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コーチング学会レポート No.2:臨床研究で明らかになったコーチングの効果は何か?
2017年11月21日
2017年10月13-14日の2日間にわたって開催されたハーバード大学所属 McLean Hospital と外郭団体 Institute of Coaching による学会で、東海大学医学部の安藤潔教授が、コーチ・エィと共同で開発した医療従事者向けのコーチ・トレーニング・プログラムについての発表を行いました。
Medical Coach Training Program(MCTP)の開発経緯について
コーチ・エィは、2010年に東海大学の安藤潔教授、東北大学の出江紳一教授と共同で、医療従事者向けのコーチングプログラム「MCTP: Medical Coach Training Program」を開発しました(注: 現在は提供を終了)。今回の学会における安藤教授の発表内容は、MCTP開発に至った研究結果(「患者様へのコーチング活用による効果」)をまとめたものです。
発表タイトル:Clinical Evidence Development of Medical Coaching for Narrative Based Medicine in Japan(ナラティブ・ベイスト・メディスンを実現するためのメディカル・コーチング:医学的根拠と日本における開発)
MCTP開発に至った研究の背景と方法
この研究は、脊髄小脳変性症患者に対するコーチングが、患者の健康関連QOL(Quality of Life)や心理的適応に与える影響を検討することを目的としたものです。脊髄小脳変性症とは、小脳および脳幹から脊髄にかけての神経細胞が徐々に変性して消失していく病気で、運動失調を主な症状とする神経疾患の総称です。
以下が、本研究の背景です。
- 神経難病の多くは進行性であり、有効な治療法が少なく、徐々に身体機能の障害をきたす。
- 行動が制限されるため、さまざまな心身の機能低下や心理的問題といった二次的な障害が発生し得る。
- このような慢性進行性の疾患においては、患者が病気による症状を受け入れた上で、可能な活動範囲内での自己実現をできるように援助することが求められる。
研究においては、対象者を、「コーチングをする群」と「しない群(コントロール群)」という2つのグループに無作為に分けて比較するという方法を用い、評価指標として、健康関連のQOLと心理的適応(NAS-J)の2つを設定しました。全24例の患者のうち、12例に対しては全10回(1回/週)、1回15〜30分間の電話によるコーチングを実施。コーチングは、安藤先生を含め3名の医師が行いました。
コーチングを始めて3ヶ月後の比較において、健康関連のQOLでは両群間に差はありませんでしたが、心理的適応(NAS-J)における自己効力感は、コーチングを受けていたグループのほうが明らかに向上していることがわかりました(下図)。
コーチングの機能についての分析
この研究においては、コーチングを受けたグループがコーチングのどの機能が効果的だったと認識しているかを明らかにするためにインタビューを実施しました。その上で、コーチングの有効性を検証を目的に、「インタビュー録」と実施したコーチングの「ログ(メモ・記録)」のテキスト分析を行いました。
コーチングのログから見えたこと
コーチングのログの分析では、コーチングの1回目から10回目のそれぞれの内容を洗い出して推移を明確化し、各段階で使用されるコーチングスキルがどのようなものかを検証しました。その結果、
アイスブレーク ⇒ プレコーチング ⇒ コーチングフロー ⇒ 振り返り
の順に、段階が推移したことがわかりました。
インタビューから見えたこと
また、コーチングを受けた3名に対する半構造的インタビューのテキスト分析を行ったところ、自己効力感の向上に影響する技法として『アクノレッジメント(承認)』が有効であることがわかりました。
電話によるコーチングを提供した9名に対しても同様に、どのようなコーチング機能が効果的だったと認識しているかを明らかにするインタビューを実施し、その内容を分析しました。結果として、次の3つの機能が挙げられました。
- 日常生活の場で自分の話ができる
- 新たな視点に気づく
- 自分ができることを新たに始め継続する
日本におけるメディカル・コーチングの導入
こうした臨床研究の知見をもとに、この研究に参加した医師とコーチ・エィは共に、Medical Coach Training Prograrm(MCTP)というトレーニングプログラムを開発しました。MCTPは、通常のコーチングスキルの習得のためのプログラムに、医療従事者を対象とした特別クラスを設けて設計したものです。過去250名を超える医療関係者が受講し、臨床の現場においてコーチングを活用しています。
執筆者プロフィール
安藤潔氏
東海大学医学部 血液・腫瘍内科学 教授
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