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あなたは自分自身にどのように接していますか?

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コーチングの焦点は、行動変容です。自分の行動を変えていくためには、まずは自分自身の傾向を知る、つまり自己認識が必要です。コーチングにおいて自己認識を高める一つのアプローチとして、自分の関係性を可視化する「ネットワーク図」を描いてもらうことがあります。ただ名前を挙げるだけではなく距離感も含めて、ホワイトボードや紙にネットワークとして描いてもらうのです。

今回はこの図を見るときの二つの着眼点について考えます。

「人」に着目する

一つの観点は、ネットワークに登場する「人」です。クライアント自身の近くに描かれる人、少し離れた位置に置かれる人などさまざまな登場人物との距離の表現も人それぞれです。物理的な距離のこともあれば、心理的な距離で表現する人もいます。描かれた「人」に焦点を当て、その人物について思いを馳せていくと、クライアントは自分の思考や行動の傾向に気づく機会を得ます。

たとえば、「鋭い指摘をされるので緊張感を感じる相手」。自分がそう感じる相手に対して考えていくと「関わりを避けようとすることが多く、表層的なコミュニケーションしか取れていない」という自分の行動が見えてきます。

他者に対する影響力を最適にしていくことをリーダーシップとするならば、このように自分自身の傾向を認識することで、行動変容の可能性が見えてきます。

「関係性」に着目する

もう一つの観点は、ネットワーク図に描かれる無数の「線」です。

ここにおける線とは「関係性」を意味します。線の先にいる「人」を見て、その関係性を解釈しようとすると一つ目の見方と同じになるため、まず「関係性」に焦点を当て、その関係性から浮かび上がってくる「人」を見ることを意識します。

精神医学者であり人類学者であるグレゴリー・ベイトソンは、その著書の中で次のような表現を残しています。(※1)

「関係が最初にあって、関係でつながれる二者の性質は事後的に生じる」

一つ目の着眼点と異なり、こちらの解釈のプロセスはやや難しく感じられます。相手との関係性は、「その相手があって生まれる」と考えることが通常だからです。つまり、「あの人がこうだから、自分との関係性はこうだ」と捉えることが普通ではないでしょうか。

東京工業大学大学院教授で美学者の伊藤亜紗さんが、あるテレビ番組でこんなことを語っていらっしゃいました。

「視覚がない方は、視覚がある方が善意でしてくれる配慮によって、障がい者を演じさせられてしまう。その役割にずっと固定されてしまう」(※2)

これは前述の二つの視点で言えば、後者の例ではないでしょうか。視覚のある人は「相手が視覚障がいを持っている人だから」と、「人」に焦点をあてるかもしれません。でも、相手はどうでしょうか。

日常を振り返れば、この例に限らず、相手の役職や立場などを先に想定し、ある意味、無意識的に「関係性」を、その場その場に持ち込んでいることが多いのに気づきます。そして私たちは、自分の持ち込んだ「関係性」から、その線の両端にいる「人」を創り出しています。たとえば「視覚に障がいを持った不自由な方」と「手を差し伸べる善人な私」というように。

それが良いことか悪いことかを論じたいわけではありません。一つ目の観点から自己が見えてくるのと同様に、二つ目の視点からも、普段は意識することのない自己に触れ、よりその認識を高める機会になります。「自分はどんな関係性を通じて、相手を見ているか」というように。

しかし、私たちは自動的に「人」によって自分との「関係性」が創られていると思ってしまうため、二つ目の観点で誰かとの「関係性」を捉えるのはなかなか難しいものです。

自分への接し方が、相手を規定する可能性

あるコーチングの中で、ネットワーク図を間に置いて対話をしていた時のことです。それまでは一つ目の視点、つまり「人」に焦点を当てて対話を進めていましたが、ある問いをきっかけに二つ目の視点に移行した体験があります。それは次の問いです。

「あなたは自分自身にどのように接していますか?」

この背景には「私たちは自分自身に接するようにしか、他者に接することはできない」という考え方があります。

普段、私たちは「自分自身をどう見ているか、どう扱っているか」について、あまり自覚的ではありません。それよりは、自分以外のことに意識を向けています。人間関係で言えば、それは「相手」のことです。相手が「どんな人であるか」ということに、意識の多くを費やしているのではないでしょうか。言ってみれば、最初の着眼点、「人」に焦点をあてたものの見方です。

先の問いを投げかけたクライアントは、

「価値があることを証明しなければ他者から認められないと思って自分と接している」

と答え、

「そうやって私は周囲の人をも位置づけようとしてように思える」

と続けました。

相手によって自分との関係が生まれているのではなく、自分への接し方を前提として、他者にもそれを適用しようとする。こう考えると、「関係が先にある」ということの理解が進みます。たとえば、自分自身に対して「至らない未熟者」として接している人は、そのような関係に他者をも位置づけようとしている可能性があります。

「自分が自分にどう接しているか?」ということに自覚的になるとは、つまり「自己認識を高める」ことに他なりません。その点でこの問いは、あなたを行動変容の入口にいざなう問いであるように思います。

あなたは自分自身にどう接しているでしょうか?

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【参考資料】
※1 グレゴリー・ベイトソン著、佐藤良明 訳、『精神の生態学へ(上)』、岩波文庫、2023年
※2 NHK BS1スペシャル、『コロナ新時代への提言2』、2020年8月1日放映

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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