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AIによる業績評価に人間の関与は必要か?
2019年07月05日
従業員の業績について、人間と機械のどちらが最終的な判断を下すのか。企業はそれを選択しなければならない。
AIによる業績評価に関する議論
デジタルツールやデジタル技術により、業績管理の仕組みが根本から変わりつつある。データを利用した個別にカスタマイズされた継続的な業績評価が、世界中の企業で新たな標準になり始めている。このような人事評価は、質的にも量的にも従来の業績評価より優れており、より良い結果をもたらすように見える。一方で、AIを利用した業績評価の効果を大きく改善するには、人間の関与が必要なのではないか、という疑問も出ている。
最先端の人材管理に取り組んでいる組織では、従業員への業績評価の提供、伝達、収集から集約にいたるプロセスにおいてマネージャーが果たすべき役割を再検討している。マネージャーの仕事は、主に批判的なことを伝えることなのだろうか?それとも重要な価値や洞察を与えることなのだろうか?
マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーであるブライアン・ハンコック(Bryan Hancock)氏は、業績管理に関する最近のウェビナーで次のように述べている。「業績管理の役割をもう一度マネージャーに担わせることが成功の鍵であることはわかっている。そうすることで、従業員のエンゲージメントがきわめて高い、世界最高の業績管理のシステムを構築できる。しかし、重要な局面でマネージャーが責任を取らないのであれば、それは問題だ。」同氏がこのような発言をしたのは、特にNetflix、Google、Amazonなどのデジタルイノベーターが、高度な分析的評価を個別対応させることに成功しているからだ。
業績評価の最終判断は人間か、機械か
平均的なマネージャーに従業員を建設的に批判する役割を担わせるのが最善の策かどうかは、まだ答えが出ていない新しく、重要な問題である。私たちが最近実施した予備調査では、AIへの投資やAIのイノベーションを進めることで、矛盾した状況が発生することがわかった。AIの導入は、従来の人事や人材管理に大きな影響を及ぼすのである。
この調査で明らかになったのは、AIやデータによる業績評価は、マネージャーの直接的な関与によって補完されたり変更されたりしているということだ。多くの組織では、従業員の業績について人間と機械のどちらが最終的な判断を下すかを明確に決める必要があることに気づき始めている。評価方法の決定は、組織の変革にも文化の変革にも関係する。しかし、分析的なデータとマネージャーの関与のバランスをうまく取ることは難しい。業績評価は最終的に誰が決定すべきなのだろうか?
マネージャーのエンゲージメントとAIによる効率化
このような業績管理の課題に対応した優れた事例として、IBMのデジタル化の取り組みが挙げられる。同社の人事部門では、たとえばマネージャーが従業員のエンゲージメントと成果にどのような影響を与えているかを明確に追跡している。
IBMで最高人事責任者兼シニアバイスプレジデントを務めるダイアン・ガーソン(Diane Gherson)氏は次のように述べている。「マネージャーの役割は急速にデジタル化が進む組織文化においても非常に重要だ。マネージャーが積極的な姿勢やエンゲージメントを示さないと、部下のエンゲージメントが低くなる可能性が約3倍高くなる。マネージャーは戦略を完全に理解し、エンゲージメントを十分に示す必要がある。」
一方で、ガーソン氏はAIに対する人事部門の加速度的な取り組みが、IBMの人材管理を劇的に変えたと強調する。「人事部門では数多くのAIを利用している」と彼女は言う。AI投資はマネージャーと従業員相互の関わり方を大きく変える。ソフトウェアのスマート化により、IBMの業績管理の経済的側面や期待は根本から変わった。デジタル化が進むと、多くの場合、マネージャーの直接的関与が少なくなる。
「AIの導入により、最も大きな影響が及ぶのは生産性である」とガーソン氏は言う。人事部門では、たとえば多くの人材をチャットボットに置き換えた。このチャットボットは、従業員に対するアドバイスを学習しながら、アドバイスがどれだけ役に立ったかを監視するために分析を行う。つまり、IBMでは評価に対する評価を受けているのである。
