Global Coaching Watch

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組織の成果を上げる新しい質問のスタイルとは?

【原文】Want to make an impact? Change your questioning habits
組織の成果を上げる新しい質問のスタイルとは?
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「質問は、人々の関心を集めることができます。これは、誰かの考え方や行動に影響を与えようとするときに最も重要な要素です。」これは、クリス・マッセルホワイト(Chris Musselwhite)氏とタミー・プルーフ(Tammie Plouffe)氏による10年前の『ハーバード・ビジネス・レビュー』の記事の結論だ。しかし、リーダーが適切な質問をすることによって、より大きな影響を与えることができるという考え方は、もっと古くからある。紀元前375年に、プラトンは子どもたちに質問の仕方や答え方を教えることの重要性を説いている。

その結果、特定の質問が他の質問よりも洞察に富んでいるというだけでなく、特定の人が、他の人よりも質問をする権利があるという2400年も続く信念の基礎が築かれた。

裁判所、学校、報道機関など社会の主要な機関では、弁護士、教師、ジャーナリストだけが質問をする権利があるという暗黙の了解がある。ビジネスシーンでは、この権利は主に企業のリーダーや人事部が享受してきた。リーダーが持つ権威のひとつは、その権威を疑われない(質問されない)ことだ。社員はアンケートや面接、コーチング・セッションなどで多くの質問を受けることはあっても、自分から積極的に質問する機会はほとんど無いに等しい。

これまでの常識では、「正しい質問をするリーダーは正しい答えを導き出し、正しい意思決定を下すことができる」とされてきた。私は20年間にわたり、質問の本質と影響について研究してきたが、この常識は誤りであるだけでなく、企業に損害を与える可能性があることが分かってきた。社員が自ら質問し、自分の役割を振り返る機会を奪うことは、彼らが洞察力を養い、行動に影響を与える範囲を狭めることに繋がる。

組織の中で内省や質問をする時間が少なければ少ないほど、何が重要であるかという点でお互いの意見が一致しなくなり、現状には影響を与えないことに忙殺されるリスクが高まる。質問は、権威や信頼を失墜させるものではなく、むしろそれらの質を高めていく上で役立つものだ。質問の真の力を発揮させるために、私は社員の生産性とエンゲージメントを高める4つの活用方法を特定した。

1. 全員を同時に、同じ問題に着目させる

リーダーが内省を意思決定プロセスの一部に組み込めば、全員が行動を振り返る時間は想像以上に増えてくる。たとえば、ある企業が新しい製品やプロセスを導入する場合、マネージャーは何がうまくいっていて、何が改善されなければならないかについて、社員の意見を集めたいと考えるだろう。社員が自分の考えやアイディアを共有することで、会社は戦略的な優先順位を迅速に決定することができるようになる。時間がない場合にも、戦略的整合性は最優先事項であるべきだ。

最近私は、コペンハーゲンのデンマーク王立防衛大学の高官から、リーダーもスタッフも予測不可能な脅威に直面している状況で、どのように質問を改善すればよいかアドバイスを求められた。迅速に行動する必要がある場合においても、このような危機的状況における彼らの標準的な手順には、リーダーと社員が取り得る行動について振り返るQ&Aセッションが含まれている。リーダーたちは、危機的な出来事がなぜ起こったのかではなく、危機的な状況下で人々がなぜその行動を取ることにしたのかという点に迫りたいと考えた。そこで彼らは、「どうしてこんなことが起こったのか?」と出来事そのものに焦点を当てるのではなく、質問を言い換えて、「何があなたにこの決断をさせたのか?」と問うという考えを示した。そのように質問を変換することは、事象に重点を置かず、自分自身の行動の背後にある意図について考えることを促したのである。

多くのビジネスリーダーとは違い、彼らは「何を聞けばいいのか」というような質問の項目について、私に尋ねては来なかった。その代わりに、部下がそうした危機に瀕したときにでも最も重要なことを共有しやすくなるような場をつくるための質問の仕方を、私に尋ねてきた。社員が正しい答えと正しい決断を導き出せるような正しい質問を探すのではなく、彼らが内省し、互いに学ぶための空間と時間があれば、誰もがより良い判断を下すことができると信じ、全員が同じ問題に、同時に集中できる場を作る方法を探していたのだ。

