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今、取締役会が直面すべき事業継続へのリスクとは?
2022年05月24日
取締役とは、大きなリスクを伴う職務であり、私たちが現在直面している混乱、変化、挑戦の時代においては、更にリスクにさらされている。取締役会の重要な責務の1つは企業リスクのマネジメントだが、現在の環境ではリスクの性質自体が劇的に変化している。それゆえ、多くの取締役会では、パンデミックの影響を受けた現在の状況における事業の継続と成長を確保するための新たな基準を満たすことができず、時代遅れのビジネスリスクに焦点を当てたままになっている。そして、2020年3月、私たちが知っている職場は、会社のシャッターを閉め、一晩でバーチャルになったことで、その状態を超えるためのハードルは、取返しのつかないほどに引き上げられてしまった。
何が変化し、なぜそれが取締役会に重要なのか?
リモートワークへの突然の移行と、それに伴う変化、課題、さらにそれが転じてチャンスとなるケースなどが、職場文化に多大な影響を与えたことは周知の事実だ。いまやあらゆる労働環境で広がっている大退職は、変化の中でも最大級のものである。これは、多くの従業員にとっては、追い風になっている一方で、多くの業界において企業の成長計画や生き残り計画さえも体系的に覆すことになっている。ハイブリッドな働き方のモデルを運用し、ビジネスを継続させ、成長課題を達成しようとする中で、世界中のリーダーシップチームが、従業員のエンゲージメントと離職率、人材維持と育成、インクルージョンとコラボレーションに新たに焦点を当てようとしている。かつて、企業文化とは、人事やリーダーが管理する「わが社のやり方」というものだと考えられていたが、今では、それが企業戦略における最重要課題となっている。企業文化を経営層が正しく理解し、あらゆるレベルで必要な人材を確保・育成することが、企業の将来を左右するのだ。
このことは、取締役会が事業に対するリスクを理解し判断する際に、どこに焦点を当てるべきかが大幅に変化してきたことを意味する。取締役会はこれまで、監査リスク、風評リスク、サイバーリスク、そして企業価値に対するリスクに焦点を合わせてきた。今日では、取締役会の議題には、事業の発展とその価値に対する深刻な破壊要因として、企業文化リスクと人材リスクが含まれていなければならない。多くの場合、企業文化リスクこそが、最も重要な事業継続リスクの一つである。なぜなら、ますます多くの従業員が自分の意思で行動するようになり、企業はエッセンシャルワーカーや、優秀な人材を失っているからだ。従業員の価値提案が十分に反映された「より健全な文化」を持つ企業に彼らが転職してしまうことは、彼らが勤めていた企業にとっては知識、生産性、士気の流出、そして成長の低下を意味するのだ。
企業文化の担い手としての取締役会
取締役会がCEOや彼ら同士で何を話し合うべきなのか、彼らの新しい役割を果たすためにどのような組織にするのか、さらに、そこでの円滑な議論はどのように創出できるのかなど、取締役会自体が、様々な形で変化が求められている。以下の3つのシフトは、会社をどのように導き担っていくのかを考える際、取締役会の役割として不可欠なものであると認識して欲しい。
- 企業文化について話し合う
私たちが関わる取締役会、特に先進的な取締役会では、役員同士で、そしてCEOに対して、次のような質問をするようになってきている。「離職率が上昇しているとしたら、それはなぜか」「従業員エンゲージメントのスコアは何を示しているのか?」「透明性の高い文化については、どのように評価されているのか?」」「ハイブリッドなワークスタイルにおけるエンゲージメントとコラボレーションをサポートするために、どのような手段が現状とれているか?」「CEOや役員の報酬と企業文化はどのように関係しているのか?」「なぜ、このような施策を自分達は採用しているのか?」
これまでの取締役はこのような議論から遠ざかっていたが、今こそ真剣に踏み込むべき時だ。 - 人材戦略を中核的な責務とする
従来の取締役会の体制では、企業文化や人材リスクについて重要な話をする余地がなかった。多くの取締役会では、人材に関する話は後継者育成の話題に限定され、トップレベルのリーダーの「交代計画」に焦点が当てられている。企業文化に基づく人材リスクへの検証は、取締役会レベルでは明確な説明責任を持たず、CEOやCHRO(最高人事責任者)に任されることが多い。たとえこの議題が提起されるとしても、報酬委員会や指名・ガバナンス委員会においてのみ取り扱われがちだ。しかしながら、企業文化リスクはこれらすべての領域にまたがって存在するため、その責任のありかが不明確である。このリスクを、委員会の垣根を越えてつながり、必要な視点を確保することができるヒューマンキャピタル委員会の仕事であるととらえ直すべき時なのだ。 - 外部の知識や見識を取り入れる
多くの取締役は、複数の取締役会に出席しており、他の組織で行われている職務についてより広い見識を持っている。彼らは、CEOや取締役との対話を通して、そのような知識や見識を共有することができる。取締役は、伝統的なサイロ化した委員会の外に身を置く必要があり、知識を共有する受託責任を持つまでではなくても、それがうまく行きわたることを意識することが求められる。そのためには、議長や執行委員会がお互いの関わりを促進し、取締役全員が重要な対話の場に参加していないと、情報共有の機会を逸する可能性があることを認識する必要がある。
次の取締役会で問うべき企業文化についての5つの質問
取締役会が企業文化を重要な優先事項として取り組んでいるかどうかを確認したい場合、次の5つの質問を次の取締役会の議題に追加してほしい。
- 取締役会において、どのように企業文化リスクの検証に取り組んでいるか?どうすれば、そのための対話を持つことができるか?
- CEOとマネジメントチームは、自社の労働力の動向とリスクについてどの程度把握しているか?エンゲージメントや人材に関する指標はどのようなもので、どのような傾向があり、どこに問題があると認識しているか?
- CEOとマネジメントチームは、事業継続を担保するために、企業文化のリスクを管理し軽減するためにどのような計画を立てているか?
- その計画を支援し強化するために、取締役会として何ができるのか?取締役個々人としては、どうか?
- 企業文化リスクへの取り組みを定着させるために、私たちはどのように仕事の進め方を再構築する必要があるか?
取締役会の一員として、もし大退職時代による影響を認識せず、人員計画や働き方の変化が事業継続にどのような影響を及ぼしているかについて、経営陣に積極的に質問したり支援したりしていないとすると、会社の戦略や長期的価値への重大なリスク領域を見逃すことになる。今後、企業文化は、企業の健全性、競争力、繁栄の機会に対する唯一最大のリスクとなるだろう。
【筆者について】
リサ・スプレンクル(Lisa Strencle)氏は、非営利団体からフォーチュン100のグローバル企業まで、さまざまなクライアントと協力し、組織にプラスの影響を与える優れたリーダーや効果的なチームを育成している。取締役会やシニアリーダーと緊密に連携し、リーダーシップのニーズと戦略の整合性、そのギャップの特定、適切なリーダーシップを確立するためのプロセスの導入に取り組んでいる。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Is Your Board Managing the Newest Continuity Risk
(2022年2月17日にBatesのResearch and Resourcesに掲載された記事の翻訳。Bates Communications Inc.の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Article translated with permission of © Bates Communications 2022
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