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あなたのコーチはロボットになるかもしれない
2017年05月26日
今ある職業の半分は、テクノロジーの発展によって、2025年までに廃れてしまうだろう。コーチングやカウンセリングといった「人に関わる専門職」は、「個人的なつながり」が重要なため、これまでテクノロジーのプレッシャーから逃れてきた。だが、時代は変わりつつある。コーチングのデジタル変革は進行している。
さまざまな研究がコーチングの投資効果を明らかにしているが、利用しづらいことはいまだに大きな課題となっている。会社員の大半が、コーチへのアクセスをもっていないのだ。その理由は、コーチを雇うにはかなりの金額が必要なことと、「従来型」コーチングは時間がかかって不便だからである。コーチングの未来のためには、我々の提供するサービスを、抜本的に、もっと利用しやすいものにする方法を見つける必要がある。そのためには、コストを削減すると同時に、クライアントがより簡単にアクセスできるようにしなくてはならない。
この問題に対する答えとして最も期待できるのが「テクノロジー」だ。テクノロジーを使って、我々の提供するサービスを、誰でも、どこでも、効率的かつ効果的に利用できるようにすること。それは、テクノロジーを補助として使う以外、ほとんど避けてきた職業にとって、厳しいチャンレジになるかもしれないが、向き合わなければならないことだ。
実際には、ベンチャーキャピタル投資に刺激されて、「人に関わる専門職」でも、テクノロジー主導型サービスの第一波がすでに出現している。「ユダシティ(Udacity)※1」のような次世代の教育サービスが、「オンライン教育の最も優れたところ」と「人間の教師やメンター」とを結びつけ、一方では、「Joyable ※2」や「トークスペース(Talkspace)※3」といったサービスが、オンラインの心理療法を提供している。さらに、オンラインで、ビジネスおよびキャリア・コーチングを提供しているサービスもある。
だが、「テクノロジーを使う」ということは、単に「クライアントにメールする」ことを意味するわけではない。我々にとってのチャレンジは、こうしたサービスが、従来のコーチングと、どう違っているべきかを見極めることにある。テクノロジーの力を駆使する一方で、クライアントのデジタル体験に対する否定的な印象を少なくしていく方法を見つけ出す必要があるのだ。現在、最も有望と思われる領域をいくつか紹介しよう。
常にオン、常に利用可能
テクノロジーの最も明らかな恩恵は、「関わり」がデジタルで起こることだ。クライアントにとって最も効果的なコミュニケーションツールを駆使して「関わり」を起こすことができる。デジタルシステムにはダッシュボードがあり、そこでコーチは、すべてのクライアントを見て、テキストメッセージ、メール、電話、ビデオなどの中から、特定のコミュニケーション、特定のクライアントにふさわしいツールを選び、途切れることなく、クライアントとコミュニケーションを取ることができる。このようなプラットフォームは、クライアントに様子を尋ねたり、刺激を与えたり、連絡を取りたいクライアントに自動リマインダーを送るといったことを容易にする。いつでもどこでも、それぞれのクライアントに最適なタイミングで彼らに接することができることを想像してみて欲しい。
学習の特性をコーチングに活かす
学習と認知科学に関する研究に基づいて設計し、2時間のセッションといった縛りもなくなれば、デジタル・コーチングは、「人はどのように学ぶのか」という考え方に合わせて提供することができる。たとえば、ある研究では、短い時間の授業と高い頻度での学習強化のための課題の組合せのほうが、長時間の授業と低い頻度での課題の組み合わせよりも効果があることがわかっている。
典型的なコーチングにおける実際的な問題は、頻度はより低く、時間はより長いコーチングセッションへと向かっていることだ。だが、そのようなアプローチは、クライアントにとって最も効果的というわけではないし、オンラインプラットフォームがあれば必要がなくなる。オンラインシステムは、より頻度が高く、細かく区切られたコーチングを可能にする。つまり、デジタル・コーチングは「人はどのように最も効果的に学習し、行動を変えるのか」について現在解明されていることに合わせて提供できるのだ。
データ
誰もが、ビッグデータや、すべての情報を収集するオンラインシステムについて耳にしたことがある。これらのおかげで、我々は何が役に立ち、何が役に立たないかをより深く理解することができる。「A/Bテスト(A/B Testing)」(訳注:インターネットマーケティングで行われる施策判断のための試験)を行うことにより、我々は、コーチングに関するさまざまな資料やテクニックを試し、どれが最も効果的かを知ることができる。多くのクライアントを対象とするサービスにおいては、大規模なデータ収集も可能になるので、よりよいアプローチを特定するための統計的根拠をもつことができる。これは、現在実施されているコーチングのほとんどに欠けている要素である。
人工知能
こうしたシステムのデータ量が増えると、テクノロジーの「究極の判断基準」は人工知能(AI)になる。クライアントに関する情報に基づいて、コーチに最適な資料を推薦するシステムだ。大量のデータを保持するこのようなシステムは、人間がこれまで成し得たよりもはるかに効果的な提案を、クライアントに与えることができる。
人間に焦点をあてる
最も重要なのは、デジタルサービスによって、人間のコーチは、人間だけが提供可能なものに集中できるということだ。教育やキャリアアウンセリング分野の研究によって、オンライン上ですべてを行うシステムはうまくいかないことがわかっている。「人に関わる専門職」は、人を必要とするのだ。コーチングには、今後もコーチが必要となる。我々が機械にとって代わられるのではなく、機械によって、より優れた、より効果的な「混合型」アプローチが可能となる。コーチがやる必要のない部分は機械に任せて、コーチは人との関わりにおける人間ならではの部分に集中させるというアプローチだ。
幸運なことに、我々の努力は、オンライン教育に関する研究の成果に恩恵を受けることができる。最近の研究については、MITが発表した報告書『オンライン教育:さらなる教育改革のための触媒(Online Education : A Catalyst for Higher Education Reforms)』の中に要約されている。この研究では、オンラインプラットフォームの利点の効果を高める存在としてコーチの未来像を示しているが、コーチングそのものの未来もオンライン教育の未来と同じように考えることができる。
※1 ユダシティ(Udacity)
(訳注:プロジェクト型のオンライン学習サービスを提供する新しい形の大学。2011年1月にサービスを開始し、すでに400万人以上が学習している)
※2 Joyable
(訳注:うつ病と社会不安障害を克服するためのオンラインによる認知行動療法アプリ)
※3 トークスペース(Talkspace)
(訳注:オンラインによるテキストセラピーを提供する心理療法プラットフォーム)
[著者について]
トッド・マーサ(Todd Martha)は、Careerwave.meの共同創立者、CEO、企業内カウンセラー、キャリアおよびビジネス・コーチ。
【翻訳】 Hello, Coaching! 編集部
【原文】 WILL YOUR NEXT COACH BE A ROBOT?
(2016年7月1日にICF BLOGに掲載された記事の翻訳。著者の許可を得て翻訳・掲載しています)
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