Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
「居場所」づくりから始める「エンゲージメント」
コピーしました コピーに失敗しましたLanguage: English
エンゲージメントとは「社員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲」を意味します。(※1)
このエンゲージメントが企業活動に様々な影響を及ぼしていることは、読者の皆さんもすでにご存知のことと思います。
エンゲージメントの高い企業は低い企業に比較して「収益性で22%、生産性で21%、株価収益率は47%上回る。また、顧客満足度が高く、事故や品質のミスが少なく、欠勤率も低い」というギャラップ社の報告があります。(※1)
一方で、世界中の19,000人以上の会社員を対象にした調査では、「自社に完全にエンゲージしている」と回答した社員はおよそ16%というレポートもあります。(※2)
今や、エンゲージメントの向上は経営課題のひとつと考えてもおかしくありません。
エンゲージメントを左右する要因には、「基本的な雇用条件」などのほかに、「ビジョンや戦略が明確である」「学習や能力開発の機会」「業績評価」などがあります。それらが、社員の貢献意欲に影響しそうなことは容易に想像がつきます。
それでは、エンゲージメントを高めるためには、何に意識を向け、何から始めていけばいいのでしょうか?
「エンゲージメント」は何から生まれるのか?
エンゲージメントには、メンバー同士が日々、互いに話しかけサポートし合う関係性、つまり「自分がチームの一員である」という認知が大切であるという調査があります。(※2)
すなわち、お互いが「チームに帰属している」というシグナルを交換し合うことが、エンゲージメントを高めることに関係しているようです。
それにもかかわらず、現代は、仕事を含む生活のあらゆる面で、互いの「帰属感」を「断絶」するような事象があります。
たとえば、何かを「伝える」のに電話を掛けたり、相手のデスクに足を運んだりすることは減りました。その代わりに、メッセージ・アプリや携帯メール、ソーシャルメディアなどのツールを使います。このことによって、成人の46% が、「孤独」を感じているのだそうです。(※3)
人間にとって一番の「危険」は、他者からの「拒絶」そして「孤独」です。
人類の誕生以来、何らかの集団を形成しながら生き残ってきた人間にとって、他者からの「拒絶」や「孤独」は「死」をも意味します。
人の脳の一番の仕事は、自分に危険がないか、そのシグナルを探すことです。特に脳は「自分は他者からどう思われているだろうか」をいつも心配しています。
そこに、「あなたは、たしかに、この集団に帰属していますよ」という「帰属のシグナル」をもらうと、究極の「心理的な安心感・安全感」がそこに生まれます。
そして、その「安心感・安全感」を土台に、その集団に貢献していく意欲が生まれるというわけです。
「帰属シグナル」の達人店長がしていたこと
エンゲージメントが高いとされているスターバックスでは、一緒に働くメンバーを「パートナー」と呼びます。そして「お互いを認め合い、誰もが自分の居場所と感じられる文化をつくる」ことを大切にしているそうです。
自分に安全な「居場所」があると認知させる「帰属のシグナル」が、メンバーの主体的な行動を引き出し、自発的な貢献意欲につながっているのではないでしょうか。
日常、組織内で交わされる、簡単な「帰属のシグナル」には、次のようなものがあります。
- 挨拶や声掛け
- 名前を呼ぶ
- 適度なアイコンタクトがある
- 人の話をさえぎらず、熱心にきく
- ありがとうなどの感謝や慰労の言葉を伝えている
どれをとっても、簡単な日常的な行動のように見えます。しかし、「いつも、そこにいる人」を意識して認知し、大切に思っていなければできない、ある意味、難しいことでもあります。
人間は進化の過程で、お互いの存在を認めるこれらの「帰属シグナル」を自然に開発してきたと思われます。
それは、奇をてらったような関わり方ではなく、「いつも、そこにいる人」やその人が行っていることを「ちゃんと認知している」ことを伝える能力と言えます。
しかし、インターネットなどのさまざまなツールによってその能力が減退しているのだとすると、日常の中に、意図的に「帰属シグナル」を送る時間を組み込むことが必要なのではないでしょうか。
私が以前コーチングをしていた大規模店舗の店長は、社員に「帰属」シグナルを送る達人でした。この店長は、アルバイトを含め500人近い全員の名前をすべて覚え、店内を回りながら、こまめに声掛けしていました。
時には「今日の自慢は何?」と、その社員の日々の仕事上の小さな成功体験を引き出すこともしていました。
小さな成功体験が引き出されることで、自己効力感も増していきます。
また、店長は地域に根差した店舗経営にむけて、売り場会議でいつも決まった誰かが発言を独占するのではなく、パートさんも含め、みな平等に聞く会議運営も心掛けていました。
その結果、地域に住むパートさんから貴重な情報やアイディアが集まり、売れる売り場つくりにつながりました。社員の一人ひとりが尊重される場という意識が、共により良い店舗をつくっていきたいという貢献意識を持つことにつながっていきます。
その結果でしょうか、売り場面積あたりの売り上げ率が高いお店として社内賞を何度もとっていました。
エンゲージメントを高めるためには、まずは、ここがあなたの「居場所」だという「帰属」のシグナルをお互いに伝えあう、そんな組織づくりから始めるのが一つの方法です。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
【参考資料】
※1 新居佳英、松林博文(著)、『組織の未来はエンゲージメントで決まる』、栄治出版、2018年
※2 MATT PERRY, 2019, ENGAGEMENT AROUND THE WORLD, CHARTED, Harvard Business School Publishing.
※3 5 Culture Trends for 2019
what's new in workplace culture
2018 O.C. Tanner
・ダニエル・コイル(著)、楠木建(監訳)、桜田直美(訳)、『最強のチームをつくる方法』、かんき出版、2018年
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。
Language: English