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人は、自分が参加した対話を通じてリードされる

人は、自分が参加した対話を通じてリードされる
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先日、当社のイベントで、株式会社商船三井の池田潤一郎会長と対談させていただく機会がありました。

池田会長は、社長に就任された7年前からエグゼクティブ・コーチングを受けていらっしゃいます。昨年、会長になられてからは、自らがコーチとしてグループの子会社に新たに就任された4人の社長のコーチングをされるようになりました。私は現在、その4人の社長へのコーチングをサポートさせていただいています。

親会社の会長が子会社の社長をコーチする。

とてもユニークなスキームです。

『塾』ではなく、コーチングを選んだ理由

対談で伺いました。

「会長職に就かれると、自分の経験を後輩たちに伝えていくことを目的に、いわゆる『塾』のような場を設けられる経営者が多いように思います。池田さんはそうした選択肢をお考えにならなかったのですか?」

池田会長は、少し照れたような表情で、しかし、とても嬉しそうに答えてくださいました。

「実は、初めは『池田塾』みたいなものを考えていたんです。私にも伝えたいことがたくさんありますから。でも、人事担当の常務から『子会社の社長に対してコーチングをしてほしい』と言われ、『そうか、そっちか』と。

コーチの第一の仕事は、じっくり聞くことです。社長だった時代は、短期間に多くの意思決定をすることを第一優先にしていて、部下の話をじっくり聞く時間をとってきませんでした。自分がコーチングを受ける中で、話をすること、聞いてもらうことの価値を感じていたこともあって、今回は『教える』ではなく『じっくり聞く』にマインドセットを完全に変えて臨みました。

今回の新社長たちは、比較的若い人たちです。なので経験も浅く、その分、不安も大きい。不安が高い人に対して、あれをやれ、これをやれと指示すれば不安は解消されるかもしれませんが、それだと結局『池田に聞けばいい』という姿勢になってしまう。それは『自分が社長になる』というプロセスを考えると、間違った方向だと思うのです。

まずは話してもらって、じっくり聞く。相手は、話しているうちに頭の中が整理され、落ち着いて、考えることができるようになります。自分の判断に自信がもてたり、間違いに気づく。私は相手が話したことを受け取り、自分の意見も伝える。そんなやりとりをしながら、一人ひとりに社長としてのストーリーを描いてもらうことを意識しました」

ここまでお話を聞いて、4人の新社長にとって池田社長との関わりは、自ら「社長とは何か」を考えるプロセスとなっていたのではないか。そのように思いました。

「教える」「教わる」ではなく、一緒に考える

人は、自分が参加した対話の中で構築された意味にリードされます。与えられた意味ではなく、自ら構築した意味に影響を受ける。

たとえば、リーダーの経験のある人が後進に対して、自分の経験から紡ぎ出した「リーダーとしてあるべき姿」を示すアプローチがあります。いわゆる、上述した『塾』スタイルです。

一方で「リーダーの役割とは何か」について、一緒に考えるというアプローチもあります。そのとき、経験のある側が経験のない側に対して、何も伝えないわけではありません。自分の経験をもとに、自分の意見を伝える。そのときに大切なのは、自分の意見を「正解」とするのではなく、相手にも考えてもらい、それを言葉にしてもらう。それを聞いて、自分も改めて考え、言葉にする。そのやりとりの中で、二人の間で新しく「リーダーとは何か?」を築き上げていく。

いわゆる「教える」スタイルに意味がないわけではありません。しかしたとえば、1時間のうち55分間、経験を一方的に伝え、5分間質疑応答の時間をもつのと、二人で向かい合って対話をし、新しい意味の構築を図るのでは、どちらのほうが相手の行動により強い影響を与えるでしょうか。

さらに、前者では、伝える側の視点が固定されたままになりやすい一方で、後者は、伝える側、つまり経験のある側にとっても、視点が動く機会になります。後者は、「教える」「教わる」関係を越え、経験のあるなしにかかわらず双方にとって成長の機会になり得るのです。

***

組織の中の関係性には、役職や役割、年齢、経験の長さなど、対等なコミュニケーションを阻害する要因が数多く存在します。

しかし、たとえば、会長が、社長が、上司が、自分の経験をベースにした視点から問いを部下や後輩との間に置き、それぞれがその問いに向かって思いの丈を話す。教え、教えられるという一方通行の関係ではなく、意味を創り出すという双方向の作業のパートナーとして関わる。

上も下もなく「よりよいリーダーを目指す旅路を歩んでいる」という点ではまったく同じ立場にあるというスタンスで、ともに話す。部下や後輩の中に生起するであろう「恐縮」や、「教えを乞う」というマインドを、ありとあらゆる方法で拭い去り、そしてともに話す。話して、話して、お互いの間に意味を創り出す。

一緒に創りだした意味に、相手も自分も間違いなく大きく影響されるでしょう。上司部下の関係でいえば、上司に与えられた正解ではなく、部下自身が自ら創り出した意味にリードされていく。

そんな対話が組織のあらゆるところで起こったら、本当に素晴らしいと思うのです。

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