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目標達成をドライブするもの

目標達成をドライブするもの
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Language: English

エグゼクティブ・コーチングでは、対話を通じてクライアントが本当に達成したい目標を設定します。その過程では、クライアントの背後にある文脈の理解や、クライアントの価値観を理解することが重要です。言葉としては単純な「目標設定」ですが、実は、非常に奥深いプロセスですし、そう簡単に目標が見つかるわけでもありません。

今年の1月、私が参加したあるコーチのトレーニングのテーマは「変容」でした。「変わりたいのに、変われないのはなぜか」を探求する内容で、その中で「欲求」と「切望」の違いについて考える時間がありました。欲求とは、一瞬のことであり表面的なもの。一方、切望とは、欲求の更に奥深いところ(Underneath)にある、深層的なものです。

トレーニングを経て、果たして私の数ある目標は、どれくらい切望に根差したものなのかについて自問すると同時に、同僚と対話しました。なかなか「切望」には辿り着けない感覚を持ちながらも、「人の役に立ち、感謝される存在でいたい、そのために人とつながっていたい」と強く願う自分への発見がありました。

目標のその先にあるもの

クライアントのAさんは、B国の事業責任者として組織変革に奮闘中です。かつて、B国での事業はグローバルの収益を支える柱でしたが、近年顧客支持率は下落し、業績も頭打ちになっています。会社から返り咲きを託されたAさんは、戦略の入れ替えと、それに伴う組織変革を進める中で、目標に対する社員のモチベーションの低さが気になっていました。

幹部へのインタビューでは、

「自分たちはこれまで十分に稼いできた」
「やるべきことは確実に実行しているのに他社に抜かれ、水を空けられているのは、戦略が悪いからではないか?」

といった声が聞こえてきます。

戦略の良し悪しは一旦脇に置き、幹部や社員が情熱を注げる目標とは何かについて対話をする中で、私はAさんにトレーニングで扱った「切望」の話をしました。するとAさんが言います。

「私の目標は、市場の期待を超えること。幹部も同じ想いでいてほしいと願って関わってきたのですが、立ち止まって考えてみると、そもそも私の切望は、他の幹部とは違う気がしてきました。私が成果にこだわるのは、家族との時間を増やすためなんです」

目標だけでは見失われるものがある

かつてB国では、社員たちに、やりたいことを自由に考え、それらを試す時間と機会を与えていました。Aさんは「現在は、市場環境が悪く、ゆとりがないからそれはできないと考えてきたけれど、もしかしたら環境が理由ではないかもしれない」といいます。

「業績が落ち始め、やるべきことを割り振るようになりました。幹部たちの目標は、組織のビジョンを実現するために分解した『やるべきこと』です。やるべきことをやりさえすれば、会社は変わると思っていたのかもしれません。私は彼らがやりたいことを聞いているつもりで、無意識のうちに、こちらがやってほしいことを伝えて、同意を求めていたのだと思います」

今の状態は、市場環境の変化ではなく、トップであるAさん自身がどう考え、どう社員と関わるかによってできあがってきたのかもしれないというのです。そして、続けて言いました。

「私はB国に着任すると同時に、自分の違和感を危機感と捉え、変革を押しつけてきたような気がします。今回の変革の取り組みでも、多様性が重要と言いながら自分と合う相手を集めて変革を進めようとしているのかもしれません。

変革に待ったなしの状況には変わりありませんが、私は共に仕事を進める同僚たちの『切望』をどれほど尊重しているのか、背景も含めて改めて相手を理解したいと思いました」

Aさんと私は、お互いに部下3名の「切望」に耳を傾け、自分のマネジメントスタイルについての発見を次回セッションに持ち込む事を宿題にしました。

なぜその目標を達成したいのか

今回のトレーニングの講師だったアメリカの研究者によると、「切望」には以下のような要素があるようです。

他者から理解され、認められたい。
他者と繋がっていたい。愛し愛されたい。
他者に影響を与えたい。安全な状態でいたい。
自分の目的を果たしたい。

こうした切望がオープンに語られない、あるいは気づけないのは、ともすると、こうしたことは人としての弱さのように感じられたり、利己的に聞こえたり、ビジネスとは無縁のように捉えられたりするからでしょう。それが理由で、たとえ「切望」に気づいたとしても、人によっては受け入れることに抵抗を感じるかもしれません。だからこそ私たちは、しばしば自らの「切望」を無視して、表面的な欲求から目標を設定してしまいます。

しかし、あなたがその目標を達成したいのはなぜなのでしょうか。

相手を理解するとは、相手の切望を理解すること。Aさんとの対話から、上司の役割は、やるべきことができる能力を備える支援をするだけでなく、相手の切望レベルまで踏み込んで適切な機会を与え、その実現を支援することだという私なりの学びがありました。

大人になるとやるべき事を目標にしがちです。しかし結果が出ない時こそ、切望に立ち返ることで前進のヒントが得られるのではないでしょうか?

一年の始めに、そもそもの目標がその人をドライブし得るものなのか、立ち止まって考える機会に恵まれたと感じています。

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