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課題解決がクライアントの前進に役立つとは限らない
2018年07月13日
クライアントの中には、自分を変えるためにコーチングを受けに来る人も多い。自分が「課題」だと思う分野を特定し、コーチングプログラムに参加して何らかの形で課題を解決できる人もいる。そこで、次のような重要な疑問が生じる。クライアントの前進を支えるにあたり、コーチはクライアントの現在の「課題」をどこまで追求する必要があるのだろうか?別の言い方をすれば、コーチである私たちは、相手の考え方を変えて行動を起こせるようにするために、「課題」の原因を探る必要があるのだろうか?
課題の原因を追究することの落とし穴
私の経験上、クライアントはコーチングを通じて現在の状況をある程度明らかにすることを期待している。自分が置かれている状況をじっくりと考えることで、身の回りでいま何が起きているか理解し、問題の根本原因を(おそらくはソクラテスのような問答を通じて)特定または解消することができる。コーチの役割には、クライアントの話に熱心に耳を傾けて、信頼できる親しい関係を築くことが含まれることは確かである。その一方で、クライアントが現在の「課題」を追求しているときに、非生産的な思考の堂々巡りに陥っていないか常に注意を払うことも、コーチには求められる。
たとえば、自分のコーチング経験を思い出してみてほしい。問題点の話し合いにコーチングセッションの大半を使った経験はないだろうか?また、自分が使用している一連の問いかけや質問について考えてみてほしい。そのような質問は、本当にクライアントの役に立っただろうか?解決策にたどり着くどころか、かえって問題がややこしくならなかっただろうか?コーチのトレーナーとして、私は時にこのような事態が起こるのを目にしてきた。新人のコーチは、大抵の場合、クライアントにとって納得のいく未来の形成をサポートすることではなく、クライアントに課題の特定と解決をさせることにばかり気を取られている。
もちろん、「前進するためには、課題の原因を理解しなければならない」という考えには、一定の論理的説得力がある。しかし、課題解決の意識でコーチングの会話をすると、クライアント(とコーチ)が話の枝葉末節に気を取られてしまう危険性がある。そうなると、「そもそもなぜ問題が生じたのか」「どこが間違っていたのか」など、重要でない情報しか得られない質問ばかりしてしまいかねない。このような会話をした場合、クライアントはネガティブな思考や不安な気持ちを必ず抱くことになり、課題の追求から将来の目標やビジョンの形成に向けて飛躍していくことが難しくなる。
未来に向けた問いのもつ意味
快い開放感は味わえるかもしれないが、問題の枝葉末節を追いかけても、クライアントが前進できるとは限らない。ほとんどのクライアントは自分が直面している課題を理解しているし、一般的に言って、課題ばかりを取り上げて会話を続けても、意義のある知見が得られることはない。一方、もし、コーチが問いかける質問が本当の意味で意欲をかき立て、将来のあり方を考えるための質問ならば、クライアントは新しいアイデアを生み出すことができるだろう。また、そのような質問をすることで、変化を推進する大きな理由をクライアントに与えることにもなる。
このような方法を取ることで、将来のビジョンを描く手助けをして、クライアントをより効果的にサポートすることができる。そのうえで、目標とする状態と現状の間のギャップを明らかにする作業に戻るとよいだろう。そうすることにより、責任感とアカウンタビリティを与え、変化への意欲をさらに高めることができる。
課題の根本を探ることが有効なとき
とはいえ、根本的問題の特定を助ける質問を絶対にしてはならないというわけではない。こうした質問は、たとえば、認知行動コーチングを取り入れた実践を行う場合、特に重要である。そのような場合は、課題に適切に対処するために、クライアントが現在の状況を理解することが欠かせない。他にも、たとえばクライアントが過去の課題の解決方法を利用して成功体験を再現したいと考えている場合、このアプローチは有効である。
優れたコーチであるために
さて、以上のような方法でコーチングを実践する場合、コーチはさまざまな能力を身に着ける必要がある。優れたコーチになるには、何よりもまず、クライアントが自分の前進に関係のない課題についての話をしていたら、それを見極めることができなければならない。さらに、コーチの好奇心を満たすためではなく、クライアントを助けるために課題に関する質問を投げかけられるよう、自分の一連の質問をよく認識しておく必要がある。
最後に、おそらくこれはさらに重要な点だが、「クライアントをサポートする前に、課題を十分に理解しなければならない」という考えを捨てる必要がある。「クライアントの複雑な状況を詳しく知らないままコーチしなければならない」という考えを受け入れるのは、すぐにはできないことであり、勇気がいることでもある。しかし、そうすることで、さらにレベルの高いコーチングを実施して、クライアントの根本的な変化を後押しすることができるだろう。
【筆者について】
ジョセフ・グレック (Joseph Grech, ACC) 氏は、国際的に活躍するコーチで個人や企業に対してエグゼクティブ・コーチングやキャリア・コーチングを行っている。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】We Get to the Root of a Problem?
(2018年6月12日にICFのCOACHINGWORLDに掲載された記事の翻訳。ICFの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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