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優れたITリーダーが人間関係を重視する理由
2019年05月10日
優れたリーダーが他と違うのは、人間関係を築く力を持っている点である。
「社内外を問わず、協力的な人間関係を築くことなくして、顧客のビジネスを成功させるのに必要な結果を生み出すことはできない。」
JPモルガン・チェース最高情報責任者(CIO)
ロリ・ビアー(Lori Beer)氏
人間関係をうまく扱い、信頼と協力的な職場環境を作り出すことは、昨今のデジタル社会において、優れたリーダーシップを発揮する上で非常に重要なことである。世界中の企業の経営幹部を対象に行ったインタビューから明らかになったのは、このスキルこそ、真に優れたリーダーとそこそこのリーダーを分け隔てるものであるということだ。
デジタル・ビジネス環境における優れたリーダーとは、テクノロジーと分析の力を正しく評価し理解しているリーダーである。しかし、それだけでは十分ではない。リーダーには、顧客が優れた成果をあげるために、さまざまな事業部や部門の人々をひとつにまとめるスキルとマインドセットも必要である。JPモルガン・チェースのCIO、ロリ・ビアー氏は次のように語っている。
「すべてのITエンジニアが、完璧なAPI(Application Programming Interface)の作成方法を理解する必要はない。しかし、我々が必要とするのは、API、ブロックチェーン、クラウド、AI、機械学習によって、顧客へのサービスの提供方法がいかに変わるかということについて、共通理解を得ようとする情熱を持っている人だ。」
人間関係を築くことが重要な理由
優れたリーダーは、次の3つのことを非常にうまく実践している。
1. 顧客や株主に優れた成果をもたらす、革新的でコスト効率の高い製品やサービスを継続的に生み出すチームに刺激を与える
2. 協力、従業員の成長、継続的な進歩を促進する開放的な職場環境を作り出す
3. 責任をもってコミュニティと社会に利益をもたらす
デジタル社会が進むなか、今日のリーダーは、人間関係の構築に改めて注目しながら、これらのリーダーシップの課題に取り組まなければならない。
チームが特出した成果を生み出せるよう働きかける
デジタル社会において、「チーム」という概念は大幅に拡大し変化した。今日、多くの企業はエコシステム的な世界で事業を営んでいる。つまり、一方ではある環境の中心的なプラットフォームの役割を果たし、他方ではエコシステムのパートナー的な役割を果たしている。そのため、企業は「チームメンバー」であると同時に、他社と競り合うライバルでもある。
このような環境下で成果をあげるためには、高度な法律上の取り決めだけでなく、多大な信頼と関係構築能力が求められている。さらに、ビアー氏が述べているとおり、社内レベルでも、ビジネスリーダーと各部門のエキスパートは、新しい機会を発見してそれにすばやく対応するために、サイロを破壊して関係を構築する必要がある。
ビアー氏は次のように語っている。
「たとえば、あなたが自分でテクノロジーの全要素を把握したり、提供したりしなくてもいいことを理解し、また、組織横断的にそれらの要素を構築しているチームを信頼することができるとしよう。そうすれば、一番重要な20%の部分、つまり製品や顧客の差別化を可能にする部分に意識を集中させることができる。」
開放的で従業員中心の協力的な職場環境を築く
企業が、優れた人材を引き寄せる磁石になるために不可欠なことがある。それは、意見の表明、ストレッチ目標の設定、継続的な成長、主体的なキャリア形成を従業員が行えるような人間関係を築くことをリーダーが最優先していることである。これは、従業員の成長を歓迎する活発なコミュニティを築くうえで欠かせないことである。
協力的な人間関係は、成果を促進するうえで重要であるだけでなく、より活気に満ちた職場環境を作るうえでも重要である。
ビアー氏は次のように語っている。
「優れた技術人材の発見が難しいと感じるときもある。しかし、まずは、きわめて多様な経歴や考え方を持つ人々が、協力して働ける開放的な文化の構築に注力してみるとよい。そうすれば、やる気にあふれた人やこの会社で働きたいと思う人が集まってくる。」
