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信じて、任せる

信じて、任せる
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新型コロナウイルスが猛威を振るいはじめて2か月、リモートワークを始められた方も多いのではないでしょうか。

当初は混乱もあったと思います。

しかし、十分な準備がなくても、突然の出来事をきっかけに、一気に始められることは意外と多いのかもしれません。

リモートワークを実現させたのは何か?

日本マイクロソフトの社長だった樋口泰行さん(現パナソニック代表取締役専務執行役員)の講演をお聞きしたことがあります。

同社は、9年前の3.11を機に在宅勤務をスタートし、一気にリモートワークに切り替わったそうです。

2011年3月13日、当時社長だった樋口さんは、「在宅勤務を推奨する」というシンプルなメールを全社に発信しました。技術的なことや、勤務体系の変更に伴うマネジメント方法などについては一切書かれなかったそうです。

今ほどリモートワークが進んでいなかった当時、これといったモデルはありませんでした。しかし「すべて、社員に任せよう」と、樋口さんは決断されたのです。

結果、2日後にはリモートワークが機能し始めたのだそうです。

信じるか?心配するか?

危機的事態になったときに、リーダーが重視すべきことは何でしょうか? 

それは、社員のITリテラシーなどとは関係なく、「とにかく部下を信じて任せること」であったと、この事例は教えてくれているように思います。

結果、それぞれの分野や立場の中で一人ひとりが自分で考え、決め、難しい局面を乗り切り、新しいシステムやマネジメント方法が生まれ、最終的に「社員の自律につながった」と言えるのではないでしょうか。

リモートワークの導入をはじめ、働き方改革などについて考えるとき、「いつでもどこでも仕事ができるようにしたら、仕事をサボる人が出てはこないか?」「リーダー自ら決断し、指示しなければならないのではないか」などと心配になることは多々あるでしょう。

部下を信じることを前提にルールを作るか?

リスクやトラブルを最大限想定して防ぐことに力を注ぐべきか?

上司には時に、その判断が委ねられます。

ある研究結果をご紹介します。(※)

アメリカのノースショア大学病院で、「感染症予防のための手洗い」を徹底させるための実験が行われました。

アメリーノ博士らはまず、手洗い場に「手洗いをさぼると感染症になる」という「警告」の張り紙を張りました。

しかしまったく効果がありません。

そこで次に、医療スタッフ了解の下、計21台の監視カメラをつけ、20人の監視員が24時間体制で監視するようにしました。

しかし、監視されているのを知りながらも、手洗い率は10%未満でした。

そこで最後、博士らは電光掲示板を設置し、手洗いの遵守率を可視化するとともに、手洗いをすると電光掲示板に「よくできました!」と表示が出るようにしました。

すると、なんと手洗い率は90%まで跳ね上がったというのです。

この実験は、警告や監視よりも、ポジティブな反応の方が効果的に人を行動に駆り立てる、ということを示しています。

ピンチのときこそ変化のチャンス

部下を信じて性善説でチーム作りを行うか、性悪説を元にトラブルを最小にする判断をするかの決断は、上司にとって難しいことです。

しかし、部下との関係に何かしらの行き詰まりを感じていることがあれば、今回のリモートワークへのシフトをチャンスととらえ、部下への関わり方を見直してみるといいかもしれません。

私がコーチをしているクライアントの方にも、優秀な部下だからこそ、転ばないよう手厚く指示し続けていたら、自律性が失われてしまった、という話を聞くことがあります。

しかし、毎日、机を並べている部下との関係を急に変えるのは難しいものです。そこで、そういう時こそ改めて部下を「信じて任せてみる」のはどうでしょうか。

テレワークの実施に関するニュースでは、ビデオカメラが配給され、自宅にカメラを取り付けた状態で仕事を行う映像なども目にします。

そうした「監視下」の元では、部下も上司も本当に最高のパフォーマンスを出すことができるのか、少し疑問が残ります。

大切な部下だからこそ信じて任せるとともに、適度なコミュニケーションで関わり続け、どんなに小さな行動にも「ポジティブな反応」を返していく。

そんなコミュニケーションが可能になれば、チームのパフォーマンスはより最大に向かい、チームにイノベーションが起こるかもしれません。

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【参考資料】
※ ターリ・シャーロット(著)、上田直子(訳)、『事実はなぜ人の意見を変えられないのか ~説得力と影響力の科学~』、白揚社、2019年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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