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組織はどこに存在しているのか?

組織はどこに存在しているのか?
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みなさんの所属する組織は、どこに存在するのでしょうか?

オフィスのある建物の中なのか、ホームページ等に掲載されている組織図なのか、社員一人ひとりの情報が登録されているサーバーの中なのか。

物理的な意味での「組織」については、上記のいずれも正しいと言えるでしょう。しかし同時に、どれも「組織」を表現するには不十分であるようにも感じられます。

「自分が組織に所属している」という事実は存在するものの、その「組織」がいったいどこにあるのかについて、私たちが普段意識することはありません。こうして改めて考えてみると、わかっているようで、実ははっきりしない面があります。

では、組織とはいったい何なのでしょうか。

意味を与えることは、価値を創り出すこと

文化人類学者のクリフォード・ギアーツは著書の中で、こう書いています(※1)。

「人間は、自分がはりめぐらした意味の網の中にかかっている動物である」

私たちは一人ひとり、自分の生きる世界を見たいように見ています。この世界は、決して誰にでも共通の、客観的な存在ではありません。

私たちは、同じものを見ていても、必ずしも同じ解釈、同じ意味づけをするわけではありません。世界中のすべての人が、その人固有の「意味の網」、つまり「意味の体系」を通じて世界を「解釈」しています。言ってみれば「世界」は、世界の人口の数だけ存在するともいえます。

フィリピンの山岳民族であるハヌノー族は、何百種類もの植物を識別し、自分たちにとって有用なもの、有害なものを把握していると言われます(※2)。「識別できる」ということは、彼らにとって、植物の小さな差異の一つひとつが意味を持っているということです。言い換えれば、それぞれ違う意味がついているから識別できるわけです。

たとえば私は、同じ植物を見ても、彼らと同じようにそれらを識別することはできません。なぜなら私は、それぞれの植物の意味がわからないからです。それはつまり、その植物を利用したり、危険を回避したりはできないということです。

このことからわかるのは、「意味を与える」ことは、「世界から価値を取り出す」営みでもあるということです。

この民族が、自らの生活環境の周囲に自生する植物に対して、このような意味の体系を持つに至るには、おびただしい数のトライ&エラーがあったはずです。食べられるものと食べてはいけないものも、ある症状や怪我に対してどの植物が有効なのかも、実際に試して、その効果を確認することで、体系が創られていったのでしょう。

自分たちが環境に適応し、生き残っていくために、一人ひとりの実践と体験から詳細に識別できる知識が作られ、植物に対して豊富な意味をもつことに至ったはずです。過去から現在に至るまで、多くの人たちがこの意味の体系を構築することに参加してきたことは想像に難くありません。意味を創り出し、共有していくプロセスは、彼ら独自の社会をつくっていくプロセスでもあったわけです。

このことは「組織はどこにあるのか」という問いのヒントになるかもしれません。

意味を共有することで「組織」になっていく

「組織」とは、「世界から価値を取り出す意味体系を共に創る」という営みを共にする、過程そのものなのかもしれません。先の民族のように、実践を繰り返し、互いに体験を持ち寄って関わり合うことで、意味を共有していくプロセスを「組織」と定義するのはどうでしょうか。物理的にただ共にいるからといって、組織と呼べるわけではないのです。

ギアーツは、人間について「意味の網の目にかかっている」と表しました。だとすると、組織も、「人と人が関わり合い、共有する意味の網の目に引っかかっている」と言えるかもしれません。

私たちはコーチングの中で、クライアント自身に自分を取り巻く関係者とのネットワーク図を描いてもらうことがあります。自分に関係する人たちを紙に描き出していくと、それはさながら網の目のようになります。

関係者を図に描くだけでは、物理的な集まりの可視化に過ぎません。しかし、紙の上に描かれた登場人物とクライアントとの距離感や関係性の良し悪し、さらに、お互いの間にどんな「意味」を共有できているかを一つずつ見ていくと、ネットワーク図が「意味の網の目」になっていきます。

  • 誰とどのような意味を共有しているのか?
  • 新たにどんな意味を共有したいのか?

先日、このネットワーク図を「意味の共有」という観点で眺めたクライアントは、こうつぶやきました。

「自分はこれまで、オープンに他者に働きかけて、仕事を前に進めてきた自負があります。一方で『やらねばならないこと』が大量にある状況で、自分自身がそのことに対してもっている意味を発信し、相手にとっての意味を聞き、共有していくというプロセスを置き去りにしてきた感覚もあります。改めて『意味の共有』という観点でこの図を眺めてみると、つながっているように見えながら、このネットワークはとても心もとないもののように感じられます」

彼の言葉からは、「意味を共有すること」の価値が見えてきます。意味を創造し、共有することで、私たちは組織を創り、組織を強固なものにしていくのです。

物理的に集い、やるべきことを協働で進めることは、「意味の共有」がなくても可能かもしれません。むしろ日常のほとんどは、そのように進んでいると言っても過言ではないでしょう。しかし、その中に「意味を共有する」プロセスを創り出していくことができれば、関係性の強さ、組織としての強さにつながります。そのためには、互いに意味を問い合うことが大切です。

まず自分が、自分自身がこの仕事をしている意味を発信する。それから、周囲の人の意味を問う。

問い問われる中で、実践を繰り返すことが組織の意味体系を構築していきます。それはまさに「組織になっていくプロセス」ともいえるのではないでしょうか。

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【参考資料】
※1 クリフォード・ギアーツ (著)、 吉田禎吾ほか (訳)『文化の解釈学(1)』 岩波現代選書、1988年(第2刷)
※2 クロード・レヴィ=ストロース(著)、大橋保夫(訳)『野生の思考』みすず書房、1976年
山口 周、『 武器になる哲学』 KADOKAWA、2018年

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