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コーチング学会レポート No.1:「マインドフルネスの科学」ほか

The Science of Mindfulness | by Daniel Goleman
コーチング学会レポート No.1:「マインドフルネスの科学」ほか
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リーダーシップとヘルスケアにおけるコーチング

2017年10月13-14日の2日間にわたり、ハーバード大学所属 McLean Hospital と外郭団体 Institute of Coaching の共催で、「リーダーシップとヘルスケアにおけるコーチング」をテーマとした学会が開催され、27ヶ国から約600人が参加しました。

ハーバード大学を中心とした医療および大学関係者をはじめ、リサーチャー、コーチなどコーチング関係者が集まり、活発な情報交換の場となりました。

コーチ・エィは、医療現場におけるコーチングの成果について発表しました。

ハーバード大学医学部所属 McLean Hospital と外郭団体 Institute of Coaching は、医療現場における患者や医療関係者のリーダーシップ開発を目的としたコーチング導入についての研究と実践を活発に行っています。この二者が共催する同学会は、ハーバード大学の外郭団体が行うものとしては最大と言われており、コーチングへの関心が高さがうかがわれます。

いくつか発表内容についてご紹介します。

1. マインドフルネスの科学
The Science of Mindfulness
ダニエル・ゴールマン氏

カンファレンスの初日はベストセラー『EQ』を執筆し、最近『Altered Traits: Science Reveals How Meditation Changes Your Mind, Brain, and Body(状態を変える:マインド、脳、身体に変化をもたらす瞑想)』を出版した、ダニエル・ゴールマンの講演で始まりました。

同氏は近年「瞑想」や「マインドフルネス」をテーマとした執筆や講演活動を熱心に行っています。今回はコーチング関係者が多いということもあり、変化が激しい中で活躍するリーダーと、リーダーに関わるコーチにとっての「マインドフルネスの実践の重要性」について講演しました。

現在、多くのリーダーの意識は、常に「問題は何か?」という問いの解決に向かっています。彼らは、高いストレスにさらされているため、「いち早いストレスからのリカバリー」が求められています。今回は、その手段として「マインドフルネス」が紹介されました。マインドフルネスとは、瞑想を西洋文化に合わせて、日常的に適用できるように開発されたものです。

マインドフルネスの実践は非常にシンプルです。目をつむり、30秒間、呼吸に意識を向ける。それを4回繰り返すだけで十分。この実践を日常生活の中に取り入れると、

  1. より集中できるようになる
  2. ストレス耐性が高まる
  3. 人をより大切に接するようになる

という結果がでているとのことです。

日常的に、メールを含む大量の情報処理に追われ、脳をマルチタスクに稼働させることが求められるリーダーにとって、短時間のマインドフルネスの実践は、脳を短時間で元の状態に戻し、集中力を高めることに役立つのでしょう。

会場では、全員がこの短いエクササイズを行いましたが、瞬時にして頭が静まる体験をしました。

コーチも、クライアントに対面するときに、緊張を強いられます。マインドフルネスはそれを解消するのにも有効だと紹介されました

2. 内向性を活かす方法:仕事、リーダーシップ、イノベーションの領域において
How to Harness the Strenght of Introverts to Transfom how we work, lead and innovate
スーザン・ケイン氏

アメリカの作家であり元弁護士のスーザン・ケイン氏による講演です。

世の中では「外交的であることがよし」とされる傾向にあります。特にリーダーシップを発揮する上で、外交性は必須であると思われていますが、外交的であることが「良いことである」「優秀である」というのは、果たして事実なのでしょうか?

世の中には、外交的な人、内向的な人がおり、1/3から1/2の人が、資質的に内向的だと言われています。外交的・内向的とは、外界からの刺激への神経的な反応により分けられるタイプで、どちらか極端に寄っているわけではなく、傾向の強さで大きく2つに分かれます。(中間のタイプも存在します)

たとえば、

  • パーティーに2時間参加した後、エネルギーは高まるほうか? それとも疲労するほうか?
  • 生まれて4日目に砂糖水を赤ちゃんに与える実験で、刺激反応が強く出るか出ないか?

