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希望へと向かう対話

希望へと向かう対話
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Language: English

「どうしたら、もっと主体的な挑戦が生まれるのでしょうか?」

「挑戦」をテーマに3年間一緒に取り組んできたお客様から、そう聞かれました。そのお客様とのプロジェクトでは確実に成果が出ていましたが、「もっと大きな成果を創り出すためのヒントが欲しい」というアグレッシブな問いかけでした。

挑戦への鍵

その問いに対する答えを探すために、プロジェクトの担当メンバーとともに、プロジェクトの中で実施したインタビューを見返すことにしました。一つひとつのコメントを見返しているうちに、同僚のコーチがこんなことを発見しました。

「挑戦は、一人で起こしているわけではない。必ず誰かと一緒になったところで生まれている」

さっそくお客様とともに、改めてここから学ぶべきことが何なのかを話し合いました。お客様にとっても、このことは盲点だったようです。

社内で新たな挑戦を求めるとき、私たちはどうしても社内にいる個人に目を向け、一人ひとりに呼びかけます。そして各自が目的と責任を自分に手繰り寄せ、今以上に頑張る、そんなことを期待しがちです。

しかし、3年間のインタビューを眺めたとき、私たちが発見したことは、そのイメージとは違っていました。挑戦は一人からではなく、コラボレーションから生まれていたのです。

コラボレーションは人間の本質

アダム・カヘンは著書『敵とのコラボレーション』の中で、医者であり、研究者であるルイス・トーマスのこんな言葉を引用しています。

「協力関係を結ぼうとする衝動、協力的な取り決めで連携しようとする衝動は、おそらく自然界で最も古く、最も強く、最も根源的な力だろう。孤立した自由な生き物などいない。あらゆる生命体は他の生命体に依存しているのだ」(※1)

生存するうえで個の力では多くの生物に劣るホモ・サピエンスが、今日まで生き残ることができているのも、まさに協力がうまかったからだと言えるのではないでしょうか。そう考えると、私たちホモ・サピエンスの最大の強みは、協力し協働すること(コラボレーション)だということができます。コラボレーションは、私たちのDNAの深くに刷り込まれており、コラボレーションする姿こそが、私たち本来の姿と考えてもいいわけです。

コラボレーションは、本来、私たちが自然にできることであり、実際に人類はずっとそうしてきた。そう言われれば、そうかもしれないと思う自分がいる一方で、ちょっとした違和感を感じる自分もいます。

つまり、私自身が、他者とのコラボレーションを少し難しいと感じているのです。

コラボレーションを狂わせる私たちの前提

私がコラボレーションを難しく感じる理由はいくつかあります。

「人は自分の利益を追求する生き物である、簡単に信用してはいけない」

そんな前提が、根底にはあるのかもしれません。

「私自身のこと、私の意図は、本当に理解されるのか、結局のところわかり合えないのではないか」
「価値観や文化の違い、そこから生まれる偏見を乗り越えることができるのか」

そんな懸念もあるかもしれません。

「意見が食い違ったらコンフリクトが生じる、立場上、相手が上なら自分は不利な状況に立たされる」

これらはおそらく、私が心の奥底で払しょくできずに持っている、人間に対するちょっとした不安であり前提です。こうした前提が、私を不安にさせるのでしょう。コラボレーションしようと思った時に湧いてくる懸念や不安を数え上げたらきりがなく、「自然に、気軽にコラボレーション」なんて、とても言えたものではありません。

みなさんはどうでしょうか。どんな前提があるでしょうか。

ルトガー・ブレグマンからの挑戦状

『Humankind:希望の歴史』という本があります。その著者、ルトガー・ブレグマンは、その著書の中でこれらの前提にまっこうから挑戦してきます。

彼の結論はこうです。

「ほとんどの人は本質的にかなり善良だ」(※2)

ブレグマンは、私たちの本質は、決して利己的でも攻撃的でもないといいます。心理学や生物学、考古学や人類学、社会学や歴史学における最新のエビデンスから、私たちは数千年にわたり、誤った自己イメージに操られてきたと主張します。たしかに、東日本大震災を含む多くの事例が示すように、私たちは本来善良で利他的なのかもしれません。

ブレグマンは、狩猟採集時代においては、人間はいまよりはるかに平等で、寛容で、協力的な関係を互いに持っていたといいます。私たちの暮らす社会は、狩猟採集時代とは違います。遥かに複雑化し、普段生活を一緒にしないような人とも何かをすることを求められます。しかし、もし人間の本質が変わっていないのだとしたら、私たちは単に、お互いのことをあまりに知らなすぎるだけかもしれません。そんな中、互いが互いを「相手はきっと利己的な存在だ」と勝手に警戒し合っているだけかもしれません。

少なくとも私自身は、相手が何を欲していて、どんな目的でこの場にいるのか、何を好み、何を嫌うのか、そうしたことに多くの場合自信をもって答えられるとはとても言えません。

希望ある未来へ

ちゃんと話してみたら、実は心配したほどではなかった。

もしかしたら、多くの人にそんな体験があるのではないかと思います。

「話してみたら」。つまりそれは、対話するということです。

お互いの話に耳を傾ける。違いがあっても、それを一旦は受け止め、理解に努める。そのことを通じて相互理解が生まれ、信頼関係が構築される。

そこには、共通の目標や、新しい解決策が生まれる可能性があります。また、違いを理解しようとする行為は、自分自身のこれまでの見方や考え、姿勢や行動を変容させていく可能性さえも持っています。

ブレグマンは、私たちが古い前提を捨て、目の前にいる人への見方を変える、つまり大半の人は親切で寛大だと考えるようになれば、全ては変わると言います。

私はそれに加えて、「対話に飛び込もう」とも言いたいと思います。それができたなら、どんな未来が訪れるでしょうか。

多様性が認められながら、人と人がもっと理解しあう未来。
周囲との競争に勝つためではなく、共生の中で共に豊かになるためのビジョンを共有している未来。
違いを超え、人と人がもっと協力し、そこから喜びや安らぎを見出している未来。

みなさんが望む、人類のこの先の未来とはどんな未来でしょうか。

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【参考資料】
※1 アダム・カヘン(著) 小田理一郎(監訳)東出顕子(訳)『 敵とのコラボレーション――賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法』英治出版、2018年
※2 ルトガー・ブレグマン(著) 野中香方子 (訳)『Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章』文藝春秋、2021年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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