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影響力を発揮する「自分らしさ」

影響力を発揮する「自分らしさ」
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コーチという仕事柄、リーダーシップについて常に考えます。「リーダーシップ」に明確な定義はありませんが、リーダーとしての「周囲への影響力」だということはできるでしょう。

近年、「人は自分らしさを大切にするときにもっとも影響力を発揮する」という考え方を前提に、リーダーとして「自分らしさ」を大切にすることが語られるようになりました。「オーセンティック・リーダーシップ」と言われるものです。

さて、それはいったいどういうことなのでしょうか。「自分らしさ」とは何を意味するのでしょうか。

「ストーリー」の価値と障害

私は、「自分らしさ」とは、自分のもつ「ストーリー」の扱い方と深く関係すると考えています。

人は社会的な動物です。他者との関わりの中で自分の行動を選択します。そして、自分の行動に対する周囲の反応をフィードバックとして受け取り、意味を解釈し、そこからまた行動を選択します。こうして、大なり小なり私たちは「周囲が期待する自分」になっていきます。

文筆家の千野帽子氏は、この過程で培われる「ものの見方」や「考え方」を、その人固有の「ストーリー」と呼びます。

千野氏曰く、「ストーリー」は人を助けもし苦しめもします。

ストーリーが人を助けるのは、それによって「安心・安全」を得ることができるからです。

言うことを聞いていれば怒られない。
まじめにやっていれば報われる。

過去の経験から結果を予測できるので「安心・安全」なのです。

しかし一方で、自分のストーリーの外側については予測がつきません。その恐れから「ストーリー」の中で全てを解決しようとし、「こうあるべき」という枠組みを自分自身や人に押しつけてしまうこともあります。

「落ちてみたら、実は15㎝の高さだった」

私自身、自分の「ストーリー」に苦しんだ鮮明な体験があります。

コーチになりたての頃、私は2つの異なる組織の業務を兼務していました。その状態が始まってしばらくすると、業務量的に兼務が困難になり、職務をどちらかにしてほしいと上司に希望を伝えました。ところがその返答は、

「自分で決めろ。どちらの仕事をするのか選びなさい」

私はひどく困惑しました。というのも、私のストーリーでは「所属は会社が決めるもの」だったからです。それをしない上司や会社に対する怒りのようなものと同時に、自分が選ばない方の組織の人たちがどういう反応をするだろうという恐れもありました。

自分の意思を伝える相手は、選ばない方の組織を担当する取締役でした。毎日「今日こそ言おう」と思っても言い出せず、その取締役の姿をオフィスで目で追ってはそらし、腰を浮かそうとしては、座りなおす、そんなことが3週間も続きました。

ある日、意を決してその取締役の部屋をノックしました。自分の中では、大げさではなく決死の思いです。

「自分の意思を伝えることで、嫌われるのではないか」「もうこの取締役とはこの先仕事ができないだろう。この会社で働いていく上でどれくらいのダメージを負うのだろうか」 そんなことを考えながら、話をしました。

しかし、その取締役から返ってきたのは次の一言でした。

「そうか。いいじゃん。僕は今城くんの成功を願っているよ」

その瞬間、自分が「いかに自分のことしか考えていなかったか」を思い知り、強烈な恥ずかしさを覚えました。自分の想定(ストーリー)と現実に起きたことのあまりの違いの大きさに茫然としたことをよく覚えています。

前述の千野氏は「断崖絶壁にせり出している木の枝にしがみつき、落ちないように必死になっていたが、落ちてみたら、実は15㎝の高さだった」と表現していますが、まさにそのような体験でした。

大げさではなく、私にとっては決死の思いの行動でしたが、結果として期待や希望を実感することになりました。

まずは「ストーリー」を手放す

このあと、私にはいくつかの変化が訪れました。

周囲から「最近、顔つきが変わった」「コミュニケーションが軽やかになった」というフィードバックをもらうようになり、やがて「エグゼクティブ・コーチングをアサインされる」「マネージャーとしてチームを任される」など役割や立場が変化しました。

周囲との関係性やパフォーマンスの変化につながったこの体験は、「自分らしさ」を大切にする「オーセンティック・リーダーシップ」についての大きなヒントになっています。

「自分らしさを発揮する」というと、つい自分の個性やオリジナリティを活かすことに意識が向きます。しかし大事なのは、自分の握りしめている「ストーリー」をまず「手放してみる」ことかもしれません。

私にとって先の体験はまさに「ストーリー」を手放した体験でした。それ以降、私には「こうあるべき」を越え、「臆せずに自分が考えたことを言う」、「周囲からの依頼をはっきりと断る」など周囲への関わり方の選択肢が増えました。結果として、自分の力を発揮することにつながり、役割や責任の変化が生まれたのです。「こうあるべき」を手放すことは、自分の価値観を見つめ直すことにつながり、それは新しい「ストーリー」となりました。

* * *

コーチングで目標に向かうプロセスでは、自分自身を深く知り、自己認識を高めていきます。それは「自分のもっているストーリー」を認識するプロセスであり、自身の価値観を再認識する試みでもあります。

「自分のストーリー」を客観的に意識することができれば、新しいストーリーの存在に気づくこともできます。

新しいストーリーは、あなたの影響力に変化をもたらしてくれるかもしれません。

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【参考資料】
フランシス・フライ(ハーバード・ビジネス・スクール 教授)、 アン・モリス(起業家、創設者兼代表)著 、高橋
由香里訳『リーダーの信頼を支える3つの力』DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2020年7月号

千野帽子著『人はなぜ物語を求めるのか』(ちくまプリマー新書)、筑摩書房、2019年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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