また、同社では同様のAIシステムを使い、競争力の高いスキルセットを持つ従業員について、離職の可能性に関する有益な情報や、適切な給与水準に関する提案を提供し、意思決定を支援している。AI導入のもう1つの目的は「従業員体験の向上」であるとガーソン氏は言う。AIシステムは、たとえばキャリア開発アドバイス、個人に合わせた学習プログラム、ブルー・マッチング(異動を希望する従業員と社内の空きポストをインテリジェントにマッチングするIBM独自のシステム)などで利用されている。
IBMの人事部門の事例からはっきりと分かるのは、マネージャーが重要であるのと同じく、デジタル化を通じて、スマートで優れた迅速かつ魅力的な人材管理サービスを低コストで提供することも重要であるということだ。個人に合わせた建設的な評価は、高額なコストをかけずに提供する必要がある。その一方で、ほとんどの組織は、コストの高い、人間(マネージャー)の関与も確かに求めている。
求められる業績管理システムの適切化
このような矛盾した感覚や期待は、決して珍しいものではない。米国ADP社でバイスプレジデント兼チーフ行動エコノミストを務めるジョーダン・バーンバウム(Jordan Birnbaum)氏は、マネージャーと従業員のエンパワーメントが業績管理システム設計の重要な要素になってきていると指摘する。同氏は次のように述べている。「業績管理を適切に設計すれば、マネージャーは自分の能力を何十倍も高める手段を確保でき、従業員は将来の成功に向けて能力を伸ばすことができる。」
バーンバウム氏によると、データ中心の客観的なアプローチを取ると、多くの場合、機械的で違和感のあるアドバイスを取り入れざるを得なくなることが問題であるという。バーンバウム氏は次のように述べている。
「評価データを適切に使用するには、データを適切な形にまとめなければならない。将来の業績向上のためにデータを使うなら、なおさらそうする必要がある。これは『チームワーク』や『サポート力』のように、簡単には測定できない評価や、データではとらえられない評価を行う場合も同じだ。しかし、適切なデータが容易に入手できないのであれば、マネージャーが評価に関与しなければならない。ただし、マネージャー本人がそう感じるかどうかはまた別の話だ。」
AIがマネージャーを超える日
ここに葛藤があるのは明らかだ。部下を明らかに前進させることができる、データがたたき出した「処方箋」がある場合、それに従うよう部下に求めることは、マネージャーに力を与えることになるのだろうか、それとも、マネージャーを無力化するのだろうか?そのようなアプローチは、マネージャーにも従業員にも混乱をもたらさないだろうか?マネージャーはたとえば、データに基づくアドバイスを無視したり大幅に変更したりする裁量を持っているのだろうか?マネージャーの直観と客観的なデータの対立はどのようにすれば解決できるのだろうか?多くのマネージャーは、状況に応じた適切な分析的アドバイスを提供できることを歓迎するだろう。しかし、アドバイスに従わなければならないのだとしたら、それは、もはやアドバイスではなく命令である。
バーンバウム氏によると、AIと機械学習の技術が進歩するにつれて、「処方箋」はより具体的で明確になってきているという。だとすると、次のような疑問が当然生じる。マネージャー(評価提供者)を介さずAIが従業員に直接アドバイスを与えたほうが合理的、かつコストダウンになるのは、これらの技術がどの段階に達したときだろうか?
【筆者について】
マイケル・シュレージ(Michael Schrage)氏は、MITスローン経営大学院におけるデジタル経済の研究者で、デジタルメディアがいかに組織、人的資源、イノベーションに変革をもたらすかについてコンサルティングと研究を行っている。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Does AI-Flavored Feedback Require a Human Touch?
(2019年4月19日に『MITスローン・マネジメント・レビュー』に掲載された記事の翻訳。同機関の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Used with permission from MIT Sloan Management Review. All rights reserved.
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