市場の変化、新技術、急成長する競合他社など、不確実性が高く、どこにでも脅威があり得る時代には、全員がその時点で最も重要なことについて合意していることが必要だ。そうすることで、誰もが最大限の力を発揮することができる。

2. 誰もが自分自身で考えた質問をするよういざなう

社員のエンゲージメント、リーダーシップのパフォーマンス、顧客満足度を測定するための方法には、正しい質問と間違った質問があるという固定観念がある。これが問題だ。私たちはアンケートやインタビューに慣れすぎていて、アンケートの設計者や人事コンサルタントが、どのような質問が最も重要であるかを知っているのかどうか、立ち止まって問い直すことはほとんどない。

デンマークのポンプメーカー、グルンドフォスの組織開発センター長であるテイヤ・サーリ(Teija Saari)氏は、「私たちの戦略はイノベーションの上に成り立っています」と言う。「このVUCA(volatile/不安定,uncertain/不確実,complex/複雑,ambiguous/曖昧)の世界で先駆的な製品やサービスを構築し提供する際に、すべての正しい質問と正しい答えを持つことができる人などいないことを私たちは知っています。ですから、私たちは常に学び続ける必要があります。そして、多様な人々が集まって共通のテーマに取り組み、好奇心を持って互いの視点を理解しようとするとき、新しい学びは起こるのです。」

グルンドフォスは最近、地域的なユニットからグローバルな顧客セグメントへの移行という大規模な組織再編を実施した。その再編は社員半数以上に影響が及ぶ大変革であったが、それを担当した再編担当チームはこの組織再編を成功させるための計画について意見を求めるための、リーダーへのインタビューは行わなかった。その代わり、「最初の100日間プラン」と称して、リーダー同士で質問し合うような場を設けて、何が彼らにとって重要なポイントであるかを考えてもらった。例えば、「移行期間中、経験豊富な社員をどのように従事させるか」「異なる営業チーム間で顧客アカウントを移動させる最善の方法は何か」といった質問だ。あるリーダーは、チームの心理的安全性を確保することが重要であると考え、あるリーダーは、顧客との関わりをより優先させることが重要であると考えた。

サーリ氏は、相手にインタビューをすることと、自ら質問できる場を設けることの違いを強調する。「インタビューやアンケートで答えたことは、答えた瞬間に消えてしまいますが、自分がどんな質問をしたいかを考えると、もっと深い内省となるのです。同僚から質問を受けたときも同じです。どう答えたらいいか考えていると、そのことが自分の中に根付いてくるのです。」

サーリ氏によると、こうした集団的な内省の場から生まれた100日間プランが、グルンドフォスの組織改革のスピードアップに重要な役割を果たし、新組織発足からわずか9か月で社員のエンゲージメントと顧客満足度を過去最高レベルにまで高めることに成功したという。

誰もが自ら考えた質問をすることで、その影響力は確実なものとなる。

3. 日常会話に問題を定着させる

集団的知性を活用するには、内省が社員の日常的な関心事から切り離された「メタ」エクササイズであってはならないと認識することだ。全世界で19,000人の社員を抱えるグルンドフォスのような規模の企業にとって、このような内省を実現するには、会社の最も重要な問題を解決するために人々がバーチャルでも協力し合えるような技術ソリューションが必要だった。それは、3つのステップで構成された。

ステップ1: リーダーシップは戦略的方向性を定めるものであり、全員参加型である

世界クラスの学習組織になるという戦略的目標の一環として、グルンドフォスは学習アンバサダーのネットワークを広げたいと考えていた。あらかじめ決められた質問を80人ほどの既存のアンバサダーに配信する代わりに、3人のトップエグゼクティブからなるスポンサーチームが、このトピックについて話し合うデジタルでの会話の場に社員全員が参加するよう呼びかけた。

