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行動をデザインする

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『ドレスは、あなたを今日一番の敵のところへ向かわせる』

これは、ココ・シャネルの言葉です。(※1)

今回は、シャネルの言葉が意味することをイメージしながら、「行動のデザイン」について考えたいと思います。

行動することが大事なのはわかっているけれど

私たちは誰しも「行動」が重要であることを知っています。仕事上での目標、年始の抱負など、考えるだけでは達成できません。本当に達成しようと思ったら、新たに行動を起こしたり、行動を変化させることが必要です。しかし、年始の抱負を達成しないまま一年を終えてしまう人も多いことを考えれば、実は行動を起こすことは私たちにとって難しいテーマだということがわかります。その証拠に、行動にまつわる本は常に書店の棚をにぎわせています。

なぜ行動を起こすことは難しいのでしょうか?

行動が抑制されたり、先送りされるのには、実は私たちの脳の特性が大きく影響しています。私たちの脳は、"効用最大化"の原則ではなく、"努力の最小化"によって動いているからです。(※2)つまり脳は、消費するエネルギーを最小限にしたいのです。考えなくて済めば、考えないようにしたい。ですから、できるだけ同じ行動を繰り返すようにしたり、リスクを伴う新しい行動を避けたり、ということが起こるわけです。(※3)

この脳の特性が故に、私たちにとって「行動を起こす」「行動を変える」というテーマは、常に困難な状況にさらされています。いつでも省エネモードを選択しようとする脳に対し、私たちはどのようなことができるでしょうか。

身に纏うものが変わると行動が変わる

このときにヒントをくれるのが、冒頭のシャネルの言葉です。

『ドレスは、あなたを今日一番の敵のところへ向かわせる』

この言葉は、一枚のドレスが、それを纏う人に勇気とエネルギーを与え、脳の省エネモードを打ち破って、困難に立ち向かわせる力をもつことを端的に表しています。身に纏うものを変える、つまり自らの環境を変えることは、新たな行動を起こすきっかけになるのです。

みなさんも、身につけた服によって気分が変わることはないでしょうか。自分が一番気に入っているスーツを着て仕事をしている日は、困難な仕事に正面から立ち向かうことができたり、このミッションをやれるのは自分以外ないと思えたりするかもしれません。また、これまでに着たことのないデザインの服に袖を通した時には、これまで感じたことがない可能性が湧いてきたりしたことはありませんか。

私たちは、自分の意思だけで考え、行動を起こしているわけではありません。私たちの思考も行動も、現在、身を置いている環境、関わる人たちの影響を受けています。そういう意味では、身に纏う服も環境の一つといえるでしょう。

行動をデザインするとは

私が本稿で、あえて行動に「デザイン」という言葉を使うのには意味があります。「デザイン」とは、さまざまな要素を考慮した「総合的な計画」です。私の手元にある辞書では「デザイン」の意味について次のように書かれています。

「技術・生産・消費面からの各種要求と、美的造形性などの諸要素の総合的造形計画」(※4)

つまり「行動をデザインする」とは、必要なアクションだけを考えた行動計画ではないということです。「行動しやすい環境」も含めて計画する、それが「行動をデザインする」ということなのだと思います。

そしてそのとき、私が何より大事だと感じるのは、シャネルのドレスのように、私たちの心を躍らせたり、新たな行動を起こす動的なエネルギーを与えてくれるものも含めてデザインすること。「肌身を守る」といった機能を優先した服とシャネルのドレスを比較すると、どうデザインするかによって、私たちに与える影響が違うことがイメージできるのではないでしょうか。

心が躍るようなデザインにするには

先に述べた通り、「環境」にはさまざまなことが含まれます。どこで仕事をするか、誰と仕事をするか、何を身につけるか、何を食べるかといったことも「環境」と考えられます。そして私がお薦めしたいのは、「モデルをもつ」というアプローチです。

みなさんには、自分の行動や思考にポジティブな影響を与えていると感じる人はいるでしょうか。その人のことを思い浮かべると、心が躍るような、あるいはエネルギーが湧いてくるような、そんなイメージが浮かぶ人。

たとえば、エルビス・プレスリー。プレスリーは「20世紀最大の文化的影響力」と称され、音楽界のみならず、社会をも変える存在でした。多くの人が彼のスタイルに魅了され、感化され、影響を受けました。プレスリーの登場前後で価値観が変わってしまうような存在だったわけです。ザ・ビートルズや、最近ではスティーブ・ジョブズも、似たような存在といえるかもしれません。

そうした存在である彼らの風貌や振る舞いを真似るだけで、世の中に対してビッグチャレンジができる気もちになるのかもしれません。実際、ジョブズのスタイルを真似する起業家は数多くいます。モデルとなる人物の服装や行動を真似することで、自分自身の行動を駆り立てているのでしょう。

それ以外にも、仕事でピンチの時に「もし007だったら」と考えると、エネルギーが湧いてくるかもしれません。

脳の省エネモードを取り払って、新しい行動を起こしていくためには、単に行動計画を立てるだけではなく、エネルギーが湧き、ワクワクするような環境を整えることも含めて全体を「デザイン」する。服やモデルはその一つの例です。

あなたの行動を後押ししてくれるのは、どんなことですか?

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【参考資料】
※1 「ココ・シャネル──新境地を開いた女の人生を輝かす30の言葉。」、VOGUE JAPAN、2022年8月19日
※2 マッテオ・モッテルリーニ(著)、泉典子(訳)、『経済は感情で動く:はじめての行動経済学』、紀伊國屋書店、2008年
※3 ロバート・マウラー(著)、本田直之(監修)、中西真雄美(訳)、『脳が教える! 1つの習慣』、講談社、2008年
※4 新村出編、『広辞苑 第7版』、岩波書店、2018年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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