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クライアントが効果的な意思決定を行うための4つのステップ
2019年05月03日
転職、起業、高額な買い物など、私たちは毎日、些細なものから重要なものにいたるまで、さまざまな意思決定を行っている。しかし、その意思決定はどれだけ適切なのだろうか?
ダン・アリエリー(Dan Ariely)氏の研究(『予想どおりに不合理(Predictaly Irrational)』で紹介)によると、私たちには不合理な選択をする傾向があるという。その理由は、健全な論理に従う代わりに、ある時点で自分の直観や衝動を受け入れるからである。すべての事実を考慮せず、バイアスの影響を受けてしまうのだ。
ジョン・ビシアーズ(John Beshears)氏とフランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)氏は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事で、組織内で賢い選択をうながすために経営者が実践できるいくつかの策について説明している。
2人が論じている原則の中には、戦略上の決断を迫られているクライアントとのコーチングに応用できるものもある。コーチは、クライアントの意思決定プロセスを最適化することができることを、コーチ自身が知っておく必要がある。
以下に紹介する4つのステップは、クライアントが個人やビジネス上の意思決定をする際に役立つものである。
1. 場所を変える
いつもの物理的環境からクライアントを引き離すことで、その人が必要とする解放感を与えることができる。
たとえば、クライアントがビジネス上の決断に迫られているならば、オフィスの外でコーチング・セッションを実施することを検討してもよいだろう。集中したり、リラックスしたりできる場所で会うことにより、セッションの開始時とは違う視点の考えをうながすことができる。
コーチング・セッションは新しいアイデアを試す安全な場所であるということを強調すれば、これまでと違う考え方をしたり、創造力を発揮するようにうながせるだろう。
2. どのように意思決定を行っているかを自覚させる
ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)氏は、自身の著作『ファスト&スロー(Thinking Fast and Slow)』で、私たちの脳には判断と選択に影響を与えるシステムが2つ存在すると論じている。
システム1は、感情的で直観的な速い思考であり、何かを選ぶときに働く勘のことである。システム2は、論理的で意識的なゆっくりとした思考であり、情報を検討、評価して結論を出す能力である。
私たちの直観や感情は、時に重要な事実を無視する。システム2を働かせる必要があるのは、そのようなときである。これらの原理を理解することで、状況に対する直観的な反応と熟慮の上での反応を区別できるようになる。コーチの役割は、分析と構造的な検討を通じて、意思決定プロセスにおいてシステム2を働かせるようサポートすることである。
3. 建設的な分析を始める
分析プロセスを始めるには、「定義-分析-決定」というアプローチを利用するとよいだろう。
「定義」のステージでは、意思決定によって解決される問題を洗い出し、測定基準を決め、求めている目的や効果を明確にする。また、意思決定の影響を受けるステークホルダーをリストアップする。
「分析」のステージでは、情報を収集して検討し、問題の根本原因を明らかにして、相互に関係している要因を検討する。因果関係を表す図やビジュアルマップなどのツールを利用すると便利だろう。
「決定」のステージは、代替案を出し、最適な選択肢を検討するステージである。ブレインストーミングと親和図法を利用すれば、このステージの活動をすぐに始められる。
また、それぞれの選択肢の効果を測定して評価する必要がある。
アクティブリスニング、思考をうながす質問、ボディランゲージや声の調子などに対する気づきは、いずれもコーチが問題の中心を特定するのに利用できる手段である。クライアントが提供する情報を要約したり言い換えたりすることが、大きな効果を発揮し、分析に役立つことがある。また、バイアスに気づくことで、意思決定を行う前に盲点を克服することができるだろう。
4. 認知バイアスを克服する
認知バイアスとは、それと気付かないうちに非合理的な判断を行う傾向である。バイアスは気づきにくいものであり、人間の行動に影響を与える。
たとえば、決断を迫られているときに、自分の予想の根拠となる情報には注意を払い、それに反する事実は無視することがある。「ビジネスインサイダー」では、意思決定に影響を与えるトップ20のバイアスをあげている。
この段階でコーチが提供するサポートは、非常に重要である。なぜなら、バイアスを認識し、客観的な情報に基づいて意思決定を行うには、他者によるサポートが必要だからである。
そして選択する
分析作業を行い、バイアスを克服することで、最も合理的な選択肢が明らかになる。少なくとも、いくつかの実行可能な選択肢が見えてくるだろう。SWOT分析を行い、それぞれの選択肢が生み出す強み、弱み、脅威、機会を検討すれば、選択肢を評価しやすくなる。
構造的なアプローチを意思決定に採用することで、クライアントは自信をもって前進し、合理的に選択できるようになる。ただし、必要に応じて柔軟に意思決定を再評価することが重要だ。
たとえば、新しい情報が入ることや、意思決定によって望みどおりの結果が得られないことがある。決断した後に、クライアントに定期的に状況確認を行うことで、クライアントの計画をうまく軌道に乗せることができるだろう。
意思決定に関してコーチが行うべきことは、建設的な議論をうながし、適切な質問を投げかけ、バイアスの指摘と克服を助けることである。コーチングを実施することで、目下の問題の全体像を提示し、新たな視点を提供することが可能である。戦略的な決断を迫られている意思決定者や組織は、コーチと協力することで大きな利益を得ることができるだろう。
筆者について
クラシミール・カシノブ(Krasimir Kashinov)氏はビジネス・ストラテジーやビジネスの運用を得意分野とする経営コンサルタントであり、ICF認定コーチ。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Using a Coaching Approach for Effective Decision-making(2019年3月21日にICFのCOACHING WORLDに掲載された記事の翻訳。ICFの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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