技術者やデジタルに詳しいスペシャリストは、多くの職業的な選択肢を持っており、自分に合った職場環境を選ぶことができる。そのために企業は、そういった従業員が自社で働くことを選んでくれるよう、彼らと互いに有益な関係を築こうと努力している。
責任をもってコミュニティと社会に利益をもたらす
大きな変革をもたらす優れた組織は、①目的を中心に据え、②成果を重視し、③基本理念に忠実であること、を同時に実現するために努力している組織であると、これまで私は主張してきた。デジタル社会で成功を目指す企業も同様である。一般に、経営チームがこれらの方針のうち、1つや2つを実現「することは容易なことである。しかし、3つの方針をすべて実現することは、きわめて困難である。なぜなら、利益と理念の間で緊張関係が生じるようなことが起こるからである。
企業のビジネスモデルとバリューチェーンのデジタル化が進むにつれて、このような緊張関係は別の形に変わりつつある。たとえば、プライバシーの問題、データの不正利用、バイアスのかかったAIなどがあげられる。しかし、デジタル化は単に新たな緊張を生むだけではない。それは、医療、教育、社会的正義の分野において長年にわたり社会的な問題となっていたことに対して、解決策を与えるものでもある。
たとえば、アップルは何千万ドルもの資金をリサーチキット(ResearchKit)社に投じている。これは医療研究者の診断能力を大幅に向上させるデジタル・マッピング技術である。アップルのCEO、ティム・クック(Tim Cook)氏は、リサーチキット社との事業で利益を生み出すことはおそらくできないと思っているが、アップルのテクノロジーをこのような方法で活かすことは、慈善団体に小切手を送るよりも良いことだと考えている。
インドネシアのカーシェアリング企業であるグラブ(Grab)社は、ASEANで最も成功を収め、急成長している企業のひとつである。グラブ社の経営チームでは、人材戦略の中核的な理念のひとつとして、テクノロジーを利用して遠隔地に住む女性を採用し、貧困からの脱却を支援することを掲げている。
JPモルガン・チェースのビアー氏のチームでは、「社会的利益のためのテクノロジー(Technology for Social Good)」というプログラムを主導している。このプログラムでは、JPモルガン・チェースの従業員と協力して非営利団体に技術的ソリューションを開発する高校生、大学生、経験豊富な専門家を対象にした、コーディング・チャレンジ(プログラミングのスキルを競う大会)を運営している。従業員は、コーディング・チャレンジを進化させた活動、つまり完全な技術的ソリューションを構築するサービスも行っており、1,000以上の非営利団体を支援し、世界中のコミュニティに住む数百万の人々の生活に影響を与えている。
このようなリーダーたちは、人間関係の構築と優れた世界の形成が深くつながっていることを知っている。またそれにより、自分の会社を、職場に目的と意味を求める人材を引き寄せる磁石のような存在に変えているのである。
重要なのは、ビアー氏が雄弁に語っているとおり、私たちの職場環境がバーチャル化し、ビジネスモデルがデジタル化するにつれて、持続可能な成功を決定づけるものが、企業のアルゴリズムの力から、私たちが作る人間関係へと変わりつつあるということだ。
筆者について
ダグラス・A. レディ(Douglas A. Ready)氏は、MITスローン経営大学院における組織論の上級講師であり、国際エグゼクティブ開発研究協会(ICEDR)の創設者兼CEO、そして、『MITスローン・マネジメント・レビュー』の客員編集者を務める。
【原文】Why Great Leaders Focus On Mastering Relationships
(2019年3月6日に『MITスローン・マネジメント・レビュー』に掲載された記事の翻訳。同機関の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Used with permission from MIT Sloan Management Review. All rights reserved.
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