ステップ2: 社員が1対1でQ&Aを交わす

参加した670人の社員とリーダーたちは、参加者が同僚にオープン・クエスションするよう促すプラットフォームを活用した。何を質問するか、誰に質問するかは、参加者それぞれが決める。唯一のルールは、その場のトピックに関連した質問であること。参加者はそれに答え、また別の参加者に質問をする。このQ&Aリレーは数日間続くので、時間帯やスケジュールが異なる人たちも参加ができる。グルンドフォスは、対話の場をこのようにすることで、社員の日常業務や会話の中に、集団的な内省の場を作り出した。

ステップ3: 会話・行動データを分析し、共有する

参加者は、5日間で合計1,195の質問と905の回答を交わした。(回答後に新たな質問がされたため、回答数に差異がある)。これは、従来であれば少数の担当者にしか扱われなかったような戦略的なテーマについて、2,100ものユニークな意見が寄せられたことになる。質問の種類、キーワードの頻度、チーム内の質問の分布などの会話データは分析され、その結果をナビゲートするAIツールとともに参加者に共有された。その結果、どのチームがどのチームに質問しているかがわかるネットワークの可視化や、チーム間で浮上した主要なトピックを参加者が探索できるインタラクティブな語群作成が可能となった。

オリジナル記事より抜粋翻訳》

これらの結果を総合すると、社員にとって何が重要で、どのような質問をするのかが見えてきた。「この世界には、すべての答えを知っている人は一人もいないのです」とサーリ氏は説明している。「しかし、グルンドフォスの社員のような大きな集団の中には、いくつかの質問に対しては答えを持っている人が存在します。そして、社員同士がつながりを作り、経験や学びを共有し、お互いが共に前進できるような場を作ることで、集団的知性を活用することができるのです」。

4. データを活用し、全員が同じ目標に向かっていることを確認する

グルンドフォスが行ったようなQ&Aリレーで収集したデータは、大勢の社員が何を重要視しているのかについての洞察を与えてくれる。
彼らが何を質問し、どのように回答したかを比較することで、何が進捗を助け、もしくは何が進捗を妨げているかをよりよく理解することができる。

たとえば、グルンドフォスが学習のための対話から収集したデータ(上の語群の図)からは、多くのリーダーや社員が学習と社内トレーニングを混同していることがわかった。学習は仕事上の知識の蓄積であり、社内トレーニングは特定のスキルの習得を目標とするものだ。この洞察により、同社は実践的な体験学習に対する考え方を変えた。今では、リーダーも社員も、体験学習が改善とイノベーションの重要な推進力であると認識している。

サーリ氏は、こうした質問の練習をすることの利点をこのように説明する。「このようなデジタルでの内省の場を設けることで、他の方法では実現できないようなコミュニケーションや対話が組織内で育まれます。人々が質問し合い、内省し合う場を設けることで、組織内で世界に対する新しい考え方や視点を発見し、世界規模での水や気候問題に対してのイノベーションを届けることが可能になるのです」。

内省を、多忙なスケジュールの中で行うタスクの1つとしてではなく、1日の仕事の不可欠なものと位置づけることで、企業はどの場面で、どのようにビジネス上の慣習を調整していく必要があるかを理解できるようになる。そして、リーダーが「何を質問するか」だけでなく、「誰が質問するか」に焦点を当てることで、より多くの企業が成功を収めることができるだろう。


【筆者について】
ピア・ロウリッツェン(Pia Lauritzen)氏は、経営者のアドバイザーであり、戦略的アライメントを確保するためのプラットフォームを開発したテクノロジー企業、Qvestの共同設立者でもある。デンマーク出身で、哲学の博士号を持ち、リーダーシップと質問に関する複数の本を執筆しているほか、デンマーク最大のビジネス新聞「Finans」の定期コラムニストも務めている。2019年のTEDxでの講演タイトルは 「質問についてあなたが知らないこと」である。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Want to make an impact? Change your questioning habits
(2022年1月19日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。 strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
© 2022 PwC. All rights reserved. PwC refers to the PwC network and/or one or more of its member firms, each of which is a separate legal entity. Please see www.pwc.com/structure for further details. www.strategy-business.com. Translation from the original English text as published by strategy+business magazine arranged by COACH A Co., Ltd.


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※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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