Global Coaching Watch

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私たちは同じ言葉で話しているはずなのに

【原文】We speak the same language… don't we?
私たちは同じ言葉で話しているはずなのに
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コーチングをしていて、クライアントが奇妙な顔つきで見返してきたり、「もう一度質問してほしい」と言ったりするのを不思議に思ったことはないだろうか。私はメンターとして多くのコーチングの録音を聞いているが、二人が使っている「言葉」が必ずしも同期していないことに気づくことがよくある。 今回の記事では、コーチとしての言葉の使い方と、コーチとクライアントとの間で「コーチングの言葉」がどのようなつまづきの要因になっているのかを考察してみたい。

コミュニケーションをとるさまざまな理由

書き言葉や話し言葉は、さまざまな理由で使われる。その主な用途は、情報を提供したり、表現したり、また時には何かを指示したりするためだ(コーチが指示することはほとんどないが)。私たちは、理由を述べたり、アイデアを表現したり、主張をしたり、指示を出したりするために言葉を使う。

人間には、コミュニケーションのためのユニークで多様な方法が備わっているが、その大部分は、お互いに永続的な絆を築くためのものである。コーチングで使う表現で言えば、人間関係において「信頼と安全を育む(ICF コア・コンピテンシー4 ※1)」ために役立つものであることが多い。

コーチングの型と言葉

初めてコーチングを学んだときを思い出してみてほしい。私たちは、まずコーチングの対話に役立つ一連の型(コーチング・カンバセーション・モデル)を学ぶ。 コーチとしてまだ未熟である時には、無意識的、意識的であるにかかわらず、コーチとしての安全を保障してくれるものとして、その型を握りしめている。時間が経つにつれ、意識的な能力へとレベルアップし、さらに無意識的な能力レベルに達すると、それを手放すことができ、コーチングの対話の中で型が使われているのを「はっきりと耳にする」ことはなくなる。

コーチングを次のレベルに引き上げようとしているコーチと一緒に仕事をしていて気がついたのは、「コーチングの型」が必ずしもそこにないとしても、コーチングの「言葉」がまだ残っていることが多いことだ。これにはどのような理由があるのだろうか?

コーチの成長に欠かせないPCCマーカーの言葉

私自身は、その原因のひとつはPCCマーカー(※2)に使われている言葉にあるのではないかと感じている。マーカーは、コーチとしての自分の行動や能力を理解し、レベルを測るための「言葉」を提供する素晴らしいツールだ。コーチングを前進させ、自分自身を成長させるために役立つ。しかし、PCCマーカーはコーチングの会話を作るための型や、クライアントやコーチに尋ねるべき問いをそのまま使ってデザインされたものではない。

コーチとしての成長過程の初期において、型が非常に厳格に使われることがあるように、コーチは、マーカーで使われている言葉を厳格に守って使う傾向がある。よくある例は、以下のコンピテンシーとそれに関連するPCCマーカーだ。

現行版(旧)コア・コンピテンシーモデルのPCCマーカーでは、次の項目である。

9.4 コーチは、クライアントが自責で取り組める最適な方法をクライアントが見いだせるように支援している

2019年に改訂された新しいコア・コンピテンシーモデルでは、次の項目だ。

8.2 コーチは、クライアントが新たな学びを促すための目標や行動、アカウンタビリティの測り方を、クライアントとともにデザインしている

コーチングの録音でよく耳にするのは、「その行動の責任をどのように自分に課すのですか?」という問いだ。普段の会話で、実際にそのような言い方をするのだろうかと疑問に感じる。明らかに文脈にもよるが、同じ内容のことを尋ねるにも、他にたくさんの選択肢がある。シンプルな言い方では、「どのようにしたらそれを確実に実行できますか?」だろう。そのような聞き方であれば、うまくいけば障壁やリソースの検討につながる。たとえば「何が邪魔になっているのか」「他に誰が必要なのか」「他にどんなサポートが必要なのか」といった問いかけだ。

マーカーやコンピテンシーの言葉が入り込んでいると感じるもう一つの重要な領域は、「合意の確立と維持(コア・コンピテンシー3)」の領域だ。現在のPCCマーカーでは、以下のような表現になっている。

2.3 コーチはセッションの中でクライアントが達成したいことについて、何がクライアントにとって大事であり、意味があるのかを聞いている

よくあるのは、「その結果についての何があなたにとって重要なのですか」という単純な質問だ。質問そのものに問題はないが、コンピテンシーマーカーの「探索」という言葉を反映しておらず、また多くの場合、それを質問するタイミングが早すぎる感がある。

