対話におけるユーモアのちから

「静かな退職」：職場から静かに、そっと、社員の心が離れていく

今、「静かな退職（Quiet Quitting）」が起きている。

そう唱えるのは、リーダー開発コンサルティング会社、Zenger/Folkmanの代表を務めるジャック・ゼンガー博士とジョセフ・フォークマン博士である。（※1）

「静かな退職」とは、職場で「求められた最低限の仕事をこなし、それ以上の努力をしないと決めた」人たちを表す言葉であり、2022年の夏に米国のSNSを中心に急速に広がった。

Gallup社が米国の労働者1万5091人を対象に行った調査によると、20％近くの人が「積極的に仕事と距離を置いている」と答えた。（※2）その割合は、2020年から増加の一途を辿っている。

たとえ物理的にオフィスに出勤していても、「心が仕事から離れたまま」の従業員は少なくない。

現代のビジネスを支える「ユーモア」の可能性

従業員の離職が重なると、まずはインセンティブの提示や賃上げ、魅力的な制度の導入など、システムの変革に目が向きがちだが、それだけでは根本的な問題を解決することは難しい。

スタンフォード大学の経営大学院で教鞭をとるジェニファー・アーカー氏とナオミ・バグドナス氏は、こう主張する。

「過去10年に比べて、従業員の離職率が88％も増加し、企業側にも何十億ドルものコストがかさんでいる現在、従業員の意識と定着率に効果的な救済策は、"ユーモア"である」（※3）

今日スタンフォード大学では、経営学の中の「管理会計」や「金融取引戦略」の授業と並行して「ユーモア」の理論と実践のための講義が行われ、人気を集めている。

実際に、会話にユーモアを取り入れているマネージャーは、そうでないマネージャーと比べて、部下に尊敬される割合が23％、一緒に働くのが楽しいと思われる割合が25％高く、部下のエンゲージメントレベルを15％アップさせるという研究データがある。（※4, ※5）

現代の離職の大きな要因は「上司との信頼関係」にあると言われている以上、これらの結果は無視しがたいものではないだろうか。

ほんの少し、会話に「ゆるさ」を取り入れる

では、ユーモアとは何か。どのようにビジネスの現場に取り入れていけるのか。

ユーモアは、日本語の辞書で「ひとを和ませるおかしみ」と表現されている。

決して大げさなギャグを披露して、「笑いを取る」必要はない。

人は、この場では「笑ってもいいのだ」「笑うことが許されているのだ」と思っただけでも、コルチゾール（ストレスホルモン）が39％、エピネフリン（「闘争・逃走」反応を引き起こすホルモン）が70％も減少し、安心感が生まれ、ストレスが緩和されることが明らかになっている。（※6）

日頃の話し言葉・ジェスチャーにほんの少しの変化を取り入れるだけで、あるいは、端的で洗練されたいつもの口調のメールに、「P.S.（追伸）」「今日のちょっとした一言」を添えるだけで、どれだけの従業員の、職場に対する関心を取り戻すことができるだろうか。

私たちは、物事を「一生懸命」「真面目に」考えなければ答えに到達しない、と思い込みがちである。

しかし、組織に問題は絶えない。現代の複雑化した社会においては、すぐ答えの出ない問題に対して、ゆるく、長く、向き合い続ける粘り強さが、今のリーダーや組織に求められている。

「問題解決」から「問題弛緩」。

深刻な問題に、深刻な顔で向き合うこともできるが、まずは一度、息をととのえ、あなたと仲間の表情をゆるめることから、始めてみても良いのかもしれない。

• 最近、あなたが職場で笑ったのはいつですか？
• あなたが職場で人を和ませたのはいつですか？その相手は、誰ですか？
• あなたが緊張を感じるのは、いつ、どんな場面ですか？
• 今週、どの場面でもっとユーモアを取り入れられるでしょうか？