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コーチング・カンファレンス・レポート -『ワークプレイスにおけるコーチング』Coaching in the Workplace
2020年09月08日
世界を代表する二つのコーチング機関、英国コーチング協会(Association for Coaching: AC)と米国コーチング研究所(Institute of Coaching: IOC)による初の共同オンライン・カンファレンスが、2020年6月に開催されました。カンファレンスは、『ワークプレイスにおけるコーチング』と題し、世界中のトップクラスのエグゼクティブ・コーチやビジネス・リーダー、リーダーシップに関するエキスパートらによる約30のレクチャーが、オンデマンドの動画で提供されました。
今回は、その中から厳選した2つのレクチャーのエッセンスをご紹介します。
1.コーチング・カルチャーを構築するためのシステミック・アプローチ
A Systemic Approach to Building Coaching Cultures
スピーカー:ポール・ローレンス博士
ローレンス博士は、心理学の博士号を修得しているコーチ、研究者、そしてシドニーの大学でコーチングを教える講師でもあります。また、コーチングやチーム運営などに関する多くの学術記事や書籍を執筆しており、その多くがIOCリソースの中で紹介されています。
コーチング・カルチャーを構築することは、文化を変えること
まず、組織の変化はどのような仕組みで起こるのかという問いが投げかけられました。その説明として、「リーダーシップの変化を考える際の5つの仕組み/システム」を紹介しました。
リーダーシップの変化を考える際の5つのシステム
- 一次段階(直線的な考え方)
組織をシンプルな機械とみなして、リーダーは組織の外に立ってルール決める。リーダーは「コントロール」する役割。原因と結果が明確で、コーチングもトップダウンのアプローチ。 - 一次段階(非直線的な考え方)
直線的な考え方より原因と結果がやや複雑になる。たとえば、工場で欠員が出る、機械が壊れるなどといった状況への対応が求められ、1+1=2にはならない。コーチングを行う際には、何が起こっているのか、どんな原因があるのかを、よく見なければいけない。 - 二次段階
人は非常に主観的なレンズで物事を捉えている。たとえば、カエルは動いている虫しか食べないように、人は見たいものしか見えない。しかも、人によってそれぞれ多様な見方をしている。その場合のコーチングは「今、我々のカルチャーはどのようなものなのか?」「コーチングに対する他の人の見方は?」「どのようにコーチングを定義するか?」を問うものとなる。 - 複雑な状態
組織のいろいろなところで人の交流や相互作用が起きていて、カオスな状態。変化はいつも起きていて、それはコントロール不能である。リーダーは組織を「コントロール」するのではなく、組織は複雑なものとしてとらえ「インパクト/影響」を与えることを考えることが重要。現場の話を注意深く聞くこと。これらが複雑なレンズを通して組織を見るということ。 - メタ
講師の判断により割愛。
複雑な状態に対応する7つのアプローチ
上記の「複雑な状態」では、たとえば工場の従業員同士、会社の営業担当同士など、職場でさまざまな会話が起こっていることを想定しています。それ自体はコントロールできないことであり、いわば合成の誤謬のような状態になっているといえます。そこでは、以下のことを意識する必要があります。
- 組織の戦略を理解し、戦略とコーチングのリンクが必要。
- 異なるレイヤーの人たちが「今何が起こっているのか」について話をすることが有意義な体験になる。
- 「コーチングとは何か」について、多様な階層の人達がエンゲージして共創する必要がある
- 信頼・安全性をつくるために、学習は小規模グループで行う。
- トレーニングとトレーニングの振り返りに多くの時間をかける。
- 1つのプログラムは定期的な振り返りをしながら、10-12か月かけて行う。
- 徹底したエバリュエーション、そして、その対策をする。
重要なポイント
ローレンス博士のレクチャー全体を通して重要なポイントは以下のとおりです。
- 人や組織はリニア(直線的:1+1=2)ではなく、複雑な関係性から構成されているので、「コントロールすること」は不可能に近い。
