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コミュニケーションが新しい関係をつくる

コミュニケーションが新しい関係をつくる
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私の駐在するタイ・バンコクでの同僚との一幕です。

ある金曜日の夜、同僚のAさんと私はクライアントとの会食を終え、ご相談いただいた内容を振り返り、次のアクションを決めて店を出ました。

私にとって一週間の区切りとなる金曜日の夜は、何とも言えない開放感があります。普段は街を歩かない私ですが、金曜日のそんな気分も手伝ったのか「今日は歩いて帰ってみない?」とAさんを誘い、旅行者や居住者で賑わうバンコク中心部の雑踏の中を歩いて帰ることにしました。

陽が落ちて少し涼しくなった雑踏の中を歩きながら、とくに目的もなくAさんといろいろな話をしました。Aさん自身のことやAさんの家族のこと、最近仕事をしながら感じていることなどを聞いているうちに、普段から一緒に仕事をしているAさんを、これまでより近く感じるような感覚になりました。やがて話はコーチングの話に及びました。

「Aさんがコーチとして乗り越えたいテーマってどんなこと?」 

Aさんのコーチとしての成長をテーマに話し始めたものの、いつしか話の矛先は「クライアントが変化をつくりだしていくために、コーチとして何ができるのか? どんな在り方を選ぶとよいのか?」という、Aさんと私に共通するテーマに話が移っていきました。

コーチングについては、それぞれが自分なりの考えを持ち合わせてはいるものの、そこに唯一の正解があるわけではありません。それぞれの体験の中から見つけたこと、疑問に思うことは違って当然です。相手との間に問いを置き、二人がそれぞれの考えを話し、そこからさらに考え、また話し、というやり取りを続けているうちに、もっともっと話がしたくなり、途中寄り道までして話し続け、名残惜しさを抱えつつも、家の近くの最後の交差点でAさんと別れました。

「対話」の生まれる条件

その翌日、Aさんは前日のやり取りを振り返り、私にメールを送ってくれました。そこにはこんなことが書かれていました。

  • 問いを間において意見を交わすことで、自分の中に散在した知識がつながる感覚があった。その一つは「一緒に考えるスタンス(在り方)でいる」ことの重要性。自分の在り方がモノの見方に影響する。上司は部下を若くて経験の浅い人と見るか? 共創するパートナーとみるか? 部下は上司を、正しい答えを持つ人と見るか? 共に考えるパートナーとみるか? 相手をどう見るかでお互いの関わりは変わるのではないか?
  • 一緒に考える在り方を選んだ場合、出てくるアイディアはもとより、関係性そのものに変化が起きる。相談しやすくなる、本当に感じていることが自由に言えるのもその一つ。
  • 関係性の変化はお互いのパフォーマンス、組織のパフォーマンスに影響する。

Aさんからのメールを読み、Aさんの中ではあの後も対話が続いていたのだと感じました。たしかに前夜のAさんとの対話は自分にとっても新鮮な体験でした。問題の解決策を探すのでもなく、相手を説得しようとするのでもなく、相手の考えていることをもっと知りたいと感じる時間。それぞれが自分の思索を深めながらも、共通の理解を一緒につくっていく。そんな体験がそこにはありました。

量子力学の世界的権威であり哲学的思索でも名高いアメリカの物理学者デイヴィッド・ボームは、その著作『ダイアローグ』の中で、人々がつくり出す対話について以下のように述べています。

「コミュニケーションで新しいものが創造されるのは、人々が偏見を持たず、互いに影響を与えようとすることもなく、また、相手の話に自由に耳を傾けられる場合に限られる」

金曜日のやりとりを思い出しながらAさんのメールを読み、私はこのボームの一節を思い出しました。

普段オフィスにいる時の私は、早く答えを出そうとする傾向があります。先が予測できることについては、なおさらそうです。一方で、答えがないことを探索する時間も持っていますが、改めて振り返ると「答えがない」と言いながら、答えを探そうとしていたような気もします。

金曜日のAさんとのやりとりは、立場や年齢、経験の差を超えて、答えのない問いに向き合うことで、ボームの語るような「対話」の時間になっていたのかもしれません。

***

私たちは、日々答えが一つとは限らない問題に囲まれています。それでもそこに対して、何らかの判断や決断を下さなければなりません。だからこそ、新しい情報や知識を求め、先人の経験を学び、新しい視点を得ようとするのだと思います。人と関わるのも、新しい視点を得るための一つの手段といえるでしょう。

Aさんとの対話の体験を経て振り返ってみると、私自身の普段のコミュニケ―ションは、主に判断や決断をするためのコミュニケ―ションになっていた気がします。こうしてみると、そうしたコミュニケ―ションは必要である一方、それに偏ることで自分の視野を狭くしていたようにも思えるのです。

相手と自由な対話を創り出し、自分や相手の外側にある考え方に触れることが出来たら、Aさんのメールにあったように、組織のパフォーマンスも変わっていくかもしれません。「もっと話したい」。お互いにそんなふうに感じられる対話が組織のあちこちで生まれたら、それはどんな未来につながっていくでしょうか。一見、無駄な時間に思えるかもしれません。しかし、Aさんとの対話の時間を経て、私にはその時間が組織にとってよりよい判断や決断につながっていく可能性を感じます。

あなたは普段、何のために周囲の人とコミュニケーションをとっていますか?

周囲の人とのコミュニケーションがどんな時間になったら、そこに違う未来が見えそうですか?

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【参考資料】
デヴィッド・ボーム (著)、金井真弓(訳)『ダイアローグ ― 対立から共生へ、議論から対話へ』英治出版、2007年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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