Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
組織はなぜコーチングができる人材を求めるのか
コピーしました コピーに失敗しましたコーチングができる人材が求められつつあります。
「有能なマネージャーの資質のトップは、良いコーチであること」というGoogle社の調査結果(※1)や、「83%の組織は、今後5年でマネージャーの職務要件としてコーチとしての役割が加わる」という2019年の国際コーチング連盟の調査結果(※2)については、これまでコーチ・エィのコラムでもよく紹介してきました。
実際に私たちが企業の経営幹部と接する中でも、人材への要求が変化していることを感じます。自ら経営視点を持ち、主体的に考え、変化を創り出すことのできる人材や、そのような人材の開発に長けた人材へのニーズが高まっています。
「主体的に考え、変化を創り出す」人材の開発は、たしかにコーチングが貢献できる領域ですが、一方で、フィナンシャル・タイムズ(FT)が2017年に発表した調査では、企業にとって確保が難しい人材のトップ5に「コーチングスキルが身についている人材」が挙がります(※3)。
「コーチングができる人材」へのニーズが高まる中、FTの調査結果が指摘するようにコーチング力の開発は大きなテーマでもあります。
良いコーチへの近道は、良いコーチングを受けること
ではなぜ、コーチング力を身につけた人材が少ないのか。
自戒の念も込めて言いますが、コーチング研修を受けるだけでは、コーチングはできるようになりません。私自身、過去には年間150日を超える日々、コーチングの研修を行ってきた経験があります。研修はコーチングの紹介の場としては機能しましたが、実際にコーチができるようになるためには、決定的な何かが不足していました。
国際コーチング連盟は先に引用した2019年の調査結果において次のような指摘をしていますが、非常に的確だと思います。
「社内で『コーチングメンタリティ』を持つリーダーへと移行させたいが、難しいのは、良いコーチングを受けていないリーダーが多いこと」(※2)
コーチングは、多くのコミュニケーションの技能によって構成されます。「コミュニケーションの技能」、つまりコーチングスキルの習得は実践のための要素の一つですが、しかし「コーチをする」ためには、技能の習得だけでは不十分です。なぜなら、私たちのコミュニケーションは、実体験を通じて変化する側面があるからです。つまり、コーチングができるようになるためには、コーチングスキルを学ぶだけではなく、自らコーチを受けること、それが最も現実的なアプローチだと考えられます。
たしかに、コーチングのクライアントの多くが、我々プロのコーチングを受けながらそれをコピーし、職場で使い始める現象を目にしてきました。
現場のリーダーが、プロからコーチを受けて、コーチングを実感する。
その経験を基に、現場のリーダーが自分の周囲の人たちをコーチする。
こうして、コーチングの実体験を持つ人たちが増えていく。
「コーチングをする、コーチングを受ける」。この具体的な経験の連鎖が生まれるような「コーチングの場」、それが「組織変革の現場」となるのだと思います。
「コーチングの場」としてデザインされたプラットフォーム
私たちは数年間にわたるコーチング・プロジェクトでの経験を通じ、この「コーチングの場」を、Driving Corporate Dynamism(DCD)というプラットフォームの形で具現化しました。DCDは「変革の現場」を組織内に創り出すために開発されたものです。
DCDは、コーチングができるリーダーを開発するための4つのシーンで構成されます。
- プロのコーチを受ける
- コーチングの技能を高める
- 組織内のキーマンをコーチする
- フィードバックを受ける
この4つのシーンを通じてDCDというプラットフォーム上に「コーチングの場」が形成され、組織の至るところでコーチングの対話が起こり始めます。
この過程で、コーチングを受けるキーマンやその周囲から新たなリーダーが立ち現れ、相互に連鎖を起こし始めます。そこに具体的な組織変革の駆動力が生まれるのです。
「率いること」の意味の変化
今、私たちが直面する環境は、常に流動的で相互依存的で、見通しは不確かです。そのような中、「特定の個人の中にある答えを浸透させる」というアプローチは、説得力を失いつつあります。
「人を率いる=リードする」ということの意味が、「より関係的で、相互的に影響するという行為(※4)」へと変化し始め、インタラクティブに対話ができるリーダーの開発が求められているのです。
私たちは、DCDというプラットフォームを通じて、新たな時代が要請する組織変革とリーダー開発に挑戦しようとしています。
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【参考資料】
※1 re:Work by Google 「Google マネージャーの行動規範」
※2 "Building Strong Coaching Cultures for the Future", International Coaching Federation/Human Capital Institute, November 12, 2019,
※3 Jonathan Moules and Patricia Nilsson, ”What employers want from MBA graduates — and what they don’t”, Financial Times, August 31 2017,
※4 Rens van Loon and Gerda van Dijk, ”Dialogical Leadership: Dialogue as Condition Zero”, Journal of Leadership, Accountability and Ethics Vol. 12(3) , 2015
翻訳は著者によるもの。
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