Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


変革にさらされている医療現場を変えるのは誰か?

変革にさらされている医療現場を変えるのは誰か?
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コーチ・エィが医療機関にコーチングの提供をスタートしたのは、2010年です。医療現場において「コミュニケーションを大事にする文化を醸成したい」というドクターたちの思いが後押しとなり、当時東北大学医学部教授だった出江紳一先生、同じく当時東海大学医学部教授だった安藤潔先生たちと医療従事者向けのコーチング・プログラムを開発したのが始まりです(※1)。そこから現在まで、55以上の病院とプロジェクトを組み、医療現場の変革を支援してきました。

私自身は2018年から病院のプロジェクトに関わるようになりました。多くの病院を支援する中で、医療の世界と他の産業との違いを感じつつ、一般の企業が医療機関から学べることがあると感じます。

今回は、医療業界とそれ以外の業種におけるコーチングのデータを比較しながら、医療の世界から学べることを探求したいと思います。

医療機関の三つの特徴

比較に入る前に、私の考える医療機関の組織的な特徴を三つご紹介します。

一つは、医療機関は、国家資格を持つ専門職が集まって分業している組織であり、医師の指示に従って組織が動くということです。組織の指示系統が明確で、ある意味固定的です。

二つ目は、医療業界には、業界全体で磨き上げた非常に緻密な仕組みやルールがあること。こうした仕組みやルールによって、日々「安全な医療」を「効率的に処理」しながら提供することが可能になっています。しかし、これらの組織構造やルールにはメリットがあるものの、役割や範囲を越えた行動が起きづらい環境をつくり出しているようにも思われます。

最後の特徴は、社会的・職業的な「パーパス(存在意義)」が明確であることです。それゆえか「医療従事者たるもの、組織や自分の存在意義についてわかっていて当たり前」という前提がありそうです。そのため、職場内でパーパスについて話す機会が少ないように思われます。そのことが、新型コロナや激甚災害といった高いストレスが伴う状況に長期にわたってさらされたときに、バーンアウトや離職が上昇するという結果につながっているように感じられます。

医療現場を取り巻く現状

さて、今、日本の医療現場は、変革の必要性に直面しています。

高齢化の進展やライフスタイルの変化に伴う疾病構造の変化により、日本の医療は高度化・複雑化してきました。しかし、労働人口の減少・過疎地域の増加等の理由で、有能な医療人材の確保が年々難しくなっています。そのような状況下でも、医療機関は質の高い医療を誰もが平等に受けることのできる環境を守るため、日々努力を続けてくださっています。たとえば、患者さんを中心とした医療サービスをよりよくしていくための地域包括ケアシステムの構築もその一つです。

その実現には、機能を分化し連携を意識した地域医療構想が必要で、そのために、「理念に基づき、地域の現状や時代に合わせて自病院の役割を明確化すること」や「施設を超えた地域連携」「将来の働き手不足を見据えた医療DXの推進」等々のさまざまな変革が必要です。

つまり、現在の医療の世界では「変革をリードできるリーダー」の存在が不可欠なのです。

医療業界でコーチングを受けた人に特徴的に見られる変化

コーチ・エィでプロジェクトをご一緒させていただいている医療機関は、どこも変革の実現を目指してリーダー開発に取り組まれています。

そこで、組織変革を目的としたコーチ・エィのコーチングが、医療従事者のリーダーシップにどのように影響しているかをデータをもとに考察しました。対象としたのは、18の病院においてコーチ・エィのプログラムでコーチングを学習しながら組織内でコーチングを実践した77名と、彼らからコーチングを受けた322名のデータです。

そのデータを、医療以外の業種で同じ取り組みをされている方たち(非医療業種)のデータと比較したところ、医療機関と非医療業種で、違いの目立つ点が2つ見つかりました。それはコーチングを受けた322名の「リーダーとしての意識・行動」に関するものです。