といったもので、刺激に対して外交的に処理するか、内向的に処理するかの違いだけとも言えます。

スーザン氏自身は内向的で、子どもの頃は読書に耽っていました。周囲の環境は、一人で読書をするよりもチームで活動することを「是」とするものでしたが、彼女にとって、読書は心を冒険に連れ出してくれるものだったので、いつも早くチーム活動から解放されて、本を読みたいと思っていました。

現代では、一般的に「内向的な人は外交的になるべきだ」というメッセージが強くあり、さまざまな環境は外向的な人に合わせたものになっています。たとえば、教育の場では、グループを作ったときに単独行動や一人で作業することが好きな子は、はみ出し者とみなされる傾向があります。多くの組織においても、リーダーシップは外交的な人がとっており、彼らの発言で物事が決断されています。

彼女も、「外向的にならなくては」と、無意識に、自己否定的な反応をするようになっていきました。

しかしながら、内向的な人は、目立たない環境で能力を発揮することを好むだけで、外向的な人の方が能力が高いというわけではありません。実際に、内向的な人のほうが、外交的な人よりもリーダーシップを発揮できるというデータもあります。

内向性が高い人だと言われるキャンベルスープの CEO、Douglas Conant 氏は、従業員3万人にサンキューレターを書いたという話があります。それは、彼が人に対するシンパシーを感じることができたからだと言われます。また、GE のバイスプレジデントだった Beth Comstock 氏は、内向性があったゆえに、他者と比較にならないくらいの「好奇心」の塊だったとも伝えられています。

外向的な人は、他の人のアイデアを抑えてしまう傾向がありますが、内向的な人は、他の内向的な人のアイデアを活かすことができます。

今後、社会や組織は内向的な人に活躍してもらう必要があるのです。創造性や生産性の面で、内向的な人の存在が欠かせません。

新しいアイデアは、グループによる活動と、個人が自己学習し考える活動の両面から生まれてくるという考え方のもと、この講演では、いまの世の中は外向的な人に合わせた環境になっていることで、内向的な人の意見やアイデアが表出しづらい状況になっていることに対する問題提起がなされました。

コーチングが、相手の意見やアイデアを引き出すコミュニケーション技術だと考えた時に、彼女が実現したいことと、コーチングには相関があると感じました。

3. 公的医療サービス機関におけるコーチングの導入:成功事例と失敗から学習したこと
Government Healthcare Setting:Success and (Painful) Lessons Learnt
アンソニー・M・グラント氏、ショーン・コナー氏(シドニー大学)

オーストラリア公共医療サービス機関において、リーダーシップを促進させるための「リーダーシップ・コーチングが導入されました。

プロジェクトは2回にわたって行われ、第1期は31人を対象にした1on1のエクゼクティブ・コーチングが提供されましたが、第2期はコスト削減の方針によって、27人を対象にしたグループ・コーチングになりました。

その結果、第1期の1on1のコーチング対象者は、ゴール達成率、問題解決思考、ストレス軽減、リーダーシップ、信頼関係、キャパシティ、忍耐力、自己発見の領域において向上が見られ、個人的な生活においても、家族との関係やライフバランスの改善が見られました。一方で、グループ・コーチングでは効果は見られず、そもそも、成果測定の指標が明確ではなかったとのこと。

1on1コーチングが成功したにもかかわらず、スポンサーのコスト削減の方針により、グループ・コーチングが導入され、そのプログラムが十分にデザインされず、成果の指標も明確化されなかったことにより、混乱が起こったことが指摘されています。

スポンサーとプログラムを立ち上げる際に、コーチ側の視点と提案力がとても大事であることが伝わってくるプレゼンテーションでした。コーチングを提供する側が、スポンサーの「コスト削減」に屈してしまったために、成果の上がらないプログラムを実施した無念さが全面的に出てくる内容です。



その他、リサーチをベースに、コーチングの有用性について紹介するリサーチシンポジウムでは医療や健康現場におけるウェルネスの向上、企業組織におけるリーダーシップの向上についてのコーチングの事例が紹介されました。

ハーバード大学所属 McLean Hospital と外郭団体 Institute of Coaching は活動目的を「コーチングのユーザー(使用者)にとって有益なリサーチや教育機会を提供すること」をミッションとしています。今後の活動に大きな期待が寄せられます。


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