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「今ここ」を感じる

「今ここ」を感じる
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読者のみなさんにとって、2022年はどんな1年だったでしょうか? コーチ・エィにとっては大きな転換点となる1年でした。昨年末に東証スタンダード市場に上場を果たしたことは、そのハイライトといえます。改めて、創業以来、弊社を支えてくださった多くのみなさまに深く御礼申し上げます。

そして今日はこの場を借りて、上場当日の私の「感覚」を振り返っていきたいと思います。その日に私が感じたのは「嬉しいはずなんだけど、実際、嬉しいんだけど、どこか現実感がない」、そんな感覚でした。そのときの自分を振り返ることは、何らかの学びにつながりそうです。当日はどう言葉に表していいのかわからなかったその感覚を解釈する過程に、おつきあいください。

上場当日の私の「感覚」

2022年12月の上場日、凍てつく雨の中、上場セレモニーに参加する30名ほどのメンバーが、東京証券取引所に集まりました。寒い天気とは裏腹に、集まったみんなの顔はどこか晴れやかで、高揚していました。もちろん私自身もです。「やっとここまで来た」という感慨とともに「ここからが本当のスタートだ」と気合を入れ直す、そんな気分でした。

一方で、どこか冷静な自分がいる自覚もありました。現実味がないというか、思ったほど感情が高ぶらないというか、目の前の体験を味わおうとすればするほど、自分が「今ここ」にいないような感覚がありました。

楽しみにしていたことほど、実現された時に思ったほど「楽しくない」と感じるような感覚。もったいないような気もするけれど、どうしてよいのかわからない。もっと感情が動いていいはずなのに、妙に冷静な自分がいるという感覚。振り返って気づくのは、そもそもこうした感覚を味わうのが珍しくないことです。

たとえば、学生時代に初めてグランドキャニオンを訪れた時のこと。目の前に広がる壮大で素晴らしい光景に圧倒されつつも、「写真と同じ光景だな」と思う自分もいました。本当はもっと感動したいのに、どこか冷めた感覚がある。心からの感動が沸き上がってこないことに、後ろめたささえ感じたものでした。

上場とグランドキャニオン旅行には一つ、共通点があります。それはいずれも「事前に自分なりにその光景のイメージを重ねていた」ということです。情景を思い描くだけではなく、その時の感情や感覚さえイメージしていました。ある意味、「その場に遭遇したらこう感じるんだ」と、自分の中でプログラムしていたといえるかもしれません。

「今ここにいる」ことを感じる

ここで、日常的にも同じような感覚を味わっている可能性に思い至ります。

初めてのお客様へのプレゼンテーション、クライアントとの初めてのセッションなど、初めて体験する場面に向けて、事前に何度もイメージを重ねて心の準備をする。言ってみれば自分の経験不足を補うために、脳内でそうした準備を行うことが多々あります。そうやって想定外を減らし、失敗の確率を減らし、自身のエネルギー効率を高めているのでしょう。

しかし、事前に備えることによって得るものがある一方で、新鮮に感動を味わう感覚を失っているとしたら、それは自分にとって「よいこと」なのだろうか? という問いも浮かびます。

近年、注目を浴び、市民権を得つつあるマインドフルネスの世界では、「今ここにいる」「今を生きることこそ幸せの近道である」といわれます。

しかし、やっぱり難しいのです。上場を前にいろいろ妄想もするし、その日になれば、この節目を会社と自分の成長につなげなければならないとも考えます。そういった思考をしている自分を脇に置き、「今ここにいる」「ここだけに集中する」を考えれば考えるほど、その意識から離れてしまうような感覚に陥ってしまうのです。

さらには、友人が上場した時の話や、グランドキャニオンの写真や映像など、事前に手にする情報が、これから起こる出来事をより「楽しみなもの」にしてくれているのも事実です。おそらく現代人にとって、事前情報を遮断して、一つひとつのことに新鮮に向き合うというのは現実的ではないといえます。

では、情報を取り入れ、事前にイメージを膨らませる行為を否定せずに、もっとその場を感じるにはどうしたらいいのでしょう?

「いい、悪い」ではない

上場当日、私はどう向き合えばよかったのか。

「上場した」という事実。セレモニーに参加しているという事実。その日の光景を何度もイメージして来たという事実。その一方で、「すごく特別なわけではなく、普通の一日とそう大きく変わらないかもしれない」とその場で感じている事実。

その時に私が何を思おうが、意識しようが、そのすべての事実を含めて、結局「自分は今ここにいる」という事実は変わりません。

つまり、一つひとつの準備や感情は、正解不正解で語れるものではないということです。

準備してきたことやその場で味わう感情を肯定し、自分の五感に敏感になることで、勝手に失望することからも、過剰に不安を感じることからも、離れることができそうです。自分の思考や感情にロジカルさや一貫性を求め、自分の感情を抑圧していたのはまさに自分自身のそういう思考習慣によったのだろうと思いました。

「Don't Think. Feel!(考えるな。感じろ!)」

これは、故ブルース・リーが、主演作である『燃えよ、ドラゴン』の中で放ったセリフです。

私は今年、自分自身への抑圧や「あるべき」を脇に置き、シンプルに「今ここにいる」事実をそのまま受け入れて、そこで「感じる」ことをそのまま受け入れていく感覚を鍛えてみようと思います。

「あの時、自分はそう感じた」「今このように感じている」「それが違っても、それは矛盾ではない、変化である」。いい悪いではなく、それをそのまま受け止める。

この原稿を書き上げた今、じんわりとエネルギーが沸き上がるような感じがしています。

みなさんは、上場当日の私のような感覚を味わうことはあるでしょうか。

目標を立てて達成しても、何か達成感や幸福感が弱いという感覚があれば、今よりもう少し「今ここにいる」を味わう力を一緒に鍛えてみませんか?

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【参考文献】
レイチェル・イザドラ(著)、山口創(監修)『「感じる」を育てる本』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年
鈴木義幸著『理想の自分をつくる セルフトーク・マネジメント入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年
映画『燃えよドラゴン』1973年

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