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即興劇に学ぶコーチング

【原文】The Art of Coaching Improvisationally
即興劇に学ぶコーチング
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「コーチングでは会話を始める前の5分間が、セッション全体で最も重要な時間だ。」

コーチのトレーニングでこの言葉を聞いたとき、私は驚いたことを覚えている。もちろん、行動や手順を明確化する時間は非常に重要だ。また、これから行うセッションに向けて準備や確認の時間も大事である。しかし、今になって、私はコーチとして、このアドバイスが的を射ていることを理解している。気が散った状態でセッションに臨んだとしたら、クライアントの役に立つことはできないだろう。会話を始める前に、私は自分の心を落ち着けて、余計な考え抜きでじっくり話を聞く準備をする。何よりも大事なのは、これから起きることと自分の役割に自信を持つことである。いつも少しドキドキする感じがある。これから何が起こるか、会話がどのような結末になるか予想できないからである。

興味深いことに、先のことを予想するときに感じるエネルギーは、即興劇(Improv Comedy)を演じるためにステージ向かって歩いて行くときに感じるエネルギーとまったく同じものだ。

私は数年前に、趣味として、そして自分の完璧主義的で他人を支配したがる性格を抑えるために、即興劇を学び始めた。即興劇では、2人以上の人々がステージ上で一緒に何かを作り出す。予想していなかったことや、自分ひとりでは作り出したことのない、新しい何かを生み出すのである。学び始めて以来、私は人生がどれだけ即興に満ちているかということに気がついた。エイミー・ポーラーが言ったように、「私たちはみな、自分の人生をコントロールしていて、固い地面の上に足をつけていると思っているが、それは間違いだ。即興はそのことを何度となく思い出させる。」のである。

ここでは、即興劇のテクニックをいくつか取り上げ、即興劇がコーチング関係にどのように役立つかについて説明しよう。

「そうですね、それで...」の力

即興劇の基本ルールは「そうですね、それで...(Yes-And)」と言うことである。つまり、即興劇の相手から与えられたものを受け入れ、そのうえで何かを返すことである。受け入れるといっても、相手の提案に同意したり、提案を気に入ったりする必要はない。ステージ上での私たちの仕事は、相手の行動を現実としてそのまま受け止めたうえで、自分の反応を相手に返すことだ。

「そうですね、それで...」は人生に欠かせないものである。実際、私たちは自分の人生をコントロールできていない。不測の事態は必ず起こる。計画は失敗する。結婚生活には終わりが来る。工場は閉鎖される。最愛の人も亡くなるときが来る。コーチングの主な仕事は、人生をあるがままに受け入れられるように人々を助け、自らが思い描く人生へと向かわせることだ。私たちは臨機応変に考えることで、クライアントの人生が計画どおりに進んでいないときでも(おそらくそういうときこそ)、生き生きと創造的に、そして困難からすぐに立ち直って楽しく生きられるように、クライアントを支えることができる。

コーチとクライアントの関係自体、即興的なものである。驚きや回り道がある。面白い質問によって予想していなかった考えが明らかになることもある。「そうですね、それで...」を意識することで、コーチは実りある成果を得ることができる。

「聞くこと」の力

滑稽な即興劇をステージで見たことがある人は、「聞くことが成功の鍵だ」と言われても、その意味がよくわからないかもしれない。しかし、優れた即興劇は、演者がお互いによく注意を払っているときに生まれる。目の前にいる相手に注意を払い、相手が伝えようとしていることを聞き取ることなくして、即興で演じる、つまり、「そうですね、それで...」を繰り出すことはできない。よく聞くことは、他者を尊重する最も優れた方法の1つである。ステージにおいても人生においても、誰かに認められ、自分の考えを受け入れてもらえる以上のことはない。聞いてもらえて、見てもらえて、尊重されていると感じられるからだ。

「聞く」ことが現代の主流文化にどれだけ反しているかは(また、それゆえに重要であることは)、強調してもいいだろう。私たちは短く刺激的な言葉が好まれる文化の中で生きている。身の回りには箇条書きのリスト、キャッチコピー、ホットテイク(十分な調査や考察をせずに適当に書かれた記事)があふれている。私たちはこのようなコミュニケーションによって、不思議さ、微妙さ、驚きなど、多くのものを犠牲にしている。おそらくみなさんも、「話をよく聞いてくれる」という理由だけでクライアントに感謝され、驚いた経験があるだろう。私の質問がそれほど効果的なものでなくても、コメントがそれほど鋭いものでなくても、話をよく聞くことで深い知恵を引き出せることがある。時には、聞くだけでも十分なのである。

スモールステップの力

進むべき方向がわかっていないクライアントや、方向を見極めるのにコーチを必要とするクライアントもいる。私のクライアントの多くは、人生に何を求めているか自覚しているようだが、行き詰まりを感じて正しい一歩を踏み出せないでいる。ここでも、即興劇が役に立つ場合がある。シカゴのセカンドシティ・トレーニングセンターには、「Bring a brick, not a cathedral(大聖堂ではなく、レンガを用意せよ)」という格言が掲げられている。他の人と一緒に即興で演じるとき、私たちは十分に練り上げたアイディアを用意してきて、それをポンと出しているわけではない。レンガを1つずつ持ち寄り、みんなで一緒に組み立てているのである。演技を続けるうえで大事なのは、正確さや利口さではなく、前に進む勢いだ。つまり、「適度に良いこと」こそが、即興役者が、そしてコーチが従うべきルールなのである。

もちろん、人生の中で大きな飛躍を経験することもある。リスクを伴う決定や無謀な挑戦が、出しゃばりなコーチによって押し付けられることもあるかもしれない。しかし、人生の大部分は小さく誠実な一歩一歩の積み重ねでできている。即興劇、そして即興的なコーチングを活かすことで、私たちは自分が望む場所に行くことができるだろう。

【筆者について】

メリーアン・マッキベン・ダナ(MaryAnn McKibben Dana)氏は、米国ヴァージニア州在住の作家、牧師、スピーカー、コーチであり、著書に『God, Improv, and the Art of Living』『Sabbath in the Suburbs』がある。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】The Art of Coaching Improvisationally  (2018年7月23日にICFCOACHING WORLDに掲載された記事の翻訳。ICFの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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