Easterlies

Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。


新たな関係構築への第一歩:リレーショナリティ(Relationality)とは

新たな関係構築への第一歩:リレーショナリティ(Relationality)とは
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社会課題に取り組むリーダーのためのメディアであり、今年、創刊20周年を迎える『Stanford Social Innovation Review』に「コレクティブ・インパクト」と題した論文が寄稿されたのは、2011年のことです。

「異なるセクターから集まったプレーヤーが協力しなければ、社会に変革は起こせない」。

この力強いメッセージは、瞬く間にビジネスの世界でも注目を集め、本論文は、今日にいたるまでに100万回以上ダウンロードされ、学術誌にも2400回以上引用されているそうです。(※1)

多くの企業が「部門間連携」や「他業種交流」といったコラボレーションの重要性を認識しているにもかかわらず、思うほど「新しいコラボレーション」が生まれないのはなぜなのでしょうか。

今月は、この謎をとくヒントとして、「リレーショナリティ(Relationality)」に焦点をあててお届けします。

「新しい関係づくりに飛び込めない」のはなぜか?

「他者とつながる場があるだけではコラボレーションが生まれない」。

そう語るのは、アダム・セス・レビン氏である。

彼は、ソーシャル・イノベーターであり、インターネット上で、同じ社会問題への課題意識を持った専門家同士をつなげる活動を行っている。

彼がつくったプラットフォームには、はじめの10ヶ月で388人のユーザーが登録し、プロフィールや活動への意欲を示す書き込みをしていたが、実際に他のユーザーに働きかけたのはわずか7人であったという。(※2)

他のユーザーは、

  • 相手は、本気で自分と協力したいと思うだろうか
  • 相手は、自分の知識や経験を評価してくれるだろうか
  • 相手は、こちらに何を期待するだろうか

といった懸念から、新しい関係構築を行うことを躊躇したのだという。

このことは、多かれ少なかれ、誰しもに身に覚えがあることではないだろうか。

ソーシャル・イノベーションだけでなく、一般的な企業においても、個々の社員が「新しい関係づくりに飛び込めない」ことによる機会損失や、ビジネスへの影響は計り知れない。

「リレーショナリティ(Relationality)」の学習

哲学や社会科学の中で「リレーショナリティ (Relationality)」という言葉を目にするようになった。

直訳すれば「関係」や「関係性」のことを指す。

その定義は一様ではないが、人間は本来、社会的な存在であり、個人のアイデンティティは、他者との相互作用によって形成されるものだという見方から生まれた言葉だ。

近年、世界各地の教育現場で、試験的に「SEL(Socio-Emotional Learning)」と呼ばれる授業が試験的に導入されはじめた。(※3)

この授業の中では、他者との関係構築を通して、自己を形成していくことを学ぶ。

人間関係の構築は、単なる「コミュニケーションの得意・不得意」で済まされる問題ではなく、「自己形成」の一環として、生涯学び続ける必要がある重要なテーマであるという認識が高まってきている。

このことを、ハーバード大学医学大学院の成人発達研究の責任者であるロバート・ウォールディンガー氏(精神医学教授)は「ソーシャル・フィットネス(Social Fitness)」という言葉を用いて表現する。

「ジムに一度や二度、行っただけでは体力がつかないように、交友関係もまた"継続的なトレーニング"が必要なもの」だという。(※4)

新しい関係構築のハードルをいかに下げるか?

アダム氏が行った興味深い実験がある。

彼は、456人のソーシャル・イノベーターに、ある専門家を紹介するという実験を行った。(※5)

プロフィールにその専門家の経歴や能力・スキルを書き込むだけでなく、その人が「相手とどのような関係を築きたいと思っているか」という「コラボレーション」や「関係性」に関する文面を加えたところ、返答率が2倍以上となり、より多くの協力関係が生まれたという。

人は少なからず、相手と関わることでどのような未来が起きるのか、うまくやっていけるのか、という一定の不安を抱えている。

そのため、「目の前の相手は、自分とどのように関わろうとしているのか」、相手のコミュニケーションの意図や目的が開示されることによって、新しい関係構築への第一歩を踏み出しやすくなることは、想像に難くない。

自ら躊躇なく新しい関係を築けるかどうか。
他者とのかかわりの中で、自分をどのように成長させていくか。

リレーショナリティは、これから時代を担っていくリーダーとして欠かせない、「学習テーマ」としてますます注目されていくだろう。

あなたはこれまでどのように新しい人との関係を築いてきただろうか。
もっと他にうまいやり方はないだろうか。

  • 今、あなたは誰と協力関係を築きたいですか。
  • 具体的に、相手とどのような関係を築きたいでしょうか。
  • その意図を、どのように相手に伝えますか。

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【参考文献】
※1 John Kania, Junious Williams, Paul Schmitz, Sheri Brady, Mark Kramer, Jennifer Splansky Juster “Centering Equity in Collective Impact”, Stanford Social Innovation Review, Winter 2022
※2 Adam Seth Levine “How to Foster Collaborative Relationships“, Stanford Social Innovation Review, Summer 2022
※3 Taylor RD, Oberle E, Durlak JA, Weissberg RP. “Promoting Positive Youth Development Through School-Based Social and Emotional Learning Interventions: A Meta-Analysis of Follow-Up Effects“, Child Dev. 2017
※4 Robert Waldinger, Marc Schulz. “THE GOOD LIFE: Lessons from the World's Longest Study on Happiness”, Random House UK Ltd. 2023
※5 Adam Seth Levine “How to Foster Collaborative Relationships“, Stanford Social Innovation Review, Summer 2022

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