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「私」のパーパスをめぐる旅

「私」のパーパスをめぐる旅
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先行きの見通せないこの時代、多くの企業が自らの存在価値を問い直しています。これを表現する言葉として「パーパス」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。

さらに2020年はCOVID-19の長期的かつ世界的な広がりにより変化を迫られる企業も多く、「そもそも自分たちのビジネスは何のために存在するのか?」、「社会的存在意義は何なのか?」という問いの重要性が増しました。

存在意義を問われているのは、実は企業だけではありません。

そこで働く社員一人ひとりも「なぜ自分はこの会社で働くのか?」と自らに問い直すことを求められているのだと思います。企業のパーパスを改めて問う過程で、自ずから「自らのパーパスは何なのか」と問うことになるからです。

哲学的な問い

なぜこの会社で働くのか?

この問いは、実は、時間をかけて考えれば答えが出てくるという類の問いではありません。なぜなら、私自身も何度となく問いかけられ自分の考えを話す中で、毎回自分の話が少しずつ違うからです。また、どんな話をしたとしても、心の中では「本当に本当なのか?」という新たな問いが湧き上がることに気づきます。みなさんはいかがでしょうか。

会社が成長するために、社会のために、誰かに喜んでもらうために、誰かを支えるために、自分が成長するために、認められるために、幸せになるために、等々、理由はいくつも出てきます。それらを越えて、更に「それはなぜなのか?」を辛抱強く繰り返し問うていくと「そもそも自分は何のために生きているのか?」というところまで行きつきます。

生きる意味。

これは太古の昔から、人類が挑戦し続けている哲学的な問いです。そう考えると、自分には手には負えそうにないと気が遠くなりますが、同時にこの問いに向き合わない限り、恐らく自分自身が本当に納得のいく答えは出ないのではないか。そうも思えるのです。

ありのままの世界を見る

生きる意味、どうしたらこの大きな問いの答えに近づくことができるのでしょうか。

日本人最初の哲学者と言われる西田幾太郎という人物がいます。今から100年以上前の1905年に、西田は『善の研究』という論文を発表します。『善の研究』はまさに「生きる意味」を問うた論文でした。

私の理解では、西田はまずこの世をありのままに見る、ありのまま体験することを説いています。

私たちは、自分の価値観、世界観、思想や判断、解釈を通して世界を認識しています。「生きる意味」を問う前に、そもそも自分はどんな世界や環境の中で生きているのか、それがどれだけ見えているのか。自分のかけているいくつものメガネを外した上で、世界をとらえ直す必要がありそうです。

「自分」という主語からの解放

ありのままの世界を認識することができた先に、果たして何が広がっているのでしょうか。

近代は「個」が尊重される時代です。「日本語には主語がない」とよく言われますが、「個」を示す「私」という主語が日本に入ってきたのは実は明治時代です。

西田は、「私」が主語になると世界がとても狭くなると言います。では「私」という枠を越えて世界を見るとき、そこには何が見えるのでしょうか。西田は「主客合一の作用」という表現で、他者とのつながりが見えてくると言います。

西田の話は、私に手塚治虫の『火の鳥』という作品を思い起こさせます。

『火の鳥』は物語を通じて「人はなぜ生き、そしてなぜ死ぬのか」を問い続ける作品です。「私」という存在が、生きることに執着し、死ぬことを悲観する。そのことの愚かさを描き、そして宇宙における「私」という存在の小ささを訴えかけてくる。宇宙の営みの中のちっぽけな自分の存在が見えるようになると、今度はすべての命がつながっている世界が見えるようになっていく。そんな物語です。

私たちが問われていること

COVID-19は私たちにこう問いかけているのかもしれません。

「このままでいいのか?」

批評家である若松英輔氏は「近代という時代はいろいろなものを言葉や科学の枠に入れて考えてきた。型にはめようとした時代であり、それが近代化である。それはいわゆる西洋型という型であり、西田はそれに強く反発した」のだと解説します。(※1)

西洋文化は人類に多くのものをもたらし、豊かにしてきました。しかし、いま改めて、これまでの枠組みから自らを解放し、見つめ直し、体験し直すことが求められているのかもしれません。

私はコーチングのクライアントとも「そこで働く意味」を話題にします。そのお一人に、数か月間のコーチングの関わりを通じ、コーチングを始める前と後でおっしゃることが劇的に変化した方がいらっしゃいました。

対話を重ねる中で、その方の働く理由は「Have to」から「Want to」に変化しました。自分のWantの実現だけではなく、人や社会とのつながりの中でなすべきことをいきいきと語られる様子は、まるで人生の「使命」を語っているようでした。

見える世界が変化すれば、そこから紡ぎだされる「生きる意味」は違ってくるでしょう。自分だけの姿を想像するのか、あらゆるつながりの中にいる自分の姿を想像するのかでも、働く理由は違ってきそうです。

あなたには世界がどのように見えていますか? あなたがその会社で働く理由はなんですか?

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【参考資料】
水口貴文著「スターバックスはオンリーワンのブランドであり続ける」(Harvard Business Review)2020年10月号
若松英輔著『NHK 100分de名著 善の研究』(NHK出版)2019年
手塚治虫著『火の鳥 鳳凰編』(角川文庫)2018年
西田幾多郎著『善の研究』Kindle版
※1 NHK 『100分de名著 名著92 善の研究』2019年10月放送

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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