Coach's VIEW

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すぐやる、なりきる、とことん楽しむ

すぐやる、なりきる、とことん楽しむ
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昨年12月の初め、社長から一通のメールが届きました。

「みなさんに折り入ってお願いがあります。最終日に納会がありますが、そこで、みなさんに『きつねダンス』を披露いただきたいのです。コーチ・エィのバリューである『すぐやる、なりきる、とことん楽しむ』を体現し、共有する、とても重要なアトラクションです。ぜひ100%準備して臨んでください」

「きつねダンス」とは、昨年日本ハムファイターズの応援として話題になり、流行語にも選ばれたダンスです。どうもこのメールは、会社の納会の余興メンバーに選抜されたということを知らせるもののようです。私の内側では、「なぜ自分が?」という戸惑いと、リズム感が全くなく、ダンスが苦手な自分に果たしてできるのだろうか、という不安が頭をもたげました。しかし「すぐやる、なりきる、とことん楽しむ」は弊社が大事にしているコアバリューの一つです。ここはやるしかないと腹をくくりました。

「なりきった」ときに感じたこと

私はもともとあまり羽目を外すタイプではありません。どんなに盛り上がっているときも、冷静な自分がいて、「これ以上は超えないように」と自分をセーブしているような気がします。

コーチ・エィに入社して間もない頃、エグゼクティブコーチの先輩である社長の鈴木にお願いして、コーチングを受けたことがあります。そのときにこんなフィードバックをもらいました。

「有吉くんは、どこか自分を制御しているところがあるように感じる。笑うときに、一瞬クッとためが入るんだよね。いったいどこで制御しているんだろうね?」

自分では全く気づいていなかったことを指摘されて驚きましたが、どこか思い当たるところもありました。

さて、話は「きつねダンス」に戻ります。

腹をくくった私は、さっそく衣装を準備し、「きつねダンス」に選抜された5人のメンバーで練習を開始しました。ダンスが苦手な自分は、行き帰りの電車でYouTubeを観てイメージトレーニングをし、自宅でも家族にばれないようにこっそり練習もしました。

なんとか最低限の形にはして、迎えた本番当日。出番がくると、まるで学生のように、「とにかく楽しむぞ、オー!」とメンバーで手を合わせ、宴会場の舞台に飛び出していきました。そして無我夢中に踊りながら、会場全体が大盛り上がりしているのを感じていました。

余興が終わった後、会場に戻ると、見ていたメンバーから「有吉さん、ずっと笑顔でしたよ」と言われました。おそらくその時には、クッというためはなく、笑っていたのだと思います。

そう、純粋に楽しかったのです。

自分自身を変えるとは

コーチ・エィのエグゼクティブ・コーチングでは、初期の段階で対象者のリーダーシップに関する360度のアセスメントを実施します。クライアントご本人、そして上司、同僚、部下から回答してもらったフィードバックからは、クライアントがこれまで築き上げ、選んできたリーダー像がたしかに浮かび上がってきます。

クライアントのみなさんは成功者ですから、これまでのご自身のリーダーシップに自負があります。しかし、新しい役割や状況の変化によって、従来のリーダーシップが機能しない場面も訪れます。たとえそうだとしても、それまでの自分のやり方を手放すことは容易ではありません。

アセスメントの結果を踏まえて、あるクライアントの方に、「これからどんなリーダーになっていきたいか」と尋ねると、こんな答えが返ってきたことがあります。

「本当は、〇〇なリーダーになりたいし、憧れる。でも、これまでのやり方で成功してきたし、自分は性格的にも△△なリーダーであることを選びたい」

現在の役割、立場では、本当は変わったほうがいいのかもしれない。頭ではわかっているのです。でも、いざ「変わる」となると難しい。

それは今までの自分が否定されているということではないか。
そもそも、今更自分を変えることなんて、できないのではないか。
それに、そんなリーダー像は、自分のキャラではないのではないか。
周囲からはどう思われるだろうか。

ありとあらゆる躊躇や抵抗が、頭に浮かんでくるのだと思います。

たしかに自分自身を変えることは難しいかもしれません。でも、「演じる」ことはできるのではないでしょうか。そして、とことんその役柄になりきってみる。

「きつねダンス」の体験を通して、私には「なりきる」ことで、新しい可能性を手に入れられるという実感をもつようになりました。

「演じる」ためのポイント

では、一体どうすればうまく「なりきって演じる」ことができるのでしょうか?

演じることのプロといえば、役者・俳優です。『俳優のためのハンドブック』という本に、演じるためのポイントが以下のように書かれています。

「演技とは、芝居という想像的な状況を『真に』生きることです。これは二つの領域に分けることができます。『アクション(行動)』と『モーメント(その瞬間)』です」(※)

「モーメント」とは、「その瞬間に起きていること」を指します。演技は、相手役があって成り立つものです。このシーンはどのように演じられる"べき"か、どう演じれば"正解"なのか、という視点ではなく、相手役に実際に「起こっていること」を受け取り、その中で自分に生じた「衝動」を批評せず、衝動のままに演じることが大事だというのです。

この本では、「演じること」は、「シンプル」で「明確な」アクションを決めて実践すること、そしてそのアクションは「楽しい」ものであることが重要だ、とあります。

「演じる」こととは、まさに「すぐやる、なりきる、とことん楽しむ」ことと言えると感じました。

「演じる」ことでの新しい可能性

役者のように、時と場合によって、様々な役柄を演じて、とことんなりきることができれば、バリエーション、選択肢を無限に広げることができます。

もちろん我々はプロの役者ではありません。演じることもそう簡単ではないかもしれませんが、「きつねダンス」で「なりきった」体験を通して、私自身は自分がこれまで選んでこなかったことに対しても、「やってみようかな」という許容度が上がったように感じます。

そもそも、自分が「本当の自分」と思っているあなた自身も、単に「演じて」いるだけかもしれません。「すぐやる、なりきる、とことん楽しむ」ことで、新しい可能性を開いてみませんか?

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【参考資料】
※ メリッサ・ブルーダー、 リー・マイケル・コーン、 マデリーン・オルネック、 ナサニエル・ポラック、 ロバート・プレヴィット、 スコット・ジグラー、 デヴィッド・マメット (その他)、 絹川友梨 (訳)、『俳優のためのハンドブック ─明日、舞台に立つあなたに必要なこと』、フィルムアート社、2012年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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