Easterlies

Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。


「ゆっくり、急ぐ」その先に見えるもの

「ゆっくり、急ぐ」その先に見えるもの
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私たちの大切な資源の一つともいえる「時間」。

物理的な時間は、誰にでも平等に与えられています。

しかし、その時間をどのように過ごすかによって、時の流れの体感は変化します。

同じ1時間であっても、とても長く感じることもあれば、あっという間に感じることもある。

体感は、その時間で体験することや湧き起こる感情によって変化しますが、その時間にどう意味づけするかは、自分で決めることができます。

今月は、リーダーにとって命題の一つである「時間」を紐解きながら、私たちの捉え方の根源に迫ります。

ちっとも「時間ができていない」現代

1930年、経済学者のジョン・メイナード・ケインズ氏は、「100年後、富の増加と技術の進化によって、人は週に15時間しか働かなくなる」と予言した。(※1)

しかし、現実を見るとどうだろうか。

18世紀に起こった産業革命以降、誰もが効率よく、短い時間により多くの仕事をこなすことが是とされてきた。

タイムマネジメントがうまくできる人ほど、周囲からの期待値もあがり、空いた時間に新しい仕事が増えていく。

さらには、人材市場の流動性が高まり、退職が当たり前のものとなった今、辞めていった人の仕事を、残った人が補っているのが現状ではないだろうか。

ケインズの予言からもうすぐ100年になるが、予言は現実になりそうもない。

「待つこと」の耐久性を失っていないか?

私たちは、「時間に追われている」だけでなく、「待つ」ことの耐久性を、失っているのかもしれない。

ある調査によれば、Amazonのトップページの読み込みが1秒遅れるだけで、年間16億ドルの売り上げが失われることが分かった。(※2)

2019年からNetflixは、映画やアニメを、1.5倍速まで早送りして見られる機能を追加した。(※3)

ピーター・ドラッカー氏はこんな言葉を残している。

「効率とは物事を正しく行うことであり、効果とは正しい事を行うことである」。(※4)

私達が「急ぐ」理由は、「効率」から来ているのだろうか。

それとも「効果」から来ているのだろうか。

ゆっくり、急ぐ「festina lente(フェスティナ・レンテ)」

私たちは時間を生み出し、仕事を詰め込む方法、いわば「急ぐ技術」を身に着けてきたが、良い結果に辿り着く道は、まだ残されているように思う。

「フェスティナ・レンテ(ゆっくり、急ぐ)」。

ラテン語に、古くから言い伝えられている言葉で、日本語の「急がば回れ」に、そのニュアンスは近い。

2008年の北京オリンピックの決勝直前、競泳の北島康介選手に対し、平井伯昌コーチは、こう伝えたのだという。

「勇気をもって、ゆっくり行け。」

その言葉を受けた北島選手は、思い切ってストローク数を減らし、のびのびと全身を使うことによって、世界一早くゴールに着いたという。(※5)

何事も便利で「急げる」世の中になっているが、時に、あえてスピードを落とすことによって、新たな道が開ける可能性もあるのかもしれない。

  • あなたがこれまで、最も時間をかけて取り組んできたことは、何ですか?
  • あなたが今、最も結果を急いでいることは何ですか?
  • それは、あなたが何に価値を置いているからですか?
  • 今月、あえてスピードを落として取り組んでみたいことは何ですか?

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【参考文献】
※1 John Maynard Keynes, “Economic Possibilities for Our Grandchildren”, 1930
※2 Kit Eaton, “How One Second Could Cost Amazon $1.6 Billion In Sales”, Fast Company, May 2012
※3 Jonah Engel Bromwich, “What If Netflix, but Twice as Fast?”, The New York Times, Oct 2019
※4 Peter F. Drucker, “The Effective Executive: The Definitive Guide to Getting the Right Things Done”, 2006
※5 平井伯昌, 「北島康介が北京五輪決勝でベストレースができた理由 平井コーチが直前にかけた言葉「勇気をもって――」」, 朝日新聞社, 2020

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