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あなたがスマホを見ていることで、見落としているもの
2020年02月25日
先日のことである。クライアントのオフィスのエレベーターを降りてエグゼクティブフロアに入ると、クライアントが机の前に座り外を見つめている様子がドアの小窓ごしに見えた。CEOである彼は多忙な人であるため、私はそのとき妙だと思ったが、ミーティングではその件には触れないことにした。しかし、数週間後、休憩室でコーヒーを飲みながら休んでいる彼に偶然会ったとき、また同じような様子をしていた。普段、彼はいつも複数のことを同時に行っていて、コーヒーカップにクリームを注いでいる間にスマートフォンをチェックしたり、廊下を歩いている間にBluetoothで通話をしたりしていた。一体どうしたのだろうか?
次のミーティングのときに、最初に私はこの件について話題にした。自分が見たことを伝え、「大丈夫ですか」と聞いた。すると彼は、「絶好調ですよ。下を向いて仕事に没頭しているのが嫌になっただけです」と笑って話した。彼はデジタルデバイスへの依存から自由になり、「今」にもっと意識を向けることに決めたのだった。
そのことを試してから、彼には次のような変化が起きたという。私はこれを「ヘッズアップ・リーダーシップ(Heads up Leadership)」(パソコンやスマートフォンから頭を上げるリーダーシップ)と呼んでいる。
「ヘッズアップ・リーダーシップ」がもたらす変化
- 自分の会社で起きていることをもっとよく観察し、人々の声に耳を傾けるようになった。
- 自分のチームメンバーとのやり取りが増え、メンバーがリアルタイムで問題を解決できるようになった。
- メールや通知で送られてくるあらゆる情報やデータで、不安やストレスを感じることがなくなった。
- より広い視野で戦略的、創造的に考え、経験したことがない領域を関連付けられるようになった。
- 前よりも落ち着いて物事をコントロールできると思えるようになり、夜よく眠れるようになった。
彼の様子を想像してみてほしい。私たちは長い間、「知識は力である。データや事実をリアルタイムで把握することで、効率と効果が向上する」という前提のもと行動してきた。問題は、データの入手方法が過去20年間で大きく変化したにもかかわらず、私たちは物事の全体像をまとめるスキルを持っていないことだ。私たちは大量の情報にすぐにアクセスでき、具体的なデータに頼りがちであるが、そのようなデータはばらばらで互いに関連性がない。雑多なデータの海から抜け出し、情報を統合、整理し、本当の知見にたどり着くまでには時間がかかる。
リーダーが下を向いて仕事に没頭することの弊害
リーダーが下を向いて(Heads down)目の前の仕事にばかり没頭していると、さまざまな情報に振り回され、シナリオに固執したり、緊急の課題を中心に物事を進めてしまう。これは危険である。状況を完全に把握することなく意思決定が行われ、多額の出費が発生することもある。
その極端な例は、1999年、ロッキード・マーチン社がアメリカ航空宇宙局(NASA)のために建造した火星探査機が破壊された事件である。ロッキードの技術者たちがアメリカの長さの単位を使い、NASAのチームがメートル法を使ったことにより発生した単純な計算ミスによって、1億2,500万ドルの探査機に不具合が生じ、探査機が破壊された。ミスが見つかる機会はたくさんあったにもかかわらず、計画はそのまま一気に進められ、手遅れになるまで誰も気づかなかった。
あなたのビジネスに欠けているものは何だろうか?それにはどれだけのコストがかかるだろうか?私たちの調査によると、ビジネスの成長と革新は、リーダーが「今」にしっかりと意識を向けているときに起きる。観察し、人々と関わり、質問し、話に耳を傾け、具体的なデータの背後に隠れている情報の流れに注意を払う。これらの行動は「時間があればやったほうがよい」というものではない。これらを実行することで、今まで見過ごしていたかもしれないビジネスチャンスをものにすることができるのである。
「ヘッズアップ・リーダーシップ」実践のための5つのポイント
次の5つの行動を行い、「ヘッズアップ・リーダーシップ」を実践してみよう。
- デジタルデバイスへの依存を減らし、他の情報収集方法を探す。
- 何もせずに、ただ考え、観察し、情報を処理し、アイディアを深く掘り下げる時間を確保する。
- 毎週のミーティングで、各種のトピックについて自由にディスカッションを行う時間を取る。「あなたはどう思うか」という質問をして、答えをよく聞く。
- 頭を上げて、目の前の人とアイコンタクトする。会話中に他の作業をするのをやめ、会話にしっかりと意識を向ける。
- 社内を歩き回り、活動や発言に注目し、質問をしてその理由を尋ねる。
日本流の「空気を読む」ことの効果
フランスのビジネススクール、インシアード(INSEAD)の教授であるエリン・メイヤー(Erin Myer)氏は、著書『The Culture Map』(『邦題:異文化理解力』)の中で、ビジネス上のやり取りに影響を与える世界各国の文化的慣習について説明している。同氏は日本における「空気を読む」という規範を、コミュニケーションのニュアンスや重層的な情報をとらえる手段であると説明し、これを「ハイコンテキスト」なコミュニケーションと呼んでいる。多忙なリーダーにとって、オンラインの情報に埋もれている状況で空気を読むことは難しい。しかし、これはビジネス上の意思決定を正しく行い、健康的な眠りを得るのに役立つ重要な方法である。
筆者について
サラ・ウッズ( Sarah Woods)氏は米国ベイツ(Bates)社において、コーチング/コンサルティング部門のリーダーを務める。講演活動の他、米主要紙への寄稿も多数。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】The Surprising Advantages of Practicing “Heads Up Leadership”
(2019年12月3日にBatesのResearch and Resourcesに掲載された記事の翻訳。Bates Communications Inc.の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Article translated with permission of (C) Bates Communications 2020
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