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自律したチームのリーダーになったら?覚えておきたい3つの役割 (前編)
2020年02月06日
ある調査インタビューで、MIT情報システム研究センター(Center for Information Systems Research:CISR)に所属するマーティン・モッカー(Martin Mocker)氏と私は、大企業40社の技術スタッフに対して「自分は会社にどのような影響を与えていると思うか」と尋ねたことがある。残念なことに、多くの人は「自分は何の影響も与えていないと思う」と答えた。社員たちはやるべきことをやっていたが、自分の努力が会社の成功にどうつながっているのかは知らなかった。
何というリソースの無駄だろうか!機会損失もいいところである。同じような状況が、多くの企業で起きているのではないかと思う。私たちが実施したデジタル変革に関する調査によると、人材の採用、監督、人材開発はこれまで以上に重要になりつつあるが、同時にますます困難にもなっているという。
従来、多くのリーダーの役割には、メンバーの業務を明確化することだけでなく、その業務を完了するための細かいプロセスを決めることまで含まれていた。最も優秀な人物は昇進し、ほぼ指示された仕事をしている社員たちには、彼らのノウハウを引き継いできた。今日では、手順が決まっている業務は、たいていは自動化されている。そのため、反復的な業務を行う従業員が減り、サービスのパーソナライズや製品の革新、問題の創造的な解決に従事する従業員が増えている。
このような環境で個人の貢献を最大化するために、リーダーにはまったく異なるマネジメント手法が必要である。つまり、従来のように、業務とその成果がより細かく定められるような手法とは異なるものが必要なのである。企業が近年信頼しているのは、裁量権を与えられたチームである。そのようなチームでは、さまざまなスキルと経験を持つ人々が力を合わせ、顧客や組織の問題を解決し、新しい機会に取り組んでいる。
劇的に変化するリーダーの役割
裁量権を与えられたメンバーで構成された「自律したチーム」を指揮するには、新しいマネジメント手法が必要だ。CISRの研究では、次の3つのリーダーの役割が劇的に変化していることを発見した。
- 業務を規定することから、ミッションを策定することへの変化
- 意思決定をすることから、意思決定を加速していくことへの変化
- リソースの配分から、障害の排除への変化
これらの変化により、リーダーは働き方や自己認識を改めなければならなくなるだろう。リーダーに求められるのは、社内でいちばん優秀であることではない。求められるのは、むしろ他の人々が活躍できる方法を作り上げることである。
ミッションをチームで自律的に策定する
リーダーの役割は、業務を規定することから、組織内で方向性を定めることに変化した。そのためには、チームの自律性とチーム間の連携を両立できるように、各チームのミッションを明確に定める必要がある。
リーダーの仕事には、複雑な問題の解決や新たなビジネスチャンスへの対応が含まれている。そのため、通常、裁量権を与えられたチームに期待される成果(特に中間的な成果)を測定し評価するのは難しい。しかし、だからといって評価や測定が重要でなくなるわけではない。チームは会社の共通目標の達成に向けて自律的に業務を行っているため、進捗状況を継続的に評価することが欠かせない。それは、価値のない一見「クールな」だけのアイディアを追い求めることを抑制することにもなる。
リーダーは、自分がチームに期待することを明確に示したいと思うかもしれないが、そうすることでチームの創造性を殺してしまうおそれがある。この創造性こそ裁量権を与えられたチームが発揮すべき分野である。これを解決する方法は、チームに成果に対するアカウンタビリティを持たせる一方で、「達成すべきことや達成できることを最も適切に定めることができるのはチーム自身である」と認めることである。チームを監督するリーダーの重要な役割は、明確なミッションを与え、各チームが成果指標を設定できるようにすることだ。
グループ間で目標と成果指標を共有している事例
ここで、米国最大の中古車販売業者であるカーマックス(CarMax)の例を紹介しよう。2018年にカーマックスの経営幹部と話をしたところ、同社では、製品の構成要素の構築と維持に関するアカウンタビリティを、7~9人で構成される25以上のチームに割り当てているという。これらのチームが、カーマックスが扱う製品(オンライン融資、検索エンジンの最適化、デジタル・マーチャンダイジング[オンラインの価格や販売形態を決定するマーケティング戦略]、オンラインツールサービスなど)のライフサイクルを担当する。各製品チームが属するグループによって、重点を置いているカスタマージャーニーのステージ(車の検索、購入、売却など)はそれぞれ異なる。
カーマックスでは、ミッションを明確化し、チームとリーダーの両方が成果を追跡できるように、目標と成果指標(Objectives and Key Results:OKR)を使用している。たとえば、デジタル・マーチャンダイジングを担当する製品チームが、クリック率(CTR)を2%増加させるためにOKRを設定したとする。すると、各チームは自分のチームのOKRを2週間で達成することを目標に設定する。そして、グループ内で顧客のOKRの結果を共有する。このようにOKRを使うことで、各製品チームは、カスタマー・エクスペリエンスに関する会社の目標を軸に、連携を図ることができるのである。
チームのミッションを定めるのは難しい仕事だ。チームは、自分たちの目標を自律的に追求することができれば、最高のパフォーマンスを発揮する。しかし、企業目標は共同で達成しなければならないため、チームは必然的に相互依存的になる。そこで経営幹部は、相互依存を最小限に抑えるために、チーム自身が進んでミッションの微調整や明確化をすることを望むようになるだろう。
<後編へ>
筆者について
ジェーン・ロス(Jeanne Ross)氏はMIT情報システム研究センター(MIT’s Center for Information Systems Research (@mit_cisr)の首席研究員。共著に Designed for Digital: How to Architect Your Business for Sustained Success (MIT Press, 2019) がある
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】How to Succeed Without Being the Smartest Person in the Room
(2020年1月6日に『MITスローン・マネジメント・レビュー』に掲載された記事の翻訳。同機関の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Used with permission from MIT Sloan Management Review. All rights reserved.
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