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頑張りすぎるエグゼクティブをどうコーチするか?

【原文】Coaching Overachievers
頑張りすぎるエグゼクティブをどうコーチするか?
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コーチである私たちは、クライアントから多くのことを学んでいる。これには誰もが同意することだろう。だからこそ、私たちはこの仕事を愛している。エグゼクティブ・コーチングでは、なおさら学ぶことが多い。その場合、クライアントがより一層意欲をかき立てるため、私たちはレベルを意識的に上げなければならないこともある。

エグゼクティブは一人ひとり皆違っているが、共通した特徵も持っている。活力、意欲、集中力が高く、多くの仕事を精力的にやろうとする。「頑張りすぎる人(オーバー・アチーバー:Overachievers)」であり、何かを成し遂げたいという意欲がきわめて高い。やり遂げることが重要だということを、頭ではなく感覚で理解しているような人たちである。

「頑張りすぎる人」の動機

ハーバード大学で教鞭を執っていた心理学者のデイビッド・マクレランド(David McClelland)氏は、長年にわたり、動機付けとそのリーダーシップ行動への影響について研究していた。その中で彼は、人間の行動は「達成動機」「親和動機」「権力動機」という3つの内的要因(社会的動機)によって解明できるとした。マクレランド氏はこれらの要因を次のように定義した。

「達成動機」とは、一定の基準を上回ろうとする願望であり、成功への意欲である。「親和動機」とは、親密な人間関係を維持しようとすることである。「権力動機」とは、権力や影響力を持ち、他人に影響を与えようとすることである。

マクレランド氏は、「権力動機」には2つの形態があると主張した。一つは個人的な動機である。この場合、リーダーは他者を支配して彼らに「自分たちは弱者だ」と思わせることで力を得る。もう一つは社会的な動機である。この場合、リーダーの力は人々を助けることから生じる。

マクレランド氏の研究は、ある程度誰にでもこの3つの動機は存在することを明らかにした。マクレランド氏は当初、3つの動機のうち、「達成動機」が成功するためには最も重要であると考えていた。しかし、晩年の著作では、最も有能なリーダーは主に「社会的」な力によって、つまり、他者の成功を助けようとする意欲によって動機付けられていると主張した。

状況の理解とコンピテンシーが重要

私はA氏とB氏のコーチングを同時期に始めた。2人はテクノロジー業界の別々の企業に勤めている。B氏は私のことを知っていて、自ら私を探し出し、最初からきわめて意欲が高かった。B氏はコーチングの費用を自ら負担していた。A氏の場合は会社が費用を負担していた。初めてA氏に会ったのは、顔合わせ面談のときだった。

クライアントの状況に注意を払うことで、私は国際コーチング連盟(ICF)が定めるコアコンピテンシーの2.「コーチングに関する合意を取り交わしている」と7.「率直なコミュニケーションをとっている」を活用すれば、A氏とB氏を成功に導けることに早い段階から気づくことができた。

A氏のケース:「コーチングに関する合意を取り交わしている」

A氏は短期間で多くの成果をあげた。プレッシャーをはねのけて目標を達成し、ハイペースでチームを導いた。チームと共に世界的な新製品をインドで初めて開発し、現在はグローバルチームに加わることを希望している。

A氏の話を聞いたところ、彼はとにかく自分のことだけを考えていて、新しい課題を求めている、ということがわかった。そこで、私は「チームの成長を助けることは、あなたにとってどれくらい重要なことですか」と質問した。A氏は返事もせずに黙ったままだった。私を見つめながら、その点には一度も注意を払ったことがなかったこと、それが自分の盲点だったことにすぐに気づいたようだった。「頑張りすぎる人」はこのようにして気づきを得る。

A氏は、セッションではこの問題に集中的に取り組むこと、また、通話の終わりに実行可能な計画を一つ決められるかどうかを、セッションの成否を測る指標とすることに同意した。

A氏がコーチングに価値を見出したのは、その合意を確立するまで、私が話を先に進めなかったからである。私はA氏のことを以前から知っているわけではなかったが、私を信頼すると電話で伝えてくれた。A氏は現在、「達成動機」を人間関係作りと力を「社会化」することに変えようとしている。

B氏のケース:「率直なコミュニケーションをとっている」

B氏は約800人が所属する巨大な組織を運営している。彼が出世できたのは、プロジェクトや人間関係に関する優れたスキルを持っていたからである。

最初、B氏は同業者に「追いつく」ために、自分の課題を指摘してほしいと私に頼んできた。また、エグゼクティブ・プレゼンス(経営者としてふさわしい資質)を高める必要性について、私の意見を求めた。2回目のセッションでは、B氏はこのコーチングを自己啓発計画として考えており、私の指導のもとでこの計画を進めるつもりでいることがわかった。

私はそのセッション中に、B氏の許可を得たうえで、次のような意見をはっきりと伝えた。「課題を一緒に策定し、これまでのように忙しく働き続けるのも一つの案ですが、今よりも忙しくなったところで、エグゼクティブ・プレゼンスは高まらないでしょう。少し時間にゆとりを作り、自分が本当に行わなければならないことについて、じっくりと考えることはできないでしょうか?」

すると、一転してB氏が会話の主導権を握り始めた。その後の数回のセッションでは、B氏は組織が彼から独立して自らの判断で業務を行えるよう、自分の組織をサポートする行動を計画した。


「頑張りすぎる人」をコーチングする場合、コーチは早い段階からクライアントに会い、その置かれている状況を理解する必要がある。「頑張りすぎる人」は課題を指摘されることに慣れていないが、私たちコーチが、気持ちにゆとりをもたせ、自分自身を見つめ直させることができれば、自分の課題に気づくだろう。

そのために、私たちはさらに技術を磨く必要がある。ICFのコアコンピテンシーは技術の向上に大きく役立つだろう。

筆者について

プラサード・デシュパンデ(Prasad Deshpande, MCC)氏はコンサルティング・ファーム、エンパワード・ラーニング・システムズ(Empowered Learning Systems)の代表で、戦略的プランニング、リーダーシップ開発、組織分析を専門分野としている。また、国際コーチング連盟(ICF)プネー(インド)チャプターの代表を務めている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Coaching Overachievers (2018年8月13日にICFCOACHING WORLDに掲載された記事の翻訳。筆者の許可を得て翻訳・掲載しています。)


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