Coach's VIEW

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「問い」への反応から見る組織

「問い」への反応から見る組織
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組織風土やその組織に属する人材の成熟度は、「問い」に対するリアクションの中に観察することができる。

ここ数ヶ月、私が強く感じている仮説の一つです。

コーチ・エィでは「3分間コーチ」という対話を体験的に学ぶワークショップを、多くの企業様にご提供しています。ワークショップではオンラインで24名の参加者が集い、Zoomのブレークアウトルームという機能を使ってバーチャルな小部屋空間で二人組になり、様々な問いを間に、3分間の対話を繰り返します。

お題となる「問い」は、約40個ありますが、たとえばこんな問いです。

「組織の何を変えたいと思っていますか?」
「あなたにとって仕事とは何ですか?」
「あなたはどのような時に発言することを躊躇しますか?」
「問題はどのようにして解決されるものだと思っていますか?」

私は3年間ほどこのワークショップのファシリテーターを担当し、およそ60社、1200名に対して、こうした「正解」の存在しない問い、「自分の考え方や解釈の特徴を見つめ直す機会になる」問いを提示してきました。これらの問いを提示して「二人組に分かれて対話してください」と伝えたときの反応を観察すると、大きく2つの傾向があることが見えてきました。

【反応A】

  • 「どちらから話す? 私? いや、あなたからどうぞ」など譲りあって、本論に入るまでに時間がかかる
  • 「なんだか難しいねぇ...」と考えるのがちょっと面倒くさそう
  • 「どう答えればいいの?」と、"正解"を探すスタンス
  • 自分の考えを一通り話すと、さらに深めるための問いが出てこないので沈黙が訪れ、時間を持て余し雑談が始まる

【反応B】

  • 「私から話していい?」とすぐに対話がスタートする
  • 「この問いは難しいけど深いねぇ...」と問いに向き合うのが楽しそう
  • 「どんな考え方があるだろう?」と、"様々な考え方"を探すスタンス
  • こうじゃないかな、こうも考えられるかもしれない、と次々と新たな問いを生み出しながら対話が続き、時間が足りなくなる

トップダウンが強い、社員の主体性が低く自ら考えて動けない、1on1制度はあるが全く機能していない、といった組織課題に悩んでいる企業ほどAの反応の度合いが色濃くなり、社員の主体性が高く、自ら考え動ける社員が多く、1on1制度に対する社員の満足度が高い企業ほど、Bの反応になります。

もしあなたの組織でこのワークショップを実施したとしたら、どちらの反応が返ってくると想像しますか? そして、なぜこのような対極の現象が起こるのでしょうか?

考える力は問いを作る力

様々な理由が考えられる中、私が思う一つの解は、組織の中で普段どんな問いに価値が置かれているかということです。

たとえば冒頭の4つの問いは、日常の業務の前進や課題解決につながる問いとはいえません。実際にこの記事を読みながら、「こんな問いについて考えて、いったいどんな意味があるのだろう」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

次々と問題に結論を出し、解決策を講じながら前進することに価値の比重が置かれる時代です。職場ですぐに成果につながらないことや、すぐに結論が出ないようなことについて考えたり話したりしても意味がないと考える人もいるでしょう。しかし、そうすると、時間をかけて深く考えることや、客観的なエビデンスではなく、主観を話すことを強制する問いは、組織の中でどんどん嫌われ者になっていく可能性があります。実際に、こうした問いを投げかける人は「面倒くさい人」という、ありがたくない称号を獲得するかもしれません。

かくして、私たちは「問う能力」「問われて深く考える能力」を、日々退化させ続けているのではないでしょうか。

対話が盛り上がる反応Bの組織では、お題に関連して新しい問いが生み出されることがよくあります。たとえば「あなたにとって仕事とは何ですか?」という問いに対してなら、

「宝くじが当たったら仕事を辞める?」
「そう考えるということは、仕事をどう捉えているんだろう?」
「そもそも仕事って聞いた時に感じる印象はポジティブ? ネガティブ?」

演出家の鴻上尚史氏の『発声と身体のレッスン』という書籍に、以下の一節があります(※)。

「『悩むこと』と『考えること』を混同してはいけない。『悩むこと』とは、『あー、私は発声ができていない。こまったなぁ。どーしよう。どーしたらいいの? 今度の舞台はどーなるの!』とウダウダすることです。

(中略)

『考えること』は、『さて、私は発声が出来ていない。じゃあ、発声が出来ている状態ってのは、どんな状態なんだろう。私は、誰が発声ができていると思うんだろう? あの人はどうだろう? あの人は?』と使った時間だけ、発見や吸収があることです。」

「自ら考え、動く人材に育って欲しい」という声はよく耳にします。「考えない」人材から「考える」人材に成長するということは、たくさんの正解のない問いに触れ、自らも問いをつくることができる能力を身につけていくプロセスではないでしょうか。

「問い」への反応は開発できる

某メーカーの製造所長は、このワークショップに刺激を受けたことがきっかけで、製造現場で実施していた毎週水曜日の全体朝礼の最後の時間を、二人組で行う3分間の対話に充てることにしました。つまり、3分間コーチワークショップの構造を、そのまま職場に持ち込んだわけです。お題となる問いは、毎週所長が考えます。

製造現場の職員は職人気質で無口な人も多く、最初は全く盛り上がらなかったとのこと。それまで問われる機会も、考える訓練も、自分の主観的な考えを話す習慣もなかった製造現場ですから、いきなり難しい問いを投げかけても喋ってくれないのは当たり前です。

そこで最初は「先週一週間の食事の中で一番おいしかった食べ物は?」といった、簡単で、具体的で、話しやすいお題から始めて、本当に少しずつ問いの難易度を上げていったそうです。

私がこの取り組みについて教えてもらった時、この試みの回数は100週間を超えていらっしゃいました。

所長さんが記録していた1回目から100回目までのお題(問い)のリストを見せて頂くと、回数を重ねるにつれて、本質的で抽象度の高い問いが増えていったことがわかります。今では「品質とは何か?」といった問いに対しても、自分の考えを話してくれるようになったといいます。

さらに手応えとして、取り組みを始める前よりも、現場からの改善提案やトラブルの予兆に気づいて報告をあげてくれる回数が格段に増えたと教えてくださいました。

「問い」に対する反応・対応は、開発できる「能力」だと定義してみる。
そして、その能力を育む土壌は組織風土そのものであると捉えてみる。

早速「問い」に対する反応を対話を通して確認するところから始めてみるのはどうでしょうか。


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【参考資料】
※ 鴻上尚史著、『発声と身体のレッスン』、白水社、2012年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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