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多くのリーダーが見落としているエモーショナル・インテリジェンス(EI)とは
2020年08月04日
リーダーの感情や態度がチームに与える影響
世界的な小売企業で、営業部門のエグゼクティブを務めるチャックは、普段は冷静で理性的な人物である。しかし、彼はストレスの高い状況下では、部下のミスや予想外のことに対して怒りを表すことがあり、それが彼のキャリアアップを妨げているというフィードバックを受けた。さらに、彼より上層部の人達は、彼のプレゼンテーションがあまりにも「雑で洗練されていないもの」であり、戦略的なものではないと感じていた。このことは、彼が今より高いレベルへ上がる後継者計画には、含まれていないことを意味していた。
チャックの行動はグループ内で多くの問題を引き起こしていた。彼が予測不可能な行動をとるため、チームメンバーは彼とやりとりする前に解決策を見つけたいと思っていた。そのため、すぐに彼に問題を知らせることを躊躇していた。
彼が問題を発見した時には、その問題の解決ははるかに困難になっていた。そのため、より大きなサプライチェーンの問題や、チャックがもっと早く問題に対処していれば避けられたであろう下流の収益結果が発生していた。
リーダーシップに必要な3つの資質
チャックのようなリーダーを、あなたはすでに何人か知っているかもしれない。残念ながら、このようなフィードバックは往々にしてよくあることである。実際、ベイツのExPI™という方法を使って、何千人ものエグゼクティブに対してリーダーシップ評価を実施し収集したデータによると、リーダーに欠けている4つのリーダーシップの資質のうちの3つが以下のようなものであることがわかった。
- 抑制力
- 冷静さ
- 共鳴力
抑制力とは、リーダーらしい気質と予測する力を指す。冷静さは、リーダーが危機的状況をいかにうまく処理するかという能力である。また、共鳴力は、リーダーがいかに他人と繋がり、他人が何を考え、何を感じているかに気づけるよう意識する力である。
リーダーシップのこれら3つの資質は、エモーショナル・インテリジェンス(感情知能、以下EI)と深いつながりがある。EIとは、自分の感情に気づき、自分自身の反応をコントロールし、また、他者の感情に気づき、それに適切に対応する能力である。これらはまさに、冷静さを保ち、危機的状況から抜けだし、他人の感情に向き合うことができる私たちの能力を示唆しているのである。
なぜリーダーはEIを発揮することに苦労するのか?
多くのリーダーは、EIを持っていないというわけではない。しかし、多くの場合、EIを持つことを妨げるような以下の習慣があるため、EIを発揮できないでいることが多い。
- 行動バイアスが強すぎる
リーダーが上級レベルの役職までのぼりつめることができたのは、「行動力」、つまり、迅速に意思決定し、スピード感を持って行動し、戦術的な質問に効率的に対応する能力があったからである。そのため、じっくりと考えることや行動を一時停止することが必要な状況でも、これらのリーダーは、一旦立ち止まり、減速し、考え、それからまた行動するという方法を練習してきていないのである。そのため、彼らが感情的になっていると、思慮深さが求められるような状況では、チームメンバーはリーダーに近づくことを躊躇してしまうのである。 - 反応的に行動する
リーダーの核となる価値観や大切にしている信念が脅かされると、即座に反応してしまう可能性がある。例えば、「完全さ」を非常に大事にしているリーダーは、チームメンバーが悪い判断をしそうなときに、それが他のリーダーにとっては良い判断の範疇であっても、すぐに過剰反応してしまうことがある。あるいは、同僚がある期日までに情報を届ける約束を果たさない場合、このタイプのリーダーはそのことにすぐ怒りの反応を示す傾向がある。
例えばチャックを例にあげてみよう。以前の役割では、彼は顧客が何を求めているかについて迅速な判断を下し、それが顧客の購買決定につながった。サプライヤーの問題に直面したときは、彼は迅速に方向転換し、問題を解決することができた。彼は、適切な店舗で適切な商品を手に入れるためには、どこに行けばよいかを正確に知っている男として知られていた。一人のチームに貢献する人物として、すばらしい資質を備えていた。そして、間違いなく、階層の低いリーダーとしてはそれは素晴らしい資質である。
しかし、エグゼクティブ・リーダーの役割としては、これらの資質は決して素晴らしいものとはいえない。彼は、組織全体が追いつけないほど迅速に行動していた。そして、彼はとても怒りっぽい性質であったため、チームメンバーは問題が起こっていることを彼に知らせなかったのである。
アフリカの諺に「早く行きたければ一人で行け。遠くへ行きたければ一緒に行け」というものがある。私たちが一緒に仕事をしているリーダーの多くにこのことは当てはまる。行動バイアスが前面に出ているときは、彼らは独りで行動していることが多い。そして、バックミラーで確認してみると、チームが低迷していることがわかる。
一方で、リーダーがペースを落としたときには、チームが自分たちのビジョンに賛同し、チームを結集させることができる。リーダーはチーム内にエンゲージメントと相乗効果を生み出し、それが真のビジネス成果に繋がるのである。
あなたには何ができるか?