これについて話題にするのであれば、次のような日常的な言葉が使えるとよい。たとえば、「今日のコーチングで、そのことを話したいのはなぜですか?」「あなたが導き出した答えで、ここから何ができるでしょうか?」など、もっと日常的な言葉を使った方が、より大きな洞察力と深みを呼び起こすことができるだろう。探索(Exploration)という言葉はまさに、複数の質問をすることを促している。

日常的な言葉を使うメリット

私はコーチ独特の言い回しを「コーチ・スピーク」(coach speak)と呼んでいるが、それを避けるために提案したいのは、PCCマーカーを手に取り、それぞれの項目について、平易でシンプルな言葉を使った質問やコメント、所感などを考えてみることだ。それをすることは、単にそうした質問やコメント所感などを使うにとどまらず、それぞれのマーカーの項目を、もっと日常的な言葉で表現できることの証明にもなる。

より日常的な言葉を使うことで、クライアントが達成したいと思っているトピックや期待する成果を表面的に捉えるのではなく、さらに深く掘り下げることで、問題ではなく人をコーチングすることができるようになる。より深いレベルのコーチングとなるのである。

クライアントの言葉を尊重する

クライアントの言葉や話し方はたくさんのことを教えてくれる贈り物であるにもかかわらず、コーチである私たちはしばしばそれを忘れてしまう。クライアントの言葉づかいは、クライアント自身にとって新たな洞察への扉となる。私たち人間は、比喩を多く用いて話す。クライアントの使う隠喩的な話し方や表現をコーチが使うことで、コーチとクライアントの関係はより親密になり、より大きな信頼と安全(ICF コア・コンピテンシー4)を得ることができる。

もし私たちがより創造的に、クライアントの言語と結びついていくことができれば、私たちの質問や観察、コメントはよりシンプルになり、もっと簡単に相手に届くようになる。正当化、前置き、繰り返しなどが必要でなくなるだろう。いったん立ち止まり、自分の頭の中で何が起こっているのかを静かに把握し、シンプルな一つの質問、コメント、または観察を考えることこそが、すばらしいアプローチと言える。前置きをする場合は、コーチが質問の内容を考えているだけかもしれないからだ。W.A.I.T. というすばらしい記憶術をつかって、「Why Am I Talking? 私はなぜ話しているのだろう?」自分に問いかけてみてもいいかもしれない。

要約すると、私たちがクライアントに「コーチの言葉」使って話し続けると、クライアントは私たちが何を言っているか、あるいは何を尋ねているか、本当には理解できない可能性があるということだ。クライアントの言葉を通じて、彼らのアイデンティティを尊重することで(ICF コア・コンピテンシー1.2)、クライアントと真のパートナーになろう。彼らにとって適切で、敬意のある言葉を使おう(ICF コア・コンピテンシー1.3)。自分のコーチとしてのマインドセットが、コア・コンピテンシー2にあるような、開放的で、好奇心をもち、柔軟性があり、クライアントを中心に据えた思考態度であるかを確認しよう。 創造的になって、言葉を見つけよう。そうすることで私たちは、クライアントと興味深く、多岐にわたり、刺激的な会話ができるようになる。それを通じてクライアントは、より大きな可能性、より深い洞察、より大きな成果を手にすることができるのだから。


【参考資料】
※国際コーチング連盟(ICF)によるコーチのコア・コンピテンシーおよびPCCマーカー

今日のコーチング専門職で使用されるスキルとアプローチについての理解を深めるために国際コーチング連盟(ICF)によって開発されたもの。PCCマーカーは、ICFの認定コーチ実技試験に使用される審査基準。コア・コンピテンシーは2019年に改訂されているが、現在の実技試験ではこれまでのものが使用されているため、現行版と改訂版の2種が公開されている。

現行版コア・コンピテンシー(ICFジャパンの翻訳による)
改訂版コア・コンピテンシー(ICFジャパンの翻訳による)
改訂版PCCマーカー(ICFジャパンの翻訳による)

【筆者について】
ヒラリー・オリバー(Hilary Oliver)
国際コーチング連盟マスター認定コーチ
ヒラリーは、国際コーチング連盟(ICF)のマスター認定コーチ(MCC)であり、コーチング・スーパーバイザーとメンター・コーチのトレーニングも受けている。ヒラリーは、コーチを育成し、マネージャーやリーダーのコーチング能力向上にも携わっている。また、国際的な企業のエグゼクティブおよび役員レベルへのコーチング、リーダーシップ開発のデザイナー、ファシリテーターとして、さまざまな組織で活躍している。また、組織がコーチング文化を発展させるための支援にも従事。英国ICFの会長、ICFグローバル・ボードの元議長も務めていた。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】We speak the same language... don't we?(2020年11月11日に Coach U Insights に掲載された記事の翻訳。許可を得て翻訳・掲載しています。)


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