Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
誘って口説いちゃダメですか?
コピーしました コピーに失敗しました2024年の1月から始まったドラマ『不適切にもほどがある!』をご存じでしょうか。同僚やお客様とも話題にのぼることが多いのですが、私はこのドラマの虜です。
どんなドラマなのかを簡単に説明すると、昭和から令和にタイムスリップした主人公が、コンプライアンスで縛られた令和の人々に考えるきっかけを提供するという内容です。番組紹介のサイトには「時代とともに変わっていいこと、変えずに守るべきことを見つめ直す」とありますが、宮藤官九郎さんの脚本ということもあってとてもコミカルに描かれています。
「部下をケアしたい」とか、「部下にとって身近な存在でありたい」という気持ちで部下に声をかけても、うっかりすると「ハラスメント」を告げるホイッスルが聞こえてきそうな昨今です。部下とどう関わればいいのか、どうコミュニケーションをとればいいのか、頭を悩ませる上司は増える一方ではないでしょうか。
実際に、エグゼクティブ・コーチングのセッションでも、部下とのコミュニケーションに対する躊躇は、頻繁に話題にのぼります。
本や雑誌では「タブーを避けつつ、いかにうまくやるか?」という問いに対する答えが多く取り上げられますが、そもそもタブーを前提としているこの風潮は、管理職に過剰なエモーショナルワークを強いることになり、彼らをますます疲弊させているように感じます。
そんな中で、『不適切にもほどがある!』の主張は直球であり、私の胸にぶっ刺さります。
「みんな、ビビってないで、コミュニケーションに飛びこんじゃいなよ!!」
私の脳裏には、破顔し歯を見せながら、そう声を張り上げる宮藤官九郎さんのお顔が脳裏に浮かびます。
コミュニケーションにビビっちゃダメですか?
コーチ・エィでは多くの企業様に、『3分間コーチ』という、対話を体験的に学ぶワークショップをご提供しています。約20名の参加者がオンラインで集い、Zoomのブレークアウトルームという機能を使って、バーチャルな小部屋空間で二人組になり、様々な問いについて、3分間の対話を繰り返します。
普段はお客様向けに提供しているこのプログラムを、コーチ・エィの社内で実施する機会がありました。そのときに、あるコーチ・エィの役員Aと二人で対話することになりました。
Aと私の関係は、決して悪いものではありません。お互いに、オフィスですれ違うときは会釈や挨拶をしますし、必要に応じて業務の話もします。また、お互い会社におけるキーパーソンとみてリスペクトしているという印象ももっていました。
しかし、私にとってAは、
- 話をするときに少し緊張し、なぜか気をつかってしまう相手
- Aの組織の出す方針に対して違う意見があっても、言うのを躊躇し、結局言わない
- 「本当はAさんと膝詰めで対話すべき」と何度も思いつつ、理由をつけて実行しない
そんな相手でもありました。
空間に二人きりになり、瞬時に感じる緊張感。私は、身体に強張りを感じながら対話をスタートしたことをよく覚えています。
サシ飲み誘っちゃダメですか?
しかし、そのときの対話でAが発した一言が、その後の私たちの関係に地殻変動をもたらしました。
「実は僕も、飲みに誘われたいんです。でも、誰も誘ってくれないんですよ」
私のパソコンの画面には、強面のAの照れ交じりの笑顔がいっぱいに広がっています。
一瞬のフリーズ、一瞬の逡巡、一瞬の躊躇を感じながら、私は言いました。
「今度、サシ飲みしましょう」
傍から見れば、なんてことのないやりとりかもしれません。ですが、その一言を言った後も、私の心臓は相当ドキドキしていました。
その2ヵ月後、サシ飲みを実現しました。楽しみ3割、緊張や不安7割の感覚でお店に向かったことをよく覚えています。
アルコールにも背中を押してもらい、お互いにいろいろなことを話しました。
- どんなことに面白味を見い出す人なのか?
- 何にカチンとくる人なのか?
- コーチ・エィで、何を実現したいのか?
- お互いをどう見ているのか?
コミュニケーションに飛びこみ、対話する中でAに関する発見がたくさんありました。会議の席上でのAの発言などから私がAに貼っていた「Aさんは●●な人」というレッテルのいくつかがはがれると同時に、Aも、私に対して近寄りがたさを感じていたことを知りました。
コミュニケーションに飛びこんだ先に生成される世界
その後、私たちの間で普段交わされるコミュニケーションが変わりました。
初めてAから
「今、ちょっといいですか?」
と個別にチャットをもらいました。
初めて私から
「共有したいことがある」
とオフィスでAに話しかけて立ち話をしました。
本当にちょっとした行動変容ですが、Aとの間で、これまでと質感の異なるコミュニケーションが積み重なっていくことは、コーチ・エィの未来に向けて何かを生成するだろうと信じています。
「コミュニケーションに飛びこむ」とは?
コーチ・エィの創業者である伊藤守が昔から、コミュニケーションについてよくいう言葉があります。
「コミュニケーションの目的は、『誘う、口説く』」
誘ったり、口説いたりすれば、当然断られる可能性があります。かといって、躊躇して何もしなければ、そこには何も生まれません。
組織を開発するとは、まさにそこで起きている1対1のコミュニケーションや関係性を変化させることの積み重ねのプロセスを指します。
あなたにとって、本当はコミュニケーションに飛びこむべき相手は誰でしょうか。
もうすぐ春ですね。ちょっと気どらず、誘って口説いてみませんか。
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