1  山極寿一(著)、『人類の社会性の進化(下)共感社会と家族の過去、現在、未来』、詩想舎、2018年
※2 ケリー・マクゴニカル講演 
TED「ストレスと友達になる方法
・ポール・J・ザック (著)、柴田 裕之(翻訳)、『経済は「競争」では繁栄しない』、ダイヤモンド社、2013年
・黒川雅之(著)、『野性の衝動 東アジアの美意識』、メタブレーン、2017年

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