- 組織は生き物であり、常に「変化」している。
- 私たちは多様性の中に生きており、捉え方は人それぞれ。そのため、対話する必要がある。特に現場のメンバーを含めた複数レイヤーでの対話が重要。
- コーチング・カルチャーを構築するためのスタンスは「リーダーがどのような影響を与えているのか」を意識するということ。
- コーチング・カルチャーを構築する活動は、継続的に行われる必要があり、終わりはない。
2.リーダーシップ・アジリティにおいて重要な6つの要素
The Six Key Dimensions of Leadership Agility For Today’s Workplace
スピーカー:ジェフリー・ハル博士
ハル博士は、IOCの教育・ビジネス開発部門のダイレクターを務めており、作家、教育者、コンサルタントとして20年以上活動している他、エグゼクティブ・コーチとして、グローバル企業の経営幹部に対してサービスを提供しています。経営者であるとともに、ニューヨーク大学においてリーダーシップ論の非常勤教授も務めています。
リーダーシップの在り方の変化
まず、リーダーシップの在り方はここ20年で大きく変化しました。1970年代以前、リーダーはヒーロー的な存在であり、家族があり、権力がある人がリーダーでした。
これはどんな歴史的な出来事をふりかえってもそうだったと言えます。
しかし、そんなリーダーシップの在り方は変化を必要とされてきました。今日では、サーバント型や、役割としてのリーダーや、変化を恐れない、変化適応力のあるリーダーが求められています。また、リーダー各個人の能力よりも、いかに周囲との関係性をうまく築けるか、またチームとしての在り方の方がより、注目を浴びるようになりました。
そんな変化がある中で、これからのリーダーに必要な要素として、以下があげられます。
- ナラティブ
- 組織のヒエラルキーを越えたネットワーク
- コラボレーション
- 多様性を包括するチーム
- 多面的に物事を捉えること
- 変化適応力
しかし、大企業ではまだまだこれは浸透しておらず、「昔ながらのスタイル」つまり、トップダウンやヒエラルキーがまかり通っており、またそのような組織を作りがちなリーダーが多い現状があります。
リーダーシップのキーとなる6つの要素
これからのリーダーシップのキーとなる要素として以下の6つが紹介されました。
- 柔軟性(Flexible)
- 国際性(International)
- 感情面への理解(Emotional)
- 本物(Real)
- 協力的(Collaborative)
- エンゲージ(Engaged)
この6つの要素は、2つずつのグループにくくると、精神的なもの、感情的なもの、そして身体的なもの(外に表れるもの)に分けられます。この6つの要素を軸に、リーダーとしての行動を見直していく、そして変化させていくことが必要です。
また、「昔ながら」のリーダーシップスタイルをA(アルファ)スタイル、「現代」のリーダーシップスタイルをB(ベータ)スタイルとし、以下のようないくつかの行動例が示されました。
A(アルファ)スタイル
- 生産性が高ければよかった。
- 優秀過ぎて話しかけられない。
- 「私」が主語。
- 決断が速い。
B(ベータ)スタイル
- 創造性やクリエイティビティが高い。
- 話しやすい雰囲気。
- 意見を求める。
- モチベーションを高めるイノベーション。
伝えたいことは、AスタイルからBスタイルに一気に変える必要はないということです。場面によって使い分けすることが出来る、また周囲からFBをもらい、それについて対話することが重要です。
コーチとして大切な要素
そして我々コーチは何を意識すればよいのか。そもそもこれからのリーダーは、「自分はどんなリーダーなのか」という自己認識と、習慣化した行動を、場面によっては変化させ、使い分ける能力と、自分の強みを認識し、活かし、伸ばしていくことがとても大切になります。そこに向けて、私たちコーチは、モチベーションが上がるゴールの設定、成長の源を見つけること、相手に対する探求をやめないこと、そしてFBと成果を認め、それを伝えるアクノレッジメントが大切です。
リーダーシップスタイルの在り方が大きく変化した今、リーダーと私たちに求められることも大きく変化したと言えるでしょう、とハル博士は締めくくりました。
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