Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


フィードバックから始まる「意味づけ」の旅

フィードバックから始まる「意味づけ」の旅
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エグゼクティブコーチをしていてとても印象に残っているクライアントに、Aさんがいます。

Aさんは、ニッチな部材を扱っている会社をグローバルに大きく成長させてきた経営者です。さらなる成長を目指し、コーチ・エィとともに組織変革に取り組むことを決められました。

Aさんとのエグゼクティブ・コーチングをスタートするにあたり、Aさんのリーダーシップについて部下からフィードバックをもらいました。私の目から見てもなかなか辛辣な結果が出ましたが、セッション前に彼にレポートを渡し、事前に目を通してほしいとリクエストしました。そしてセッション当日、彼がフィードバックに対してどんな反応をしているかが気になり、私は少し緊張しながら彼を待ちました。

彼の姿を目にしたとき、一目で彼の憤りを感じました。出張続きで体力的にも辛いタイミングで受け取った厳しいフィードバック。顔色も優れません。

「体調も悪く、今日はキャンセルしようかどうか迷いましたが、来ました」

と言って、彼は話し始めました。

その日のセッションでは、彼が何に憤りを感じているのかについて、彼が話し切るまで静かに聞きました。彼のキャリアの大半は営業で、お客様の話に常に真摯に耳を傾けてきたこと、部下を持つようになってからも、社長になってからも、相手の話を聞くことを大事にし、部下や社員と対話の時間をたくさんとってきたこと。なのに、部下からは「人の話を聞いていない」「自己主張が強い」というフィードバックをもらって、とてもショックだったこと。

60分間、ただただ静かに聞きました。そして

「そうだったんですね。体調が悪い中、来てくれてありがとうございました。お体に気をつけてくださいね」

と、その日のセッションを終えました。

後日、彼からこんなメールが届きました。

「日々いろいろありますが、鉄の靴を脱ぎ、軽やかな気持ちでコーチングセッションに行っています」

「意味」は自分で見つけるもの

思いもよらないフィードバックにショックを受けている相手を目の前にして、良かれと思って「自分もそういうことがあったよ」「相手はこんな気持ちだったんじゃないか」といった声をかけることがあります。少しでもショックを和らげてあげようとネガティブな出来事に意味づけをしてあげる行為ですが、それはフィードバックをもらった人の中にある、行き場のない気持ちを押し殺させることになりかねません。

人は常に「意味」を欲しています。この人生を生きる意味、この仕事をやる意味など、無意識のレベルで、とても強く「意味」を手にしたいと思っています。「意味」とは、その人の人生のストーリーとのつながりです。

そしてとても大切なことは、その人にとっての「意味」を見つけることは、その人自身にしかできないということです。他者にできるのは、本人が自分の身に起こった出来事を本人が自分の力で消化できるように支援することだけです。そのために、ただただ話を聞く。

私たちは、ただ聞いてもらうこと、「そうだったんですね」と否定も肯定もせずに聞いてもらうことで、ネガティブな感情を消化することができます。感情と少し距離をもてるようにさえなれば、自分の身に起こった出来事に意味を見出し、自力で軌道修正ができるようになるものです。

その後のセッションでは、部下とともに目指したい未来、Aさんがいなくなる未来に向けてどんな経営チームをつくっていきたいのかなどについて、たくさん話をしました。

そしてその過程で、Aさん自身、自分の答えや考えを脇に置いて、部下の考えを聞くということにチャレンジしました。そのプロセスの中で、Aさんが自分の成長を感じた体験があったといいます。決意をもって伝えたリクエストを部下に受け取ってもらえなかったとき、「以前の自分であれば、部下が『Yes』というまで正論でやり込めていたと思うが、今回は『また話そうや』と言えた」と笑顔で話してくれました。

長い目で考える

実は2023年の年末、私自身にも、部下からの思いもよらぬフィードバックを第三者から伝えられるという体験がありました。そのフィードバックを受け取ることができずに悶々とする中、ふと、書棚にあったある本が目に留まりました。それは、世界最大の家電量販店ベスト・バイの経営を立て直したユベール・ジョリー氏の著書『THE HEART OF BUSINESS』です(※)。フィードバックをもらいながら成長したジョリー氏の体験が自分の体験と重なると、Aさんが紹介してくれた本でした。

フィードバックとどう向き合っていいかわからなかった私は、本棚に置いたままになっていたその本を手に取りました。読み始めると、ベスト・バイ再建のストーリーを軸に、ジョリー氏のリーダーとしての成長がどのように育まれたのかが書かれていました。彼が若い頃に周囲からもらった、今でも忘れられないフィードバックや失敗が、どのタイミングでリーダーとしての変容に活きたかが書かれていました。

印象的だったのは、その時間軸です。

もっと長い目で見て、時間をかけて今回の体験を消化していっていいのだと思えたら、冷静さが戻ってきました。フィードバックをもらうと、「すぐになんとかしなければ」と短期視点で考えがちですが、新しい体験が加わることによって、今できる以上の意味づけができる可能性があります。そのためには、新しいチャレンジ、新しい人との出会いを求め生きていくことが大事です。私も、2024年、ここで止まったり、怯んだりせず、新しい挑戦や出会いを求めていきます。

これから年度末に向けて、世の中ではたくさんのフィードバック面談が行われるでしょう。新年度をエネルギー高く迎えるために、Aさんや私の体験がみなさんの役に立ったらとてもうれしいです。

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【参考資料】
※ ユベール・ジョリー 、キャロライン・ランバート(著)、樋口武志(訳)、『THE HEART OF BUSINESS』、英治出版、2022年

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