Coach's VIEW

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一隅を照らす作戦

一隅を照らす作戦
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天台宗の開祖、最澄の有名な言葉に、

「一隅を照らす、これ即ち(すなわち)国宝なり」

があります。

「他の人が気づかないような片隅で社会を照らしているような人が国の宝だ」という意味です。褒められる、注目されるといった見返りを必要とせず、自分が置かれた場所でベストを尽くす、そんな感じでしょうか。

実はこの最澄の言葉の本質として「一隅を照らす在り方は、他のものにも影響し伝播する」という考え方があるのだそうです。

大切なのは小さな変化の積み重ね

とかく大きな変化や改革が叫ばれる昨今ですが、大きな変化につながる小さな変化を積み重ねていく、小さな変化を見逃さない、そんなことの大切さを教えてくださったある経営者がいます。

Aさんの会社では、アジアを舞台に激変するマーケットに立ち向かえる強い組織づくりを目的に、大きな組織変革プロジェクトが進んでいます。

私たちコーチ・エィは、コアリーダーと呼ばれる変革リーダーたちをコーチとしてサポートし、並行して組織全体を対象に定期的にサーベイを取っています。

プロジェクト開始間もないころ、

「サーベイ以外で、この取組みの成果はどんなところで測ることができるでしょう」

とAさんに尋ねたことがありました。

Aさんからは、次のような答えが返ってきました。

「コーチ・エィさんは、お店で、うちの商品が買いたくなるような並び方をしていたら成果だと思ってください。

うちの会社は、日々の改善活動が徹底されている会社さんと違って、工夫の余地がたくさんあるのです。だから、一人ひとりの社員が、昨日よりちょっと工夫してみようと思えば、それで業績が上がるんですよ。でも上司や周りとの関係がいまいちだったら、そんなこと、やる気にもならないでしょ」

そのとき私には、Aさんのおっしゃることがまだあまりピンと来ていませんでした。

商品がにっこり微笑んでいた

しかし先日あるお店で、Aさんの会社の商品がきれいにこちらを向き、まるでにっこり微笑んでいるように並んでいたのです。

しばらく観察していると、お客さまが一人、またひとりと、手を伸ばして買っていきました。もちろん、私も買いました。

「なるほど、そういうことか!」

一年半が経ち、ようやく合点がいきました。

手に取った商品を眺めると、お店で商品をきれいに並べた人、その商品を運んできた人、その人の上司、同僚、工場からの出荷を手伝った人、ドライバー...たくさんの人たちのリレーのイメージが頭に浮かびました。

Aさんの会社では、きっと社内でのコミュニケーションが変化し、一人ひとりの仕事に取り組む姿勢に影響を与え、それが関わりを通じて伝播していっているに違いありません。お店に並ぶ商品を見て、プロジェクトの成果が出てきていることを実感しました。

関わりの中でひとは影響し合う

コーチングの目的の一つは、個人と組織の「アカウンタビリティ(accountability)」を高めることにあります。コーチングにおける「アカウンタビリティ」とは、「主体的に自ら進んで仕事や事業の責任を引き受けていく意識」や「一人ひとりが、自分の責任において考え、行動を起こす意識」のことを指します。

コーチングによって組織内のコミュニケーションが変化し、主体的になった個と個が、日々の関わりを通して影響し合う。そうして、組織の中や、チーム内において主体的なあり方が周囲に影響し、周囲も変えていくことができれば素晴らしいことです。

最近、自らがそれを実感する体験がありました。

ひとは関わりの中に生きている

ある休日に、残務を片付けたかった私はオフィスに出かけました。着いてみると、室内に電気が点いています。タイ人のスタッフがひとりいました。

「おはよう! 休みの日にどうしたの?」

彼女はちょっとはにかみながら言いました。

「植木にお水をやりに来ました。近くで、ヨガのクラスもあったので」

私が駐在するタイは、ここ数か月のCOVID-19対策で、商業施設も閉鎖、夜間外出禁止令もあり、在宅勤務が続きました。そんな中での久々の彼女との再会でした。

彼女は物静かで、自分からぐいぐい引っ張るというよりは、決まった仕事をきちんと進めるタイプ。ミーティングでも積極的に発言するほうではないので、ときどき「楽しく仕事に取り組んでいるだろうか」と心配になることもありました。そんな彼女が植木を気にかけて、人知れずオフィスにやってきたことを知り、その日はなんだか仕事に気合いが入りました。

彼女のあり方にわたし自身の主体性が影響を受けたのです。おそらくAさんの会社の中でも起こっていただろうことを実感した体験でした。

***

ひとは関わりの中に生きています。

あなたの一隅を照らすようなちょっとした言動が、思わず他の人を照らすことを起こしているかもしれません。

あなた自身も、まわりの人の一隅を照らす言動に影響されているかもしれません。

この影響の連鎖をつくることを密かに「一隅を照らす作戦」と命名することにしました。

今日のあなたは、どんな一隅を照らしてみますか。
今日も、どこかに、一隅を照らしてくれている社員がいるのでしょう。

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