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学習しないリーダーの「スキルギャップ」がもたらす悪影響

【原文】The Downstream Damage of the Leadership Skills Gap
学習しないリーダーの「スキルギャップ」がもたらす悪影響
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リーダーが管理職としての自分自身の成長に真剣に取り組めるようになるまで、組織全体のスキルギャップ*は広がり続ける。

*社員の「所有スキル」が企業が求める「必要スキル」に達していないこと。

管理職のマネジメントスキル不足は世界経済のリスク要因

マネジメントスキルの高い管理職を見つけること。

これは多くの企業が抱えている重要な課題だ。この課題は、組織の下層まで悪影響を及ぼすだけでなく、世界経済にも打撃を与えている。

労働市場分析を手掛けるバーニング・グラス・テクノロジー社の分析によると、マネジメントスキルは「労働市場における最大のスキルギャップの1つ」であり、管理される側の従業員よりも管理職の方が大きなスキルギャップを抱えている。

生産性は経営手腕に依存する?

イングランド銀行のチーフエコノミストは、英国の生産性が伸び悩んでいる主な原因は質の低い経営にあると主張している。

国際成長センター (International Growth Centre)の研究によると、「多くの国で生産性と発展が低水準にとどまっている重要な要因として、経営手腕の問題が考えられる」という。その主な理由は、管理職候補は効果的なリーダーシップを発揮するために必要なスキルを身に着ける前に管理職に昇進することが多いからである。

組織行動に関するピーターの法則では「従業員は無能になるまで出世する」(出世のペースにスキルアップのペースが追いつかない)としている。実際、これが真実であることを示す証拠もある。

管理者の学ぶ意欲の欠如は部下に連鎖する

では、企業が毎年、数十億ドルもの費用をリーダーシップ開発につぎ込んでいるのは、何のためなのだろうか。管理職は多忙なスケジュールの合間を縫い、多くの時間を費やして教室に通ったり在宅ビジネス・スクールに出席したりしている。

しかし、こうした努力は実を結ばないことが多い

残念ながら、管理職は能力開発の必要性に気付かないことが多い。ギャラップの調査によると、「ほとんどの管理職は自分の仕事がうまくいっていると信じており、変化の必要性を感じていない」という。

これが原因となり、組織の下層でさらなる問題が発生する。管理職が新しいスキルの習得を重視していない場合、その部下も新しいスキルを習得することが少なくなる。

社員全員が学習できる環境に

フィルタード(Filtered)社の共同創設者として、私は6年以上にわたり企業と協力してこのような問題に取り組んできた。その中で繰り返し経験したことがある。

それは、部長、課長などの部下を持つ管理職から一般社員にいたるまで、全員に対して学習を奨励し、しかも参加させない限り、従業員は気兼ねなく学習に取り組めないということだ。つまり、経営幹部が学習や能力開発を奨励しても、単なるリップサービスととらえられてしまう。

リーダーが管理職としての自分自身の成長に真剣に取り組めるようになるまで、組織全体のスキルギャップは広がり続ける。

経営幹部が学習に価値をおいているかどうかがカギ

この問題を解決するには、経営幹部の行動が必要だ。経営幹部は「一般社員だけでなく、管理職もスキル開発にしっかりと時間と労力をつぎ込んでほしい」というメッセージを明確に伝える必要がある。

一部の有名企業では、学習に重点を置くことが既に経営幹部の優先課題となっている。

マイクロソフトの最高経営責任者(CEO)であるサティア・ナデラ(Satya Nadella)氏は、「私たちは知識が豊富な組織ではなく、学習し続ける組織になる必要がある」とチームメンバーに力説した。

アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏は、株主に宛てた最新の年次書簡の中で、仕事上の高水準を保つことの重要性とそのことは学習できることを強調した。

AT&TのCEO、ランドール・スティーブンソン(Randall Stephenson)氏は、週5~10時間の学習を社員に求めていると発言している。

すべての企業は、全レベルの従業員が自分の能力を開発できるように、上記の企業が実践したような明確で具体的な熱意を持つべきである。自分と自分のチームがどれだけうまく新しいスキルを開発できているか、そのことも、評価基準の一つであることに、管理職は意識を向ける必要がある。

フィードバックでスキルギャップを見つけだす

管理職としてのスキルギャップを知るには、上司、同僚、部下など、一緒に仕事をしている人たちから率直かつ正直なフィードバックを求めるとよい。ロンドン・ビジネス・スクールのジュリアン・バーキンショー(Julian Birkinshaw)氏は、「(推薦の機会があるとしたら)あなたは私を推薦しますか」と従業員に尋ねるよう管理職に勧めている

360度評価は実際に、建設的で率直なフィードバックを得るのに役立つ方法である。

また、スキルギャップの特定に便利なテクノロジーもある。

私がスキル開発におけるアルゴリズムの利用を推進しようとしている理由の1つは、管理職が最も注力する必要がある分野を特定し、有用な学習コンテンツを推薦するのに役立つからである。また、アルゴリズムは進捗と学習状況を追跡し、各スキルの特徴に基づき、他の学習コンテンツのお勧めを調整することもできる。

AIの能力は多くの面でまだ評価中かもしれないが、商品のお薦め機能(レコメンドエンジン)として有効であることに関しては、はるか昔に証明されている

1週間の労働時間を分析する

管理職は、自分や部下が実際に仕事に費やしている時間を把握する必要もある。

マッキンゼーによると、平均的な知識労働者(管理職を含む)は労働時間の28%を電子メールに、19%を情報収集に、14%を社内でのコミュニケーションやコラボレーションに費やしている。これはつまり、労働時間の61%が比較的限られた種類の活動に費やされているということだ。

どのスキルを開発したり、向上させたりするかを検討する際には、「自分と自分のチームに大きな効果をもたらすスキルに焦点を当てる」ことで、投資から最大限の効果を引き出し、そのスキルを上達させることができる。

管理職は、組織文化のかなめであり、成功のために必要なものをすべて与えられるべきである。さらに大きなビジネス変革の時代が迫る中、組織を率いるスキルを開発する機会を管理職に与えているかどうか、もう一度確認してみよう。

筆者について

マーク・ザオ・サンダース(Marc Zao-Sanders)は、AIをスキルと教育の生産性の向上に使用する教育工学(エドテック、EdTech)会社であるFiltered社のCEOおよび共同設立者。 

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】The Downstream Damage of the Leadership Skills Gap
(2019年8月28日に『MITスローン・マネジメント・レビュー』に掲載された記事の翻訳。同機関の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Used with permission from MIT Sloan Management Review. All rights reserved.


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