チャックの話があなたの周りの環境にもあてはまる、もしくは、あなた自身が何かの打開策を考えたいと思うような自分自身の反応を自覚しているのであれば、あなたのマインドフルネスの基盤を構築することが、打開策のひとつとなるかもしれない。マインドフルネスを意識する、または私たちが自身の感情に気づき、刺激と反応の間に一呼吸おく行為は、EIを目覚めさせることになる。また、抑制力、冷静さ、共鳴力の資質を強化することにつながるのである。
ここでの課題は、習慣的な反応に気づき、一旦立ち止まり、代わりに違う反応を選ぶことである。これは言葉で言うほど簡単なことではない。しかし、一度新しい反応を選択し始め、時間をかけてそれを持続していくと、私たちは新しい習慣をしっかりと身につけ、より高いレベルのEIを発揮できるようになる。
リーダーシップにマインドフルネスを取り入れる方法
では、マインドフルネスの基盤を作るために、すぐに始められる簡単なことをいくつか紹介しよう。
- 自分のスピードを確かめて、他の人がついて来られるようにスピードを落とす。
- 人とのつながりを大切にするために、また、相手が言葉にしていないことにも気づけるように、集中を妨げることを最小限に抑える。
- 反応的に行動してしまう時のことを意識し、そのことに反応する前に深呼吸をする。
- 人に対して、反応的に、または型どおりの反応で応答するのではなく、相手に好奇心を持って相手の視点や考えを尋ねる質問をする。
- 何が反応を引き起こす引き金になるかを予想し、今までとは違うどのような対応をするかを事前に決めることで、難しい会議や会話の準備をする。
- 事態がヒートアップした場合は、オフラインで話したり、会議終了後や、もっと多くの情報が集まったタイミングで議論することを提案することで、その話題を先延ばしにする。
大事なことは、あなた自身が組織の環境を作り、あなたの振る舞いがあなたのチームの雰囲気に決めるということである。あなたは慌ただしく混沌とした環境を助長したいだろうか、それともアイディアにあふれ、革新的な組織を育てたいだろうか?
立ち止まる時間など、どこにもないと感じることはよくある。しかし、何千人ものリーダーと仕事をしてきた経験から言えることは、パワフルで効果的なリーダーシップは「立ち止まること」と「思慮深い対応」の両方に存在するということである。
「立ち止まること」については、この記事をご参照ください。
筆者について
ジャクリーン・ブロドニツキ(Jacqueline Brodnitzki)氏は、Leadership Coachingのディレクターとして、経営層を対象に事業展開の加速化をサポートしている。前職はエグゼクティブ・コーチングとコンサルタントを提供する Conscious Successの代表取締役。『Conscious Success: The 5 Step Process To Dissolve Stress, Increase Productivity and Find Your Flow At Work』の著者。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Drop Those Bad Leadership Habits: Unlocking the Key to EI
(2020年2月21日にBatesのResearch and Resourcesに掲載された記事の翻訳。Bates Communications Inc.の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Article translated with permission of © Bates Communications 2020
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