まずは、医療機関の322名のリーダーの「リーダーとしての意識・行動」は、プロジェクト開始時に、非医療業種と比較して低い値を示していることです。しかしプロジェクトの進捗に従い、322名のリーダーとしての意識や行動は、すべての項目で伸びており、開始時と比べて、終了時は有意に高くなっていました。(p<.001)

もう一つの発見は、「リーダーとしての意識・行動」の中で、とくに「目標達成に向けた新たな関係構築」が、医療機関でとくに大きく変化していることです(4.39 →5.02(+0.63))。この項目は「自分の目標達成のために、普段話さない人とも躊躇せず関わりを持っている」という設問に対する回答です。

加えて職種別に掘り下げても、看護職・医療技術職・事務職では当該項目が一番目、医師でも二番目の伸びになっており、医療機関の全ての職種で特徴的に見られる変化といえそうです。(図1参照)

図1(※2)

[調査対象:コーチ・エィのプログラムでコーチングを学習した77名から職場内でコーチングを受けた322名 / 調査内容:D-meterにおける「リーダーとしての意識や行動(10項目)」 / 回答形式:7段階回答(1.全くあてはまらない~7.とてもよくあてはまる) / 調査期間:2021年3月~2024年3月] コーチング研究所 2024年
注意:・アセスメント項目(D-meter)に関する著作権その他一切の権利は株式会社コーチ・エィに帰属します。・本資料に掲載している質問紙の複製,改変,転写,転載,改ざん,二次利用,部分利用及びこれらに準ずる行為を固く禁じます。

一方、組織内でコーチングを実践した人のコーチングスキル20項目の変化を医療と非医療業種で比較すると、スタート時のスキルのレベルに違いはなく、終了時には両者ともスキルは伸びており、その伸び幅にも差はありません。

医療機関においては、コーチングする側のスキルは非医療業種と差がないにもかかわらず、受ける側の「リーダーとしての意識・行動」の初期値が非医療業種と比較して有意に低く、さらにコーチングを通して非医療業種では見られない変化が起こるのはなぜでしょうか。

医療機関のコミュニケーションの多くは、必然的に「目の前の患者さんを救う」という緊急で重要な課題解決を目的に交わされているのだと思います。このプロジェクトでは、コーチングする側は相手をリーダーとして開発する目的で関わります。つまり、このプロジェクトによって普段のコミュニケーションと目的の異なるコミュニケーションが増え、それがコーチングを受けている人たちのリーダーシップ開発につながっているということです。

先に述べたように、医療機関と非医療業種でコーチングをする側のスキルには差がありません。それでも異なる結果を生み出しているのは、何のために関わるのかというコミュニケーションの目的が異なるからです。

スキルではなく目的を変化させる

コーチ・エィは、対話型組織変革へのアプローチとしてコーチングを進化させてきました。私たちのアプローチの中心にある考え方は以下の通りです。

「組織はコミュニケーションの中にある、ということは、コミュニケーションが変わらなければ、人の意識も組織も変わらない。

コミュニケーションを変えるということは、コミュニケーションスキルを覚えることではなく、コミュニケーションに対する意味や目的、解釈が変わること。そのような変化は、体験に基づいている」

医療業界に限らず、私たちは、安定した成長を手にするために、属人的にならないためのルールや仕組みを数多くつくります。そして、それが自分たちの成長の阻害要因になる矛盾に悩まされます。

医療業界の例から、その矛盾を打破する可能性が、組織内の関わり、コミュニケーションにあることが見えてきます。そして、コミュニケーションの可能性は、スキルではなく、目的にあるのです。

コミュニケーションスキルを高めることに躍起になる前に、未来に向けて、自分は何を変えたいと思っているのか、本当は誰ともっと話したいと思っているのか、自分に問いかけてみることの方が大事なのかもしれません。

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【脚注】
※1 Medical Coach Training Program(MCTP)。2024年現在、MCTPの提供はしておりません。
※2 商用利用と関係しない学術目的での利用において、利用を許可する場合があります。利用の際は株式会社コーチ・エィの事前許諾が